とある魔族の成り上がり

小林誉

第130話 街へ 

「そろそろ小さい街ぐらいなら落とせる戦力が整ったかも知れない」


一旦大森林まで戻ってきた俺達は、食料や爆弾などを補給し、負傷者の手当を行った。俺とラウは肩をやってしまっているし、ファルシオンはラウの矢で足を、ランケアは至近距離で爆発の衝撃を受けたために、全身に傷を負っていたからだ。


シオンにそれらの負傷を癒やしてもらいながら次をどうするか相談していたところ、ケニスがそんな事を言い出した。


「街って……たとえばどの程度の規模の?」


いきなり大きな事を言い出したケニスを俺は胡散臭げに見る。コイツは頭が良いくせに、時々変な事を言い出すから話を鵜呑みに出来ないんだ。


「そうだね。住民の数が千人規模の街なら、今の戦力でもいけるんじゃないかな? 千人の街なら守備兵の数は十分の一ぐらいだろう?」
「今の俺達の戦力は――」
「全部で五十人ってところだ。でもこの中にはスキル持ちが多数いるし、爆弾なんて武器もある。恐らく正面からやり合っても負けないと思うよ」


ヴィレジやコション、そして今回支配下に組み込んだアードラー三兄弟の村から戦力を抽出すれば、確かにケニスの言う五十人は集められる。その中でもスキル持ちが十人居る。留守番役のシオンと戦闘向きで無いイクスを除いても八人だ。確かにこれだけスキル持ちが揃えば、ちょっとやそっとの軍隊など蹴散らせるかも知れない。


「新参者の俺が言うのも何だが、ケニスの考えは正しいと思う」


今の発言をした者に目を向けると、そこには我が家のように寛いでいるグラディウスの姿があった。彼等三兄弟は自分達を下した集団の首領が俺だと知った時随分驚いていたようだが、目立った反応はその時だけで、後は特に嫌悪感を露わにすることも無かった。グラディウスはまだ思慮深いものの、ランケアとファルシオンは遠慮というものを知らないらしく、大森林の中に造られた俺達の拠点をあちこち見回しては感心していたものだ。


「そう言い切るには何か根拠があるのか?」
「ある。俺達の村の近くにケニスの言う小規模の街があるんだが、そことは普段からやり取りをしているのでな。あそこの兵隊達には時々剣の稽古をつけてやっているのだ。だから連中の実力はよく知っているし、あそこの領主にはしつこく配下になるよう勧誘されている」


なんだ。こんな所に内情を詳しく知っている奴がいたのか。流石のケニスもグラディウスがそこまで食い込んでいたとは思わなかったらしく、呆気にとられたように固まっていたのだが、すぐに気を取り直したようだ。


「だったら悩む必要はないね。一気に乗り込んで連中を蹴散らしてしまおうよ」
「いや、その必要はないだろう。正面から堂々と乗り込んで威圧すれば、さしたる抵抗もなく街を支配下におけるはずだ」


どうやらグラディウスは相当な自信があるらしいな。ここは新たに仲間になった彼等三兄弟に任せるべきだろうか? 意見を求めるように周囲を見回してみたが、ケニスを始めとして誰も反対意見はないようだった。


「よし。それじゃグラディウスの言うとおり正面から堂々と乗り込もう。お手並み拝見だな」
「任せてくれ。俺達を仲間にして良かったと思わせてみようじゃないか。なあ、お前達」
「当然だ。仲間になったからには全力で働かせてもらおう」
「おうよ! 俺達に任せとけって!」


自信満々な三兄弟に頼もしいものを感じつつ、俺達は次の目的地である街を目指した。


§ § §


「なかなか大きな街だな」
「ディマンシュやラビリントに比べれば見劣りするが、それでも我々の村とは比較にならない大きさだな」
「千人近い魔族が暮らしてるんだ。そりゃこれぐらい大きくて当然だろうね」


リーシュやケニスの言葉を聞き流しながら、俺は周囲を観察していた。立派な市壁に囲まれた街に辿り着いた俺達は、門番に咎められることも無く、無事中に入り込むことが出来た。それもこれも先頭を歩いていたグラディウス達のおかげだ。彼等の顔を見た途端、門番を務めていた兵が直立不動の姿勢になり、平身低頭して俺達を通してくれた。普段一体どんなしごきをすればああいった態度になるのか気になるが、街の様子を見る方に意識を取られてすぐに忘れてしまった。


魔族の街は南にある火山帯以外入ったことの無い俺にとって、とても新鮮で興味深いものだ。魔族領だけあって、通りを歩く人間はほとんどが魔族で占められている。中には獣人などの亜人や少数の人族の姿もあったが、そのほとんどが首輪を着けられていたので奴隷で間違いないだろう。


通りには様々な商店や露店が並び、行き交う人々の喧噪が外に聞こえてきそうなくらい街は活気に満ちている。


「ここを俺達のものに出来れば、一気に戦力強化が捗るな。兵隊は勿論、経済でもかなり助けになりそうだ」
「とりあえず領主の城へ向かおう。ひょっとすると俺達が居れば戦闘を回避できるかも知れないしな」


グラディウスらアードラー三兄弟を先頭に、俺達は城を目指して歩き始めた。





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