とある魔族の成り上がり

小林誉

第128話 不自然な動き

――ケニス視点


それほど有名では無いものの、過去の英雄であるアードラーの戦闘力は比類無く強力だったと書物に記されている。その一族に連なる者だけあって、彼等三兄弟は予想通り強かった。三人が三人ともスキル持ち。しかも実戦向きの強力なやつだ。


ケイオスとラウの二人組が勝利できたのは爆弾のおかげと言っても過言じゃない。あれがなければ打開策など思いつく暇もなく、自力で劣る二人は一方的になぶり殺しにされていたはずだ。


シーリとグラディウスの戦いに目を向ける。僕が見たところ腕前は互角。早さならシーリ。力ならグラディウスが勝っているようだ。変幻自在の動きで隙を突こうとするシーリの攻撃を、グラディウスが一撃一撃の威力をもってシーリの体勢を崩し、追撃を防いでいる形だ。しかし、いつまでも同じ状態は続かないようだ。武器に差は無いように思えるけど、徐々にシーリが押してきている。


「くっ! なぜ、これだけ動いて速さが維持できるんだ!?」
「ケイオス様のご期待に応えるために決まっているでしょう! 疲れなど感じるはずがありません!」


焦りを濃くするグラディウスと違い、シーリは疲れた様子を一切見せない。そんな様子を眺めながら、僕はそっとため息を吐いた。


シーリはケイオスの持つスキル『支配』の影響下にあるため、彼のためなら死をもいとわない狂信者に成り果てている。確かめたわけじゃ無いけど、たぶん彼が死ねと命令したら喜んで首を掻き切るだろう。疲れさえ無視してケイオスのために戦い続ける彼女と比べると、身体の自由はともかく、自分の意思がハッキリしている奴隷の方がマシかも知れないと思わないでもない。


頭を振って余計な考えを追い出し、再び戦いを注視した。


シーリの持つスキル『衝撃』を何度か浴びているというのに、グラディウスはその場で昏倒する事も無く、シーリと剣を交わしている。あれをまともに食らったら、普通の人間だと立っている事もままならないはずなのに。恐らくそこに彼のスキルが関係しているのだろう。


実際、シーリの剣は何度か彼の体を傷つけているにも関わらず、彼は負傷など無いように動き回っているのだ。よく観察してみると、さっき受けたばかりの裂傷が完全に塞がっていた。


「治癒能力……それもかなり強力な」
「そのようだな。あれほどの腕前の男に治癒能力まで備わっていたら、本来は誰も敵わなかったかも知れない」


ポツリと漏らした僕のつぶやきに、横で観戦していたリーシュが答えた。彼女はケイオスとラウの戦いの時、彼等が危なくなる度にやきもきしていたみたいだけど、シーリの方は黙って眺めているだけだ。それだけ信頼していると言う事かな?


「それでも勝つのはシーリだと?」
「当然だ。アイツはケイオスの為に疲れを忘れたとか言ってるが、そんな事は不可能だ。どんなに頑張っても体力の限界はある。気力で補えるのはその先の僅かな差に過ぎない。あれが剣を振り続けられるのは、単に体力が並外れているだけだ」


リーシュの言葉に驚きつつも、僕は何となく今の話に納得出来てしまっていた。シーリは確かに普段から元気だ。行軍や戦闘で疲れていても、ケイオスの世話を焼こうと色々と動き回っているし、いつ寝ているのかと聞きたくなるほど寝ている姿を見た事がない。


「現にこれだけ動いて息の乱れも無い。しかし凄いな。まるで何かスキルの影響でも――」


言いかけて、自分の言葉にハッとするリーシュ。まさか、あの無限とも思える体力がスキルの恩恵だと言うのだろうか?


「スキルなら……説明はつくのか? いくら何でもこれだけ動き回って息切れしないのは不自然すぎないか? しかしシーリは――」
「シーリの持っているスキルは『衝撃』とだけ聞いているね。彼女がケイオスに嘘をつくとも思えないんだけど……もしかして?」
「何か気がついたのか?」


リーシュの問いに頷く。


「ひょっとしたら……彼女は内緒にしているんじゃ無くて、聞かれてないから答えていないだけなんじゃないかな?」
「まさか……そんな事ありえるか?」
「考えてみなよ。シーリは直情型の性格で、馬か……じゃなかった。あまりものを考える人じゃ無いだろう? 聞かれてない質問は知らなくてもいい事として捉えていても不思議じゃ無いと思うよ」


ケイオスとシーリの出会いをそれとなく聞いた事はある。確か、夜襲をかけてきた彼女を返り討ちにして、支配のスキルで従わせたとか言っていたっけ。でもその時、ケイオスが吸収のスキルを試したと言う話は聞いていない。仮に彼女が二つ以上のスキルの持ち主――つまりケイオスやシオンのようなユニークスキルの持ち主だった場合、この無尽蔵とも言える体力の説明がつくような気がする。


僕らが考察している最中でもシーリの猛攻は止まる気配が無い。グラディウスのスキルは彼の体を癒やし続けているようだけど、負傷する箇所の方が多いのか、全身から出血し、今にも倒れそうなくらい息を荒らげていた。限界が近いグラディウスにシーリが勝負を仕掛けるように渾身の一撃を叩きつけると、ついに彼は耐えきれなくなったのか、武器を取り落としてその場に膝をついてしまう。


「勝負ありです!」
「ま、まいった……」


三兄弟が敗れた事実に村人達が悲痛な声を上げている。やれやれ。なんとかこちらの勝利に終わったか。一時はどうなる事かと思ったけど、丸く収まって何よりだよ。


「でもまぁ、とりあえずシーリの事を調べないとね」


勝負がついた途端、負傷したケイオスの側に駆け寄って傷の心配をするシーリを見つめながら、僕はケイオスにどう説明するか頭を捻っていた。



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