とある魔族の成り上がり

小林誉

第127話 連携

「くっ!?」


目の前にいたファルシオンの姿が揺らいだ瞬間、嫌な予感がした俺は咄嗟に身を捻る。すると俺の目の前を猛烈な勢いでファルシオンが通り過ぎていった。ラウも同様に回避行動を取ったようだが、狙いは俺だけのようだ。大剣がかすった頬が裂けて血が滴っている。クソッタレが……! 全然見えなかった!


「よく避けたな。だがマグレは何度も続かんぞ」


余裕綽々と言った態度のファルシオン。今ランケアに追撃されたら詰んでいたはずなのに、なぜか奴はさっきから動こうとしない。槍を構えて警戒しているだけだ。何か理由があるのかと思ったが、再びファルシオンの姿が揺らいだので慌ててそのばを飛び退く。すると、今度も俺が立っていた場所を凄まじい速度で奴が通り過ぎていった。また避けられた! 運が良い! それに、今ので何とか対策を立てる目処がついた。奴め、スキルを発動する時必ず前兆があるぞ。


「ラウ! 奴の姿が揺らいだ時がスキルを発動する時だ! とりあえず身を躱せ!」
「わ、解ったわ!」


前兆さえ解ればどうとでもなる。とりあえず左右に回避すれば半々の確立で避けられるのだから、もうファルシオンのスキルは驚異じゃないはずだ。しかし、奴は弱点が露呈したというのに少しも慌てた様子がない。相変わらず余裕の笑みを浮かべたままだ。疑問に思った俺が考える暇もなく、再びファルシオンの姿が揺らめく。


「当たるか!」


俺は全力でその場を飛び退く。これで回避成功――と思った次の瞬間、俺は強い衝撃を受けて吹っ飛ばされていた。一瞬だけ宙を舞い地面へと落下する。勢いを止められず、何が何だか解らないまま地面の上を転がっていった。やっと止まったと思った途端、胸に鈍い痛みが走る。


「ぐっ……ゴホッ! 一体何が……? 避けたはずなのに」
「馬鹿かお前は。自分のスキルの弱点ぐらい俺が一番良く知っているんだぞ。相手が避けると解っていれば、あらかじめ左右どちらかに加速すれば良いだけだ。もっとも、今のは仕留め損なったがな」


胸の痛みが治まらない。鎧を着ていたために打撲程度で済んでいるが、これが生身だったら死んでいたかも知れない。しかしこの痛み……骨にヒビでも入っているのか? 呼吸が苦しいぞ。


「次は避けられるかな?」
「舐めるな!」


ファルシオンの姿が揺らいだ瞬間、俺はその場を飛び退き、代わりに高温の炎を前面に放った。これならどこに突撃されようがファルシオンは火だるまになるはず。しかし、俺の目論見はもろくも崩れ去る。なぜなら俺の放ったスキルは、放出した途端霞のように消え去ったからだ。


「な――」
「遅い!」
「ケイオス――くっ!?」


いつの間に近寄っていたのか、体当たりするように飛びついてきたラウと俺はその場に倒れ込む。ラウは今の攻撃で抉られたのか、肩から出血している。彼女が普段身につけている革製の肩当ては引きちぎられ、草色の服は血の色で赤黒く染まっていた。


「なんでスキルが……まさか!?」


さっきから動かないランケアと急に使えなくなったスキル――この二つに何か繋がりがあると感じた俺は、ハッとして彼を睨み付けた。それに気づいたランケアは唇の端を歪める。


「気がついたか? いかにも。今のは俺のスキル『範囲無効:弱』だ。俺の任意の空間に限って、発動されるスキルを無効化できる。つまり、お前達の炎や風はもう使えないってわけだ」


厄介な……! 俺は思わず唇を噛みしめた。しかし、今のランケアの発言はこの状況を打開する手がかりになった。本人は気づいていないようだがな。俺は腰にぶら下げていた爆弾を一つ手に取り、後ろ手でこっそりとラウに手渡す。


「ケイオス?」


俺の意図がわかったのだろう。ラウは僅かに頷くと、爆弾を手に走り出した。


「む!?」


俺達の狙いがわからないランケアは、何事かと武器を構えてその場に留まる。そこにラウが素早く矢を放った。矢の先端には、たった今俺が手渡した爆弾が括り付けてある。導火線はバチバチと火を放ち今にも爆発しそうだ。


「俺達にただの矢が通用すると思うか!?」


ランケアが手に持った槍を振るい、飛んできた矢をたたき落とした次の瞬間――ランケアの至近で爆発が起きた。


「ぐああぁっ!?」
「兄貴!?」
「隙ありだ!」


吹っ飛ばされるランケア。慌てて振り向いたファルシオンに向けて、俺は手の平からすかさず炎を放つ。目前に迫る炎の奔流に目を見張ったファルシオンが咄嗟に身を躱したが、そこにラウの放った矢の第二射が命中した。


「ぐう!?」


矢は狙い違わずファルシオンの足を貫いている。これで高速移動など出来まい。何とか狙い通りに事を運べてほっと一息つく俺とラウ。見れば、至近距離で爆発を受けたランケアと足を射貫かれたファルシオンは、痛みに顔をしかめてはいるものの元気なものだ。流石に戦い慣れているだけ合って頑丈に出来ているらしい。


「今のは……なんだ?」


身を起こしながら悔しげに問いかけるランケア。二人はもう戦う気は無いようで、武器を放り出して座り込んでいる。


「爆弾と言う俺達の新兵器だ。スキルなら防がれたかも知れないが、爆弾はただの武器だからな。スキルなど関係無くお前達を攻撃出来る」


スキルは確かにかき消された。しかし、一瞬でも火がつくのは確認できたので、俺は咄嗟に爆弾を使う事を思いついたのだ。導火線に火をともす事さえ出来れば爆弾は使える。後はラウがそれを括り付けて矢を放ちランケアを排除する。スキルの無効化さえなくなれば俺のスキル『火炎:強』でファルシオンを牽制すれば良い。ランケアを排除した時点で二対一。足止めさえ出来ればラウが仕留めてくれるのは解っていた。しかし、咄嗟の判断だったのにラウはよくやってくれた。火のついた爆弾を手渡された時、若干顔が引きつっていたが、焦らず冷静に行動してくれて助かった。


「なぜ……その武器で俺の方を狙わなかった?」


動かないランケアよりも、攻撃一辺倒のファルシオンを先に倒した方が楽かも知れない。しかし、俺は端からファルシオンを狙う気など無かった。


「お前に爆弾を投げつけたところで避けられる可能性の方が高い。しかしランケアは絶対に避けられないだろう?」
「なぜそう思う?」


ファルシオンの後で言葉を続けたランケアに、俺は苦笑を浮かべた。


「簡単だ。お前、スキルを使っている時は動けないんだろう? じゃなきゃファルシオンと一緒になって俺達を攻撃していたはずだ。スキル持ちと戦う場合、ファルシオンが攻撃、ランケアが防御を担当していたんじゃないのか?」


驚いたように顔を見合わせる二人。そこに悔しそうな感情なく、からりとした笑顔を浮かべていた。


「まいったな。あの一瞬でそこまで見抜かれるとは」
「大したもんだ。武器の助けを借りたとは言え、俺達兄弟を倒すんだからな」


チラリと視線を横に向ける二人の兄弟。つられて俺もそっちを見ると、シーリとグラディウスの戦いも決着がつこうとしていた。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く