とある魔族の成り上がり

小林誉

第126話 戦闘開始

俺達の中で腕が立つのは誰か考えてみた。文句なく一番なのはシーリだろう。スキル抜きに考えても彼女の剣の腕はずば抜けている。ハグリーやレザールなら二人がかりでも勝てないはずだ。相手がスキル持ちでなければ彼女一人でも勝てるかも知れない。一人は確実にシーリとして、後の二人に頭を悩ませる事になった。


現在、仲間のスキル持ちを確認してみると、俺、ケニス、ルナール、リーシュ、ラウだ。ケニスは自分の対する攻撃を防ぐスキル持ちだが、剣の腕は正直期待できない。いかにも学者然とした彼は直接戦闘は極力避け、後方での司令塔役を自らに課している節がある。今回の言い出しっぺではあるものの、参加しろと言っても拒否するだろう。


ルナールは身のこなしも素早く戦闘向きだが、一対一の戦いには向いていない。彼女に分け与えた氷の矢のスキルを使えば牽制役に徹する事も出来そうだが、それだけだと筋骨隆々に男相手には厳しいものがある。リーシュも同様だ。彼女の持ち味は翼を利用した一撃離脱戦法であって、地上で戦うとその大きな翼が邪魔になる。


「となると……」


俺はチラリと二人の人物に視線を向ける。一人はリン。シーリと互角とは言わないまでも、彼女の腕前はかなりのものだ。スキル無しでも奮戦してくれるかも知れない。しかし、気になるのは反抗心の強さだ。この大事な時に手を抜かれては残り二人が善戦してもこちらの負けが決まってしまう。なので却下だろう。


最後の一人に視線を向けた。ラウだ。一時期俺との関係が最悪になっていた彼女だが、今は打ち解けているし、多少なりとも信頼の置ける人物だと思っている。エルフだけ合って弓の腕前は確かだし、身のこなしも素早い。俺の与えた暴風スキルを使いこなせば奴等の動きを止める事も出来るだろう。


「よし。じゃあ戦うのは俺とシーリ、それからラウだ」
「はい!」
「!?」


元気よく返事をしたシーリはともかく、ラウは自分が指名されると思っていなかったのだろう。びっくりしたようにこちらを見ている。


「ちょ、ちょっとケイオス! 私が参加するの!?」
「ああ。悪いが一緒に戦ってもらう」
「だって私は弓しか持ってないのよ!? 後ろから援護するならともかく――」
「まあまあ。その辺は考えてる。ちょっと耳を貸せ」


そう言いつつ、俺は彼女の大きな耳に顔を近づけささやいた。息が当たる事に顔を真っ赤にしながらむず痒がっていたラウは、俺の言葉を耳にした途端真剣な表情になる。


「……正気なの? そんな事をしたら、仲間に取り込むどころか死ぬかも知れないのよ?」
「それ以外に勝つ方法が思いつかん。正直奴等は俺の予想以上に強そうだ。シーリならともかく、俺や他の連中じゃ一対一になるとキツいだろう。最悪奴等が死んでも村さえ手に入れば良い」


本末転倒も良いところだが、俺達が死んでは意味がない。それぐらいなら相手を殺した方がマシだ。いまいち納得のいっていないような表情のラウは渋々弓を取り、後方へ下がった。


「どうやらそちらの面子はその三人のようだな。ふむ……。人族にハーフにエルフか。大方魔族の先兵を務めるために連れてこられた奴隷なのだろうが、手加減はせんぞ」


勘違いも甚だしいが、俺達の見た目だけを見たらそんな誤解をしても無理はないだろう。
黙って武器を構える俺達に応えるように、三兄弟も身構えた。


静寂が訪れた。ランケアとファルシオンはその場で留まり力を溜めているように見える。まるで主の命令を待つ猟犬のようだ。グラディウスが動けば彼等も同時に動くのだろう。仲間と村人達が固唾を飲んで見守る中、不意にグラディウスが動いた。それに反応したシーリが迎え撃つように飛び出す。


それと時を同じくしてランケアとファルシオンが俺目がけて突っ込んできた。速い! シーリ程ではないが、俺程度が相手なら一瞬で距離を詰めて首を刎ねられたに違いない。しかし、そうはならなかった。あらかじめ奴等の狙いを絞っていた俺は、戦いの開始前ラウに指示を出しておいたのだ。


「殺った!」
「そうはいくか!」


突如として俺の背後から猛烈な突風が吹き付ける。それは俺を避けるように回転しながら、目前に迫っていたランケアとファルシオンの動きを止めるのに十分な威力だった。


「な、なんだこの風は!?」
「くらえ!」


ラウのスキル『暴風』に合わせるように、俺は正面に手をかざしてスキルを発動させた。『火炎:強』から生み出された高温の炎は回転しながら二人に迫り、その体を一気に飲み込んだ――かに見えたが、二人の姿は一瞬にしてその場からかき消える。慌てて視線を左右に飛ばすと、いつの間にか移動した二人の姿があった。


「あっぶね~! こんな隠し技を持ってたなんてな。消し炭になるところだったぜ」


ファルシオンはランケアの腕を取ってあの場を脱出したようだ。彼等の体からはブスブスと煙が上がり、あちこちに火傷をしている。まったくの無傷でもないらしい。一体どうやって逃れた? 普通の動きなら絶対に避ける時間などなかったはずだ。


「スキルか……」
「そう言う事だ。今のは俺のスキル『高速移動』で逃れたのさ。言っておくが同じ手は二度と食わん。覚悟するんだな」


初手で俺とラウのスキルを使い、最大の威力をもった攻撃で敵の戦力を減らす――その目論見が外れた事に俺は奥歯を噛みしめる。敵のスキルが判明したのは良いが、事態は何も好転していない。あの速度で突っ込んでこられたら、今度こそ避ける暇もなくやられてしまうだろう。


油断なく武器を構えながら、俺はこの場をどう乗り切るべきか、焦りを隠せなかった。





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