とある魔族の成り上がり

小林誉

第125話 アードラー三兄弟

準備を整えた俺達は完全武装でコションの言う村に向かっていた。地図を確認しつつ慎重に進んで行く。ちなみにコションは自分の村から出ていない。贅肉で肥え太った体で戦闘力は期待できないし、ついてきても邪魔になるからだ。


目的の村はコションの村から徒歩で三日と言ったところだった。ペガサスで乗り込む事も考えたのだが、乗れる人数がせいぜい10人程度では流石に戦力が少なすぎるので却下した。空からの偵察はリーシュが居るので十分だ。


二度ほど野営し、翌日の昼前になって、ようやく目的地の村へと辿り着いた。いきなり大勢で押しかけた俺達を見て、村人の何人かが血相を変えて奥へと走って行く。恐らくコションの話にあった一族に報告しに行ったのだろう。わざわざ向こうから来てくれるというのだから、俺達は村に入らずそのまま入り口前で待機する事を選んだ。村を支配下に置きたいからと言っても、いきなり無差別攻撃するような真似はしない。村人は貴重な労働力であり戦力だ。まず話し合いで取り込めるならそっちを優先すべきだろう。


しばらく待っていると、妙に体格の良い三人の男を先頭にした武器を手に持った集団が、駆け足でこちらに向かって来るのが見えた。そして彼等は俺達から少し離れた位置に立ち止まり、それぞれが警戒心も露わに武器を構える。武器と言ってもその大半が鍬や斧などで、とりあえず戦いに使えそうなものを持ってきただけのようだ。そんな今にも飛びかかってきそうな村人達に待つようにと手で指示し、先頭に居た三人の男達が更に前へと進み出た。一番年かさの男が三人の代表格なのだろう。静かな口調で質問を投げかけてくる。


「お前達。何の目的でこの村へやって来た?」


背後に居るみんなの視線が自然と俺に集まる。俺は一つ咳払いをすると、男と同じように前に進み出た。


「大体察していると思うが、俺達の目的はこの村を支配下に置く事だ。と言ってもいきなり武力制圧する気は無い。大人しく傘下に入るのなら他より優遇する用意もある。すぐに返答する必要はな――」
「断る」


短く吐き捨てた男の言葉に、一瞬言葉が止まってしまう。まだこちらが喋っている途中だというのにこの態度。取り付く島もないとはこの事だ。俺が呆気にとられていると、男の背後に居た残りの二人が大声を張り上げる。


「お前等、ここがどこだか解っているのか!?」
「アードラー様に連なる一族が支配する地だと知って、そんな寝言をほざいているのか!?」


先頭に居る男と違い、どうやらこの二人は血の気が多いらしい。それぞれが大剣と槍を構え、いつでも飛びかかれる姿勢を維持している。こちらが妙な動きをすれば躊躇なく攻撃してくるだろう。


「アードラーの血脈がこの村に残っているのは聞いている。お前達がそうなのか?」
「いかにも。我等三兄弟はアードラー様の末裔。私が長兄のグラディウス。右隣が次男のランケア。左隣が三男のファルシオンだ。お前達の目的は理解したが、我等が傘下に入る事はない。話し合いなどするつもりもないし、どうしてもと言うなら、力を示して我等を屈服させてみせろ。我等は自分達より弱い者に従うつもりはないのだ」


三人の中で一人だけ冷静なのが長兄のグラディウスという男らしい。歳は30前後だろうか? 力の強い魔族らしく、頭からは角が二本生えている。両刃で飾り気のない剣を片手に持ち、特に緊張した様子もなく自然体な態度でそこに立っているが、まるで隙がない。修羅場をくぐってきた俺には解る。この男は強い。向かい合う三人の中で一番強いはずだ。


ランケアと言う次男は槍の使い手のようだ。こちらはグラディウスと違い、飾りなのか槍の穂先にいくつもの布がぶら下げられている。体格的にはグラディウスより少し小柄で、三人の中では一番小さい。歳は二十代半ばに見える。鋭い目つきに頭から生えた一本の角が特徴的な男だ。


三男のファルシオンはランケアより少し年下だろうか? 人の背丈ほどある大剣を肩に担ぎ、鋭い眼光で俺達を睨み付けている。ランケアと同じく、頭部からは一本の角が生えている。三人の中では一番大柄で、ハグリーに匹敵するほど筋骨隆々だ。その膂力から繰り出される大剣の一撃がどれほどの威力を持っているのか、敵として知りたくはないと思った。


観察してみると、やはりと言うか予想通り全員がスキル持ちだった。スキルがなくても三人とも一騎当千の強者のようだし、是非とも味方に組み入れたいところなんだが、相手には交渉する気がまるで無いらしい。ここまで来た以上大人しく去るなど論外だし、戦えばこちらにもかなりの被害が出そうだ。どうしたものかと逡巡していると、ケニスが挙手しながら口を挟んできた。


「一つ提案があるんだけど良いかな?」


優男にしか見えないケニスが出てきた事で、ランケアとファルシオンが即座に反発しようとしたようだが、グラディウスがサッと手を上げてそれを制する。一応聞く耳は持っているらしい。


「我々としても引くに引けない事情があるんだ。しかしそちらの言い分もわかる。確かに、いきなり訪れた名も知らぬ連中が配下になれと言っても納得いかないだろう。そこでだ、こんな方法はどうかな?」


ニコリと笑みを浮かべるケニスと違い、俺は何か嫌な予感がしていた。コイツ、一体何を言い出すつもりだ?


「そっちとこちら。三対三で勝負をするんだ。それなら余計な犠牲は出ないし、互いに納得がいくんじゃないかな?」
「ふざけるな! なんで俺達がそんな勝負に乗らなければならない!? お前達が大人しく去ればそれで済む話だろうが!」
「おや? ひょっとして怖いの? アードラーの子孫ともあろう一族が、挑まれた勝負から逃げるのかい? 先祖の勇名が泣くよ?」


見え透いたケニスの徴発に、ランケアとファルシオンの二人は即座に顔面を紅潮させて飛びかかってこようとする。しかし、それを制したのはまたしてもグラディウスだった。


「……良いだろう。事を荒立てたくなかったが、そこまで徴発してくるなら受けて立とうじゃないか」
「だ、そうだ。良かったねケイオス。とりあえず何とかなりそうだよ」


これのどこが何とかなっているんだ!? ――と、怒鳴りつけてやりたかったのを必死で堪える。とりあえず、いきなり乱戦になって犠牲を増やさずに済んだだけマシだろう。しかし三対三か……一体誰を出すべきか、俺は必死になって考え始めた。



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