とある魔族の成り上がり

小林誉

第120話 コションの村

以前俺がスキルを奪った男の名はコションと言うらしい。ヴィレジの話によると、現在彼は領地に引きこもり、他の領主との接近を極力避けているらしい。それというのも全ては俺がスキルを奪った事が原因だ。どうもコションという男はスキルを持っている事自体を以前から他人に誇る傾向があったらしく、その自信の源でもあるスキルが無くなった途端、彼の自信も喪失したそうだ。それ以来屋敷を出る事のなくなった彼は経営にのみ専念し、幸か不幸かそのおかげで彼の領地は急速に発展したらしい。


「もともと内政の才能があったのかも知れないね。今まではやる気が無かったのか、他にやりたい事でもあったのかはわからないけど、味方に引き込んだら後方を任せたい人物だ」
「そうだな。だが、話は本人を捕らえてからだ」


ヴィレジを加えた俺達一行は、武装したままコションの治める村に辿り着いていた。村と言ってもヴィレジのものとは大違いで、大きめの店舗がいくつか見える。恐らく魔族領内で手広く商売している商会が出した仮店舗と言ったところだろう。あんなものがある事から考えて、村から町へ規模が変わるのも時間の問題と思えた。


一般的な魔族領の街は他勢力からの攻撃に備えて、常にある程度の軍備を整えているのが常識だ。ヴィレジの村のように侵略する価値もないような田舎や、金がなくて兵隊を揃える力の無いところなら別だが。当然発展中のこの村にも少数ながら兵隊の姿が見える。三人ほどの小隊である彼等は突然現れた俺達を警戒したのか、一人をどこかに走らせ、残りの二人がこちらに近寄ってくる。


「お前達。どこから来た? 何用だ?」
「俺達はただの護衛だ。こちらのヴィレジ様がここの領主であるコションに用があってな。取り次いでもらえると助かるんだが……」


ここで戦闘を始める気は無いので、あらかじめ考えておいた嘘をつく。ヴィレジとコションが絶縁関係にあると言うのはわかっているが、それでも奴等に警戒心を与えず屋敷に押しかける程度は出来るはずだ。スキルの影響下にあるヴィレジは俺に様付けされる事を遠慮したがっていたが、上手い事言いくるめ、今は俺の横でふんぞり返っている。相変わらず頭が単純なようだ。


「……少し待て。コション様に確認する」
「お前は客をこんな所で待たせるつもりか? さっさと屋敷に案内しろ! 後でコションに怒鳴られても知らんぞ!」


とりあえず身元の確認を優先させようとする兵隊相手にヴィレジが怒鳴る。コションの返事を聞いた後だとつまみ出されるだけなので、多少強引にでも彼の屋敷に押しかけねばならない。俺達を押しとどめようと前に立ちはだかる兵を強引に押しのけ、ヴィレジを先頭に進み始める。兵隊はどうしたものかと迷ったあげく、大人しく案内する方を選んだようだ。この人数相手に戦闘を仕掛けるような無茶はするまい。


村の通りを郊外に向けて歩いて行くと、やがて俺達の視界に大きな屋敷が入ってきた。敷地はそれ程でもないが、屋敷の作りはなかなか豪華だ。みすぼらしいヴィレジの屋敷に比べると月とすっぽんだな。そう思って横に視線を向ければ、ヴィレジが悔しげに唇をかみしめていた。


「お前達! 待て! それ以上進んではならない!」


早速屋敷に上がり込もうとした俺達だったが、屋敷まであと少しの所で兵士の一団に止められてしまった。奴等は手に手に武器を持ち、その切っ先をこちらに向けている。


「コション様の命令だ。ヴィレジなる人物はこの村に入れるなとな。顔も見たくないとおっしゃっている。すぐに出て行って貰おう」


ヴィレジ……嫌われたものだな。俺が原因とは言え、少し気の毒になってくる。さて、ここからどうしようか? 兵士の数は全部で二十人ほどと、俺達より少ない。領地中からかき集めればもっと居るのだろうが、生憎今この時、この村に駐留しているのは正面に居る彼等だけのようだ。数は俺達の方が上。そして見た限りスキル持ちも居ないようだし、質でも俺達が上回っていると思って良いだろう。ハッキリ言って戦いになっても負ける気がしない。ここで皆殺しにするのは訳もない事だが、俺達の目的は領地の拡大と戦力の確保であるので、下手に殺すわけにはいかないのだ。


「なるべく怪我はさせたくないな……後で使う人材になるし、下手な恨みを買って復讐を考えられても厄介だ」
「なら私に任せて」


そう言ってスッと前に出てきた人物はラウだった。普段後方からの援護に徹する彼女が前に出てくるのは非常に珍しい。彼女は一応護身用の剣を持っているが、基本弓で戦うのだから。


「何か考えがあるのか?」
「スキルを使うわ。みんなは下がってて」


自信満々で言うラウは、兵士達に向けてスッと手をかざす。そして静かに両目を閉じて、意識を集中させ始めた。お手並み拝見といこう。

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