とある魔族の成り上がり

小林誉

第111話 生き残り

ピエスが次の議員に招待状を送ってから一週間が過ぎた。セイスと違ってピエスと仲の良いその議員は快く招待を受け、現在こっちに向かっているらしい。後はいつも通り食事に睡眠薬を混ぜて前後不覚にしてから支配のスキルを使うだけ――だったんだが、ここで一つ問題が発生した。セイスからの連絡で、再びサイエンティアの連中が集まっている気配があるらしい。数は二十人程度。恐らく前回の生き残りが往生際悪く仕掛けようとしているんだろう。


「全部逃げ帰ったんじゃなかったのか? 諦めの悪い奴はどこにでもいるんだな……忌ま忌ましい!」


大した数ではないが、開拓村の戦力を考えると無視して良い数じゃない。急いで援軍を向かわせようとしたものの、距離を考えるとどうしても連中の方が速く村に着いてしまう。どうしたものかと悩んだ末に、俺は覚えたばかりのスキル『空間転移』を試してみる事にした。


リンに聞いてみたところ、このスキルは自分だけでなく、自分の周囲数メートル内にある任意の対象も移動させる事が可能らしい。つまり、やりようによってはこの場に居るリーシュ達を一瞬で開拓村に連れて行く事が出来るのだ。


早速やってみたくなったが、練習も無しにいきなり全員で移動するのは危険すぎるため、まず俺一人だけで練習する事にした。


「頭の中に明確な情景を思い浮かべるんだ。例えば壁の染みや床のへこみとか、細部まで詳細に。次にそこに居る自分をイメージする。すると次第に自分の体から意識が抜けていくような感覚になるから、それに逆らわず集中を続けろ。そうすれば、気がついた時には移動しているはずだ」


淡々とした調子でスキルの使い方を説明してくれたリンに感謝しつつ、俺は早速目をつむり、頭の中に目的地の情景を思い浮かべてみる。俺が思い浮かべるのは当然今回の目的地である開拓村――その中にある俺専用の屋敷だ。正直言って村の光景は日々変化が続いているので思い浮かべるのが難しい。屋敷の中ならまだ記憶がハッキリしているから何とかなる。頭の中で自分に与えられた屋敷の内部を思い描いている内に、リンの言うとおり次第に体から何かが抜け出るような感覚がしてきた。同時に足下が疎かになり、自分が立っているのか座っているのかもあやふやになって、妙な浮遊感さえ感じてくる。それでも集中を続けていると、頭の中で何かが始めたような感覚に襲われ、慌てて目を開けた俺の前には、驚いた表情のケニスが立っていた。


「びっくりした~……どこから出てきたんだよケイオス」
「……お前がいるって事は成功したのか。初めてにしちゃ上出来だな」


久しぶりに訪れた屋敷の中には、ケニスだけでなく魔族の兵や奴隷達の姿もあった。座り込んで作業しているのをのぞき込むと、どうやら木を削って矢を量産しているようだ。


「ケイオス。突然出てきたって事は、また新しいスキルを手に入れたのかい?」
「そうだ。空間転移と言って、頭の中に思い浮かべた場所に移動できるスキルだ――と、今はそれどころじゃないな。ケニス、村の防備はどうなっている? この間襲ってきた連中の残党が、再びこっちを狙ってるらしい。数は二十人ほどだ」


俺の言葉で急に真面目な顔つきになるケニス。今の状態で再び襲撃されるとは、流石の彼にも予想外だったようだ。


「まさかそんな少数で仕掛けようとするなんて、真面目なのか根性があるのか判断に困るね。とりあえず、今のところ村の備えに問題はないよ。水堀は作っている最中で使い物にならないけど、村の周囲を土壁で覆うのは完了している。今この村に入るには、南北に作られた木製の門を通るしか道はない。何カ所かに櫓も作ってあるから、誰かが近づいてきたらわかるはずだ」
「村の周囲の視界はどうなってるんだ?」
「そこも問題ない。まず真っ先に伐採を優先して隠れる場所を無くしてるし、その際手に入った材木もこうやって武器や防具に使っているよ」


作業を続ける兵士達を見ながらケニスはそう教えてくれた。どうやら思ったより作業の進みが速かったようだ。これなら援軍も必要なさそうだが、念には念だろう。後はどうやって連中を迎え撃つかの作戦だ。


「俺のスキルでシーリ達を連れてくるから戦力的には心配ないとして、やはり今回も打って出るか?」
「いや、前回は数が多いから奴らの居場所も簡単に把握できたけど、今回奴らはこっちより少ないぐらいだ。捜索のために戦力分散の愚を犯すより、ここで迎え撃った方がいいな。もちろんいくつか仕掛けはしておくつもりだけどね」


自信ありげに笑みを浮かべるケニスに頼もしさを感じながら、俺は別の事を考えていた。どうにかして奴らを生きたまま捕らえ、こっちの兵隊にできないか――と。敵を減らして味方を増やす。それが出来れば人手不足も少しは改善されるはずだ。難しくはあるものの、やってみる価値はある。奴らがこっちに仕掛けてくるまでに罠を張り巡らせ、何とか生け捕りにしてやろうじゃないか。

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