とある魔族の成り上がり

小林誉

第108話 戦いの後で

そこかしこで傷つき倒れた者達がうめいている。切り傷や打撲、骨折などしている者が多いようだが、幸い死人は一人もいないようだ。リンに付いた兵士達はもともとやる気が感じられなかったし、味方だったピエスの護衛も似たようなものだったんだろう。大怪我をしているのは主に俺達賞金稼ぐ組とやり合った連中か、弓矢のように加減の効かない武器を扱う者達ばかりだった。


「急いで街に行って治癒の使い手を連れてくるんだ」
「承知しました!」
「治療費は倍以上払うと言っておけ。渋るようなら三倍払うと」
「はい!」


ピエスの指示により無傷だった者数人が街に向けて走り出す。怪我人の対処のために恐らく街に常駐している治癒スキルの使い手を連れてくるつもりなんだろう。治癒のスキル持ちはどこの街でも重宝されていて、効果の弱いスキル持ちでも一財産稼げるほどには引っ張りだこになるらしい。ピエスほど財力と権力を持っているなら、自分の人気取りのために複数の治癒スキル持ちを街にとどめ置いているのかも知れない。


「まあ、あっちの事はピエスに任せて……俺達はリンの始末をつけないとな」


気絶したリンは前回と同じように拘束され、少しも身動きが取れないようになっている。『空間転移』スキルを持っているので、この拘束にあまり意味があるとも思えないが、気分の問題だった。まだ後処理に忙しいピエス達を避けるように、リンを担いで空き室に移動すると、目が覚めないようにソッとベッドに寝かせる。


「まずは支配だ」


シーリと互角に戦う腕に加えてピエスの秘書を務める事が出来るほどの頭の切れ、そしてすぐ主を取り戻そうとする行動力の高さは俺の目に魅力的に映った。兵隊集めに躍起になっている今の状態からすると喉から手が出るほど欲しい人材だ。支配を試さない理由が無い。俺は気絶するリンの傍らに立ってゆっくりと深呼吸すると、徐々に意識を集中させ始めた。俺にしか見えない意識の触手がリンの体を這い回り、やがて彼女の全身を絡め取ろうとする。いつもならこのまま体の中に消えて成功するところだったんだが、何かに弾かれるように触手が体内から飛び出てきた。


「……失敗?」


念のためにもう一度試してみたが結果は同じ。初めての経験だが、どうやらこの状態が『支配』スキルが失敗したと言う事らしい。


「ケイオス、上手くいかないのか?」
「……みたいだ。仕方ない。とりあえずスキルだけでも奪っておこう」


戸惑うリーシュ達と自分を落ち着かせるように、あえて何でも無いという態度を取る。そして素早く右手の中にスキルで生み出した短剣を出現させると、その刃を容赦なくリンの体へと突き立てた。


「!?」


突然自分の身に起きた変化に気絶していたリンが目を覚まし、混乱しながらも状況を確認しようとしている。そして彼女は自分の体に突き立った短剣に気がつくと大きく顔を歪めつつ、何とか抵抗しようと弱々しく腕を伸ばした。


「き……さま……」
「この状態で動くのか? 大した奴だ。すぐ終わるからジッとしてろ。怪我はしない」


現に短剣からはリンの持つスキルが俺の体に移動しているのがわかる。リンは殺されるとでも思っているのか、必死の形相で弱々しく抵抗していた。吸収が発動すると大概の奴は動く事すら出来なくなるんだが、やはりこの女は大したタマだ。しかしされにもすぐに終わりが来た。完全にスキルを奪い終えた俺がリンから短剣を引き抜くと、そこには息を荒らげて拘束されたままのリンが残る事になったのだ。


「一体……私に何を……」
「スキルを奪わせて貰った。これでお前は逃げる事が出来なくなるな」
「スキルを奪う……? 何を馬鹿な……」
「なら前回同様お前のスキルで逃げて見せろ。今なら使えるはずだろう」


混乱のあまり逃げるという選択肢を思いつかなかったのか、ハッとした表情のリンが言われて初めてスキルを使おうとするが、彼女の体がこの場から消える事は無かった。


「な、なんで!? 私のスキルが無い!」
「奪ったと言っただろう? これでお前は逃げる事も出来なくなったわけだ。現状が理解できたか?」


今のリンからはスキル持ち特有の反応が無くなっている。完全に身動きできなくなった状態でシーリ達腕利きに周囲を固められていては、流石の彼女もどうにもならない。悔しげに顔を歪めるリンを今後どうすると口を開きかけたその時、一人の人物が部屋の中に入ってきた。


「ピエス様……!」
「……ケイオス様。あちらの処理は終わりました」


リンの視線を避けるように、部屋に入ってきたピエスは彼女から目をそらして俺に話しかける。


「あの、ケイオス様……リンをどうするおつもりで?」


敵対したとは言えずっと自分を助けてくれた女が殺されるのは流石に避けたいのか、控えめに助命を願い出るピエス。そんな彼を安心させるように、俺は顔に笑みを浮かべる。


「安心しろピエス。これほどの腕前の女、殺すのはもったいない。生かして有効に使わせてもらうさ」
「ケイオス。どうするつもりだ?」
「まあ見てろリーシュ。スキルなんぞ無くても、まだ方法はある」


身動きできない状態で俺を睨み付けるリンを冷たく見下ろしながら、俺はそう言い切った。

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