とある魔族の成り上がり

小林誉

第103話 疑いの目

「さあ、遠慮せずにどんどん食べてくれ」
「いただくよ」
「ご馳走になります」


テーブルにはこれでもかと言うぐらい様々な料理が並べられている。セイスの趣味なのか知らないが、その大部分が肉料理で占められているのには少し呆れてしまった。俺はエルフの外見をとっているため彼等と同じ料理を口にする事は無く、お茶と野菜、そして僅かなデザートのみだ。一人だけ食べられないのは腹が立つが、こればっかりは仕方が無い。


「これは美味いな」
「本当に」
「こっちも試してみてくれ。なかなかいけるぞ」


最初こそ俺に気を遣って食べていたピエス達だったが、時間が経つにつれて遠慮が無くなり、最後にはパンの一欠片も残す事無く完食していた。その表情はとても満足げで、少しは油断しているらしい。


「ご馳走様。こんな美味い料理は食べた事が無かったよ」
「喜んでもらえて何よりだ。では最後に特製の茶葉を使ったお茶をご馳走しよう。これはファウダー殿がわざわざ森から持参した物でな。変わった味だが疲れが取れる不思議なお茶なんだよ」


片付けられる空になった食器と入れ違いに入ってきたメイドが持ってきたのは、人数分のカップと熱々のポットだ。食後のデザートと一緒にトレーに載せられたそれを、メイド達が俺達の前に置いていく。そして全員に行き渡った後いよいよ口に運ぼうとしたその時、リンが突然声を上げた。


「お待ちを。申し訳ないのですが、私とピエス様のカップと、セイス様とファウダー殿の物を交換していただけますか?」


その奇妙な言い草に、一瞬その場に居る誰もが呆気にとられた――が、その内容を理解した途端、ピエスが烈火のごとく怒り始めた。


「リン! せっかく招待してくれたセイスとファウダー殿を疑うのか!? 無礼であろうが!」
「申し訳ありませんピエス様。無礼は重々承知しておりますが、これは貴方の身を守る私の職責でもありますのでご容赦を。これは私の勘に過ぎませんが、このお茶には何かあります」


なかなか鋭い! 今まで何の問題も無く食事していたのに突然こんな事を言い出すなんて、自分で言うようにこの女は随分勘が鋭いらしい。しかし彼女と違って端からセイスを疑う気のないピエスは納得がいかないのか、更に声を荒らげる※する。


「そんな事を言って――」
「まあまあ! 良いではないかピエス。それでリン殿が納得するというなら交換しよう。ファウダー殿もそれで問題ありませんな?」
「ええ。私も別に」


まだ納得いかないピエスをなだめつつ、俺達と彼等の前にあったカップが交換された。それでも尚リンは疑っていたようだが、ピエスからの厳しい視線を受けてそれ以上何も言う事は無かった。


「確かに変わった味だ」
「だろう? 最初こそ戸惑うかもしれんが、慣れれば癖になる美味しさだよ。ファウダー殿がこれを持ってきてからと言うもの、私は毎日飲んでいるからな」


リンの事など何も無かったかのように振る舞うピエスとセイスの二人。ここらへんはやはり商売人というか、内心どう思っていても少しも態度に出していない。それに比べてリンは未だに疑っているようで、お茶もデザートも少し口をつけただけであまり進んではいなかった。俺は疑われて張本人として少し落ち込んだ振りをしながらも、出されたお茶とデザートをリンに見せつけるかのように綺麗に平らげる。


微妙な空気のまま進んだ食事会だったが、次第にピエス一人がうつらうつらと船を漕ぎ始めた。


「ピエス様!?」
「おや……疲れが出たのかな? 急に眠くなってきた……」


そう言った直後、ピエスは目の前にあった食器類を派手にぶちまけながらテーブルに突っ伏す。誰がどう見ても不自然なその動きに、彼の護衛であるリンが黙っているはずも無く、彼女はその場に勢いよく立ち上がった。


「貴様等! やはり何か薬を盛ったな!」
「ひええっ!」


腰の剣を抜いたリンからセイスが慌てて遠のき、俺もその場から素早く飛び退いた。それと同時に部屋のドアが外側から激しく蹴破られ、シーリとハグリー達がなだれ込んでくる。突然の乱入者にリンは即座に反応して応戦しようと剣を一閃させたが、シーリの剣によってその一撃は完全に止められてしまった。


互いに凄まじい剣技で応酬する二人だったが、生憎リンの敵はシーリ一人では無い。横に回り込んだハグリーとルナールの二人に同時に打ちかかられ、それを躱そうとした瞬間正面に居たシーリのスキルによって打ち倒された。


「ぐ……! くそ……!」


何とか立ち上がろうとしているようだが、シーリのスキルをまともに受けてはしばらく立ち上がれはしない。もがく彼女を手際よく拘束し、武器を取り上げた後で猿轡を噛ませる。これでリンは何も出来なくなったと言うわけだ。後は無抵抗なピエスをスキルの支配下に置くだけ。俺は若干緊張しつつ、ゆっくりとピエスに近づいていった。

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