とある魔族の成り上がり

小林誉

第101話 罠の準備

「その程度お安いご用ですとも。早速他の議員と顔を合わせる機会を設けましょう」


屋敷を訪ねた俺達が久しぶりに顔を合わせたセイスに歓待されながら用件を伝えると、彼は二つ返事で了承してくれた。セイスが現在議員を務めるマシェンド同盟は、五人の議員からなる評議会によって運営されている。と言っても王国や帝国のような絶対権力者による統治ではないので、彼等議員の多数決によって同盟の方針は決定される。しかも決められるのはある程度の税率と土地の売買の許可に加えて、治安維持軍の命令権だけだ。おまけに議員は五年に一度の選挙によって選ばれないと身分を剥奪されるので、同盟内で商売をする商会の意向を無視することも出来ない。要するに、セイス一人を配下に治めたところで大して役に立たないと言うことだ。


「支配のスキルは使えても一日に一度だけ。ならば、順番に他の四人を私の屋敷に招待すれば良いだけです」


簡単そうに言うセイスだが、俺はそんな簡単に事が運ぶと思えなかった。今までの経験からして、どうせ碌でもないことがおきるに違いない。おまけにセイスと他の議員の関係もわからないのだ。


「……セイス。念のために聞いておくが、お前と他の議員はどんな関係なんだ? 食事に招待すれば喜んで参加するぐらいの親交があるのか?」
「特に親しくしているのは一人だけです。他の三人の内、一人は疎遠。残りの二人とは険悪ですな」


全然駄目じゃないか! 屋敷に招いて薬を盛る以前の問題だ。仲の悪い人間から急に食事の招待をされた場合、普通の人間だとどう思うか? 十中八九、何かあると怪しんで断ってくる。断る程度ならまだ良いが、暗殺などを警戒してこちらに探りを入れられるかも知れない。サイエンティアの脅威がまだ完全に去っていない以上、膝元の自治都市で動きにくくなるのは避けたい事態だ。


「それでどうやって誘い出す気なんだ? すぐに断られるのがオチだろう」
「それもそうですな。しかし私に出来ることなど正面から招待状を送ることぐらいです。駄目で元々でやってみるしかないのでは?」


言われてみればそうなんだが、上手くいくとは思えない。一度警戒されると次からの難易度がぐっと上がるために、誘いを出すなら一度だけにしておかなければ駄目だ。どうしたものかと悩んでいると、静観していたシードが口を開いた。


「なら、先に一人だけ確実に呼べる人を招待しましょう。セイス殿と仲の良い――ピエス殿でしたか? その方を仲間に取り込んで、ピエス殿から他の議員に誘いを出して貰うのです。そうすればセイス殿が誘うより上手く行くのでは無いでしょうか?」
「なるほどな。そのピエスって奴が残り三人と仲が良いなら怪しまれる事も無いって事か」


今のところシードの考えた手が一番マシだ。一応俺に付いてきた他の面子に顔を向けてみたが、彼等は肩をすくめるだけで特に意見を出すことは無かった。


「なら早速そのピエスって奴に誘いをかけろ。いつぐらいに面会できそうだ?」
「そうですな……彼の住む街はここから片道五日ほど。今から使者を出したとしても、最短で十日はかかる計算です」
「思ったより時間がかかりそうだな。仕方ない。早馬でも何でも使って、出来るだけ短縮するようにしてくれ」
「承知しました。ところで、ケイオス様はどう言った名目で宴に参加されるおつもりですか?」


言われて自分の立場を思い出す。今の俺は自称傭兵団を名乗る賞金稼ぎ達の頭目でしかなく、公的な身分など一切持っていない。おまけにハーフの外見をしているので、場合によっては宴の場からつまみ出されてしまう可能性もある。セイスの時はシードを助けた恩人と言う理由があったが、この場合はどうしたら良いだろうか? 暴風のスキルをラウに譲渡したためエルフの男には化けられなくなった。後はエルフの女と人族の男、それに魔族の女か。魔族は問題外だからここはエルフの女にしておこう。むさ苦しい男より、見目麗しいエルフの女が居た方が相手も油断しやすいはずだ。


「なら……俺はエルフの女にでも姿を変えよう。大森林の奥地から珍しい薬草を人里に売りに来たエルフの使い――とでも言えば何とかなるんじゃ無いか?」
「なるほど、それなら問題無さそうですな。その薬草を煎じたお茶と称して睡眠薬を混ぜて飲ませれば、特に怪しまれる事も無く彼等は口にしてくれるでしょうし」
「その辺はセイスに任せる。それと、俺の手持ちが無いから眠り薬などの手配も頼むぞ。ピエスに随伴してくる人数分も必要だろうし、この先のこともある。口の堅い薬師から集めておいてくれ」
「わかりました。確実にバレない方法で入手しておきます」


これで準備は整った。後は標的が暢気にこの街へやって来るのを待つだけだ。

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