とある魔族の成り上がり

小林誉

第100話 人材集め

「人が足りない」


屋敷に集まった主立った面子を前に、俺はこう切り出した。会議室に出来る広さの一室には簡単な作りの机と椅子が用意されており、それぞれが腰をかけている。真剣に話を聞いているシオンやシーリみたいなのも居れば、ハグリーやレザールのようにうつらうつらと船を漕いでいる者も居て、いまいち危機感が感じられない。


「ケイオス様。それは新たに奴隷を集めると言う意味でしょうか?」
「その方が手っ取り早いからそうしたいところだが、今の経済状態じゃ厳しいだろ? だから何か言い考えが無いか聞きたいんだ」


シーリの問いかけに対する俺の答えに、全員が難しい顔をして黙り込んだ。簡単に人を増やすと言っても、奴隷ぐらいしか思い浮かばないのかも知れない。最近は何かと金を使いすぎたし、硫黄の支払いもまだ終わってない。そろそろ自重しておかないと、セイスやシオンの実家の財力にも限りがあるからな。


「奴隷が駄目となると公募するか、それこそ支配のスキルで忠誠を誓わせるぐらいしかないのでは?」
「そうなんだが……シオンは今居る魔族達を配下にした時、どうやったんだ?」
「私は長い時間をかけて、ゆっくりと手駒を増やしていきましたよ。実家の支配地域に住む若い男を集めては、少しずつスキルで手下にしていったんです。素人を集めて鍛えていったので、即戦力ではありませんでしたが」


なるほど。先に洗脳してから育てるというのもアリなのか。しかしこの手は今の時点で使えない。サイエンティアがまたちょっかいをかけてくる危険がある状況で、悠長な事はしてられないのだ。


「となると、現役の兵士なり賞金稼ぎを捕まえる必要があるな。……でもどうすりゃいいんだ? 支配のスキルは一日に何度も使えるほど便利じゃないぞ。あれは精神の負担が大きすぎる」
「では、こう言う手はどうだ?」


口を開いたのはリーシュだ。彼女は一つ咳払いをすると、少し声の音量を大きくしながら話し始める。


「時間のかかる手下集めはこの際後回しにして、またセイスのような有力者を取り込んでみたらどうだ? 大森林に向かうためには、どうしても自治都市に立ち寄らないと駄目だろう? そこで布告を出させるんだ。魔族との大規模な戦闘を避けるため、猟師以外の立ち入りを禁ずる――と。そうすればたとえサイエンティア軍が再び現れても、今回のように大人数で仕掛けてこれなくなるはずだ」
「ふむ……それもそうか」


手っ取り早く兵隊を増やす都合の良い方法など、やはり無い。ここはリーシュの策が妥当だろうな。


「他に意見が無いならそれでいこう。サイエンティアの連中を撃退した事で自治都市も安全になってるだろうし、明日から早速行ってみよう。と言うわけでシオン、後は任せるぞ」
「承知しました。引き続き開拓を進めておきます」


それでその日は解散し、俺達は翌日に備えて早く床についた。


翌日、俺を先頭にしたいつもの面子が街に向けて森の中を西に進んでいく。リーシュ、ルナール、ハグリー、レザール、グロウ、シーリ、ラウと言う面々だ。イクスは引き続きスキルで火薬の材料の量産に取りかかり、ケニスは魔族のために人族の領域には入れないので、この面子での行動となった。街に出向くだけにしては随分大人数なんだが、これは荷物運びのために連れてきたに過ぎない。色々あって魔族の兵や奴隷達も不満が溜まっているだろうから、彼等のために酒を買って帰るつもりなのだ。樽をいくつかまとめて購入すれば値引きもあるだろうし、奴隷達に飲ませるものなら安酒で十分。あまり金はかからないだろう。


丸一日以上かけて辿り着いた街の様子は、俺達が大森林に籠もる前と少しも変わっていなかった。


「森の中で大規模な戦闘があったのに、誰も気にしてないんだな」
「知らされてないだけかも知れませんよ。流石に街の有力者の耳には情報が入っているでしょうし」


余計な混乱を避けるために箝口令でも布いているのかもな。


「下手に混乱されては商売上まずいからか? まあ、俺達としては好都合だ」


街での拠点となる屋敷に戻ると、そこには見慣れない見張りの姿が何人か立っていた。まさかサイエンティアの連中かと一瞬身構えたものの、俺達に気がついた相手は無警戒で近づいてくる。


「失礼、ケイオス様……でよろしいですか?」
「そうだが、君等は?」
「申し遅れました。我々はシード様からの命令で屋敷の警備を担当している者です。私は責任のトーマス。以後よろしくお願いします」


シードが気を利かせてくれたのか。確かに街の郊外に屋敷だけあれば、いつ泥棒が入ってもおかしくない。せっかく綺麗にした屋敷が荒らされてはたまらないから、これはありがたい気遣いだ。


「こちらこそよろしく。ところで、シードが今どこに居るか知ってるか?」
「シード様ならセイス様のお屋敷でしょう。今朝から政務をお手伝いしているようですから」


ちょうど良い。なら直接セイスと話して、街の有力者との取り次ぎを頼んでみよう。俺達は屋敷に着いた早々に、街へと引き返して行った。

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