とある魔族の成り上がり

小林誉

第98話 火炎のスキル

新しく覚えた火炎スキルの検証をするために、俺は奴隷を何人か使って村の近くに広場を作った。燃え移ったりしたら大火事になりかねないので、必要以上に広くしてある。近いうちに拡張するつもりではあったし、村の周囲に敵が潜む場所を放置しておきたくなかったしで、結果的に一石二鳥だ。


そんな広場で一人佇む俺は、意識を集中してスキルの使用準備に入る。慣れればそうでもないんだが、覚え立てのスキルは精神統一しないとなかなか扱いにくいのだ。


まず手のひらを上に向け、頭の中でイメージした炎を生み出してみる。思い描いたのは松明の炎。手の平から炎が噴き出す勢いと同時に体の中から少し力が抜けたような感覚があった。この辺は他のスキルと同じのようだ。手のひらに生み出された炎からは不思議と熱さを感じず、ユラユラと揺らめいている。


「ま、とりあえず撃ってみるか」


弓矢のような速度で飛んでいく火炎球を思い描いた途端、手の平の炎は球状に形を変えてもの凄い速さで飛んでいった。火炎球は呆気にとられる俺の視界からどんどん遠ざかり、最後には見えなくなってしまった。


「凄いなコレ……射程が長いっていうか、無限なのか?」


今見ただけで、人の力や弦の張り、空気抵抗などの影響を受ける弓矢とはまるで違うとわかる。氷の矢はある程度飛んだ時点で自然消滅していたようだが、やはりスキルに『強』と付くだけの事はあるのか。


次に、同じ物を自分の近くにある切り株に向けて放ってみた。着弾と同時に切り株は燃え上がり、それ程時間を経ずに真っ黒い炭に変わってしまった。次にこのスキル本来の持ち主であった名も知らぬ敵指揮官の放った放射状の炎をイメージし、別の切り株へと放ってみる。考える限りの高温で――と念じて放った炎は切り株を一瞬で炭化させ、そのあまりの熱量に俺は慌ててその場を離れるほどだった。


「危ない危ない……自分のスキルで焼け死ぬところだった」


今のでわかった事は二つ。放てる炎の温度はある程度コントロール出来るのと、一度体を離れた瞬間に自分のスキルでも熱さを感じるという二点だった。


その後は氷の矢同様、細かい火炎球をいくつも作れるか試してみたり、特大の火炎球を作れるのか試してみたりと、新しいスキルの能力を理解するには十分な検証が出来た。あと一つ、俺は一番気がかりだった事を試すため、再び精神統一を始めた。


試すのは二つのスキルを同時に使えるかどうかだ。一つは暴風のスキル。コレを放出して渦巻き状に伸ばすイメージ。もう一つは火炎のスキル。これを暴風で生み出した渦巻きに乗せ、周囲一帯を火の海に出来ないかと考えたのだ。スッとかざした手の平からスキルを同時に放とうとした瞬間、突然立ちくらみに似た症状が出て視界が真っ暗になり、膝から力が抜けた。気がつくと、俺は地面の上にうつ伏せになって倒れていた。時間にしたら一瞬だろう。


「いたた……何だったんだ一体?」


何か悪い物でも食べたかなと頭を捻りながら、もう一度同じ事を試してみようと試みる。ひょっとしたらと思って、今度は座ったまま手をかざしたのだが、またスキルを放つ瞬間に意識がなくなって仰向けに倒れていた。


「これは……間違いなくスキルの影響だな……」


今まで二つのスキルを同時に使おうとした事は無く、今回が初めてだった。そもそもスキルを持っている者の数は少なく、二つ同時に持っている者など滅多にいないのだから、成功した体験も失敗談も語り継がれていないのは当然と言える。二つのスキルを同時に使うと失神する――これは今回実験した中で一番の収穫だったろう。でなければ実戦でいきなり試そうとして、敵の目の前で昏倒していた可能性すらあったのだ。


「て事は、誰かにどちらかのスキルを譲る必要があるな」


一人で二種類のスキルを使えるのは何かと便利だし、あれもこれもやれそうな感じはするんだが、いかんせん俺の精神力は一人分しか無い。調子に乗って使えばサイエンティア軍と交戦した時みたいに倒れてしまう。それならいっそ他の奴にスキルを与えた方が全体的な強化に繋がると言うものだ。


「さて、誰がいいかな?」


頭の中で仲間のスキル持ちの顔を思い浮かべる。リーシュは『重量軽減:弱』 ルナールは『氷の矢』 イクスは『生成:白』 シオンは『治癒:強』 シーリは『衝撃』 ケニスは『防壁:弱』 こうして考えれば結構集まってきているなと思う。しかし今は彼等以外の誰にスキルを与えるのかを考えなくてはならない。俺の持つ『吸収』のようなユニークスキルならともかく、普通のスキル持ちである彼等に俺のスキルを譲渡した場合、下手をすると上書きされて元のスキルが消え去ってしまうかも知れない。それだけは避けたいので、必然的に彼等以外の者を選ぶ必要があった。


ハグリーやレザールは頭を使うより体を使うタイプだし、仮にスキルを与えても有効活用出来るとは思えない。グロウだといまいち頼りないし、性格的に前に出たがらないだろう。と言う事は残る一人、ラウに与える事になってしまう。正直言って彼女の事は今でも完全に信用していない。いつ裏切るかわからない相手に貴重なスキルを与えるのは危険に思えるが、他の魔族や奴隷に与えるよりはマシだろう。


ラウに与えるスキルなら、『暴風』で決まりだ。これの持ち主であったのは彼女と同じエルフだし、スキルの親和性も高いはず。何より弓使いである彼女なら、放たれる矢を強化するとか、敵の矢を防ぐとか、有効的に使ってくれそうだ。


「そうと決まれば早速始めないとな」


俺はスキルの譲渡を始めるべく、村で働くラウを呼びに戻るのだった。

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