とある魔族の成り上がり

小林誉

第97話 後処理

ケニス達の奇襲攻撃と俺が敵指揮官を討ち取った事で、敵の集団は混乱を極め散り散りになって逃げていった。それを追撃して多くの敵兵を討ち取ったようだが、全滅させるまでには至らなかったようだ。それでも死体の数から考えて、八割ぐらいは討ち取ったと見て良いだろう。ここまでやれば、再び襲撃してくるのは当分先の事になりそうだ。


俺達も当然無傷とはいかなかった。連戦で戦い圧倒的な数の差の中奮戦した魔族達と、本来戦いには不向きな奴隷に多くの犠牲者が出る事になった。魔族は五割が負傷し、その半分が戦死すると言った大損害だ。奴隷の方も似たようなもので、結果、俺達の戦力は半減したと言っていい。


「負傷者は私のスキルで回復できますが、流石に死んだ者までは無理です。早急に戦力の立て直しが必要ですね」
「だな。奴隷を買い入れるか捕まえて支配下に置くかしないと行き詰まる事になる」


負傷者の治療を続けていたシオンが疲れた様子で戻ってきた。無理も無い。あれだけの数の怪我人を回復させたんだ。かなり精神的な負荷がかかっているはず。早く休ませてやらないといけないんだが、俺達は村に戻る前にやるべき仕事があった。死んでいる敵から装備を剥ぎ取る事だ。敵の持っている武器は勿論の事、破損した鎧ですら後で再利用出来るので、一つも残すわけにはいかない。奴隷達にまでいちいち装備を買い与えていては金がいくらあっても足りないからだ。


決して気持ちの良い作業ではないので、全員が無言で手を動かしていく。そして最後に敵味方の死体を一カ所に集め、俺が覚えたばかりのスキルで纏めて焼却した。炎の前で静かに目を閉じ手に入ったばかりのスキルを確認してみると、瞼の裏にしっかりと新スキルが表示されていた。


『火炎:強』


強とつくからにはかなり強力なスキルのはず。何かと使い勝手の良い火炎系のスキルを手に入れられたのは運がよかった。色々と被害が出てろくでもない戦いだったが、今回唯一の収穫と言っても良いだろう。


戦場が森の中だけになっていたため、村が無傷だったのは幸いだった。また一から作り直すとか面倒すぎるからだ。本来村の屋敷に籠もっているはずのイクスもケニスと行動を共にしていた。彼女の身に何かあったらどうするんだと怒鳴りつけたい気もしたが、彼女はケニス同じく襲撃隊の最後方に控えていて、危なくなったら逃げるつもりだったらしい。


逃げ延びた敵兵がまず真っ先に逃げ込むのはセイスとシードの居る街だ。奴らが今後どう動くのかは、シード経由である程度の情報が入ってくるだろうから放って置いても問題ない。それより今優先するべきは、次にこんな攻撃がある前に村の防備を固めておく事だ。


「でもまぁ、その前に……休んでも良いだろう」


屋敷に戻るなり、俺はベッドに倒れ込んだ。初の大規模戦闘で肉体精神の両方を消耗しすぎて限界が来ていた。他の面子も似たようなものらしく、飯も食わずにさっさと横になってしまう。万が一連中が襲いかかってきても大丈夫なように比較的元気な奴隷達を交代で見張りにつけ、他の者はさっさと休息させることにした。


§ § §


翌日、俺達は他の何よりも優先して村の防備を固める作業に取りかかった。柵で囲んだだけの簡単な作りだけだったのを、その前方に堀を作る事で突破を困難にし、櫓を村の四方に配置して見張りと遠距離への攻撃を容易にする。周囲の木々から大量に作った木材で柵の内側に壁を作って、その外側を土で固めていく。これは火矢などを使われて燃え上がるのを防ぐためだ。ここまでやって、ようやく小規模な砦ぐらいになったはず。人出が減って作業効率が落ちたために、二週間ほどかかってしまった。もともと材料を確保していたからこの程度で済んでいるが、木の削り出しからやっていればもっと時間がかかっただろう。


その間村にはシードが何度か足を運んで、敵に対する情報を提供してくれた。シードが把握しているだけで、生き残りの敵兵は約二十人。皆命からがら逃げてきたらしく、街に着いた時はボロ雑巾のようにやつれていたそうだ。完敗と言って良い惨状にさっさと逃げ帰ると思われた彼等だが、どうにも諦めが悪かったらしい。そんなに手持ちの資金があるとは思えないのに、早馬で援軍を要請しようとしたのだ。なぜそんな事を知っているのかと聞かれれば、街の有力者であるセイスにとっては造作も無い事――と答えるしか無い。


とにかく、連中は再び戦うために援軍を要請しようとしたのだ。そう、『した』ではなく『しようとした』だけで、結果的に連中はそれを果たす事が出来なかった。


まず陸路でサイエンティアまで行く場合、どんなに早くても一月以上――下手をすれば二ヶ月はかかる。俺達のように船で行く手もあるが、陸路より値段が高いので現実的では無い。その間自分達の滞在費もかかるので、それをやってしまうと連中は生活もままならなくなる。そこで思いついたのが借金だそうだ。彼等は最初懇意にしているイグレシア商会を頼ったようだが、彼等がサイエンティアの軍人だと証明する方法が無かったので門前払いをされたらしい。当然だろう。なにせ自称傭兵団が街に入ってきた形を取っていたのだ。今更軍人です、信じてくださいは通らない。


結局、金の都合がつかずに彼等は断腸の思いで国に帰る事にしたらしい。憔悴した様子で乗合馬車に乗り込んでいく彼等の姿を、シードがしっかり確認したそうだ。


「今回の事で、連中、ケイオス様と魔族が繋がっていると思うかも知れませんね。戦いの場にはケイオス様以下、サイエンティアに行った者達も多く居ましたし。人相風体ぐらい伝えられているでしょう」
「連中、また来ると思うか?」
「なんとも言えません。魔族と繋がっているとわかれば慎重にはなるでしょう。諦めるか、もっと大規模な部隊を送り込んでくるかのどちらかじゃないでしょうか?」
「そうだな。その可能性が高いだろう」


どちらにせよ、連中が来るのは当分先の事だ。早くても二ヶ月、それだけ時間があれば火薬の量産も出来ているはず。さっさと戦える準備を整えて、次はもっと楽に勝てるようにしよう。

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