とある魔族の成り上がり

小林誉

第95話 連戦

空を飛ぶリーシュ達偵察隊のおかげで俺達は優位に立っていた。さっきの戦闘の後一番近くに居た敵集団を再び奇襲で壊滅させ、意気上がる俺達。このままこれを繰り返せば損害も無く連中を全滅させる事が可能かも知れない――そんな考えが頭をよぎったが、世の中そんな簡単にはいかないようだ。


敵は空を舞うペガサスを敵と認識したようで、地上から弓やスキルによる飛び道具で容赦なく攻撃を仕掛けてきた。完全に油断していた一人の偵察兵が馬上でバランスを崩し、そのまま地面に真っ逆さまに落下して死亡したようだ。ようだ――と言うのは死んだところを確認出来なかったからで、空になったペガサスだけを回収して戻ったリーシュの報告を受けた俺も、彼女と同意見だった。


会話をしたこともなく、顔も知らない魔族が死んだところでなんとも思わないが、貴重な戦力が減ったのは人数が少ない俺達にとって痛手となった。偵察隊には油断なく更に高度を取るように言って、俺達は魔族が墜落死した地点を集団で目指す。偵察隊が何か発見した場合、地上に降りて直接報告するより目標上空を旋回するように指示しておいたので、少し進んでは空の上のペガサスを探さなくてはならなかった。下手に地上に近づくと、死んだ魔族と同じような犠牲者が増える可能性があったため、安全策を取った形だ。


しかし敵も馬鹿では無い。これだけペガサスが飛び交っていれば何者かが集団で行動しているぐらい予想がつくのだろう。段々上空を旋回するペガサス同士の間隔が短くなってきているのに気がついた。


「まずいな……敵は合流する気かも知れない」
「なら急ぎましょう。今ならあと一つか二つ先手を取れる可能性があります」


シオンの言葉に頷き、俺達は行軍速度を速めた。そして間もなく敵を発見したものの、敵は俺達の接近を警戒していたらしい。無警告で飛んでくる無数の矢。さっきまでとは立場を逆転させたかのような完璧な奇襲に、俺達は為す術も無く倒された――かに見えたが、先頭を歩く俺が咄嗟に放ったスキル『暴風』で全ての矢は押し返され、あさっての方向に飛んでいく。動揺した敵目がけて反撃の矢が放たれた直後、両軍入り乱れての乱戦に突入した。


確かに敵は強かった。腕利きを集めたと言うだけあって、どいつもこいつもなかなかの腕前だ。しかしそれらを上回る技量を持っていたのが、名も知らぬシオン配下の魔族達だった。一対一なら彼等は敵と互角の腕だろう。実際近くで戦っていた魔族の戦いぶりを見た限り、ハグリーやレザールと同程度の腕前に見えた。しかし彼等の真の強さは、その連携した動きだったのだ。基本的に一人が敵の攻撃を防御して、他の魔族が横合いや背後から敵の体を貫く。彼等は常に二対一か三対一になるように、上手く立ち回っていた。


「やるな。一人一人がバラバラに戦う俺達賞金稼ぎとは全然違う。あれが訓練された兵隊の戦い方なのか」
「奴らには専門の戦い方を常日頃から訓練させています。数の少なさを覆すのは、個人の武勇では無く連携した集団での動き。それだけを徹底的に教え込みました」


シオンの言葉はどこか誇らしげだ。それも納得で、彼等の戦い方は実に無駄が無い。軍隊として理想的と言って良い戦い方だった。そんな彼等の活躍もあり、俺達は少しの怪我人を出しただけで敵集団を殲滅する事に成功した。こちらの怪我人は魔族が数人と、ハグリー、それにルナールだ。腕や足を切り裂かれて流血が酷く、このまま戦闘するのは無理だと判断し応急手当をさせた後村に戻すつもりだったのだが、それはシオンに止められた。


「ケイオス様。私のスキル『治癒:強』があります。この程度の怪我は一瞬で回復できますよ」


そう言って彼女が怪我人に手をかざした瞬間、傷がみるみる塞がっていく。血に濡れた傷口を拭うと、そこには傷一つ無い肌が表れていたのだ。


「凄いな……こんな一瞬で」
「一人二人の傷を癒やしたところで大して消耗はしません。ですがこれがずっと続くとなると流石に厳しいですね」


と言う事は、シオンのスキルを当てにして無茶な事も出来ないって事だ。しかし困った。やはり連中と正面からやり合うとこちらの被害も馬鹿にならない。今回運良く相手にスキル持ちが居なかったからこの程度ですんでいるが、未知のスキル持ちと正面からやり合うのは危険すぎるな。


今の敵を合わせて、どれぐらい倒しただろうか? 五十は超えていると思うが、それでもまだ敵の方が三倍多い。まだ急いで襲いかかれば何とかなるかと考えている時、偵察に放っていたリーシュ達が地上に降りてきた。


「どうした?」
「まずいぞケイオス。連中、こっちの規模を察して集まりだしている。全ての集団が合流するのに、そんな時間はかからないぞ」


悪い事には悪い事が重なるか……ここは一旦退却して防衛戦に切り替えるかと考えた時、俺は一つの策を思いついた。


「いやまて……考え方によっては、これは奴らの背後を突く絶好の機会でもあるな。リーシュ! 連中は村を発見しているのか?」
「ある程度の偵察は出しているようだから、見つかっていても不思議じゃ無い。それにどのみち奴らの進行方向には村があるのだし、遅かれ早かれ村は戦場になるぞ」
「なら今すぐ伝令をやってケニスに知らせろ。そしてこう言うんだ。連中が村を攻撃し始めたら、俺達がその後ろから襲いかかると。挟み撃ちにすれば少なからず敵は混乱するはず。その時に打って出れば、奴隷達でも少しは戦えるだろ」
「わかった!」


リーシュの指示を受けた魔族の一人がペガサスに乗って舞い上がる姿を見上げながら、俺は不安を拭えないでいた。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く