とある魔族の成り上がり

小林誉

第93話 方針

俺のために建てられた屋敷には、いつもの面子が集まり、新たにケニスが加わっていた。そして改めてシードの口から状況を説明してもらう。


「傭兵団を名乗るサイエンティア軍――面倒なのでサイエンティア軍と言いますが……連中は総勢二百ほど。腕利きを集め、確認できただけでもスキル持ちが何人か居るようです。そして連中の目的は大森林の何処かに身を隠したケイオス様以下、配下の賞金稼ぎ数名を殺害し、奪われたイクス殿を取り戻す事。幸い具体的な潜伏場所はわかっていないようなので、二百と言う数は散開して捜索する為の数でしょう。でなければ、十人かそこらに対して明らかに多すぎる数です」
「だろうな」


にしても困った事になった。ただの腕利きだけならともかく、スキル持ちまで居るとなると厄介だな。スキル次第ではいくらでも状況が覆される危険性がある。


「ところで、お前やセイス、それとイグレシア商会に連中は手を出さなかったのか?」
「それなら問題ありません。我々とケイオス様が直接繋がっている事までは掴んでいないようですし、イグレシア商会に関してはイクス殿をラビリントまで届けた時点で仕事は終わっているのですから、疑ってはいても直接手を出すような愚かな真似はしないはずです」


セイスと俺達の事がバレてないのは助かった。今更イグレシア商会がどうなろうと知った事じゃないが、仮にも各国に支店を持つ大商会相手に武力行使などすれば、サイエンティア自体がどんな報復を受けるかわかったものじゃない。あれほどの商会だ、横の繋がりぐらいいくらでもあるだろう。だから無視しても問題ない。


「と言う事は……連中、この村の事には気がついてないのか?」
「おそらくは。森に入る狩人などから目撃証言はあっても、それとケイオス様を結びつけるのは無理があると思います。とは言え、魔族は無条件で攻撃対象にするでしょうから、見つかればただでは済まないかと」


一瞬引きこもっていればやり過ごせると期待したんだが、どうやらそこまで現実は甘くないようだ。


「連中はいつ森に入る予定なんだ?」
「数日中には行動に移すでしょう。今は街で情報収集をしているようですから」


シードの話をまとめると、敵は二百。目標である俺達がどこにいるかわからないため、散開して森に入ってくる。全員腕利きで中にはスキル持ちも居る。今なら余裕で逃げられるだろうが、この村を見つけられては襲いかかってくる可能性もある。せっかく硫黄を取り寄せる段取りをつけたんだ。逃げるわけには行かない。となると戦うしか無いわけだが、さて、どうやって戦ったものか。


「ケイオス。人の名前や具体的な事情はよくわからないけど、要は敵が迫っているって事でいいんだよね?」


それまで黙って話を聞いていたケニスが、ここで初めて口を開いた。彼は敵の来襲で緊張感を漂わせている俺達と違い、どこかウキウキと嬉しそうだ。


「そうだが?」
「なら、こっちから仕掛けた方が良いよね。その方が勝率が高い」
「だがケニス、同じ戦うなら、連中がここに来るまで待った方が良くないか? 数の少ない我等なら、籠城した方がマシだと思うが」


ケニスの発言に異を唱えたのはシオンだ。彼女の籠城策にうんうんと頷いているのはルナール、ラウ、グルト、リーシュ、イクスの五人。他の者は違う意見らしく、沈黙を貫いている。


「いや、ここは打って出るべきだろう。現状、我々は敵より圧倒的有利な状況にあるんだから」


得意気なケニスの態度に少しイラッとしながら先を促すと、彼は一つ咳払いをして続きを話し始めた。


「確かにこっちは敵の半分ほどしか数が居ない。おまけに作業用に連れてきた奴隷が多く、実際に戦力となるのは五十が良いとこだろう。二百対五十……普通に考えれば絶望的な戦力差だけど、今の段階なら我々に十分勝機があるんだ。考えてみてくれ。さっき彼が言ったように、敵はこちらの居場所を把握していない。この広大な大森林で僅か十人ばかりを探すために、かなり広範囲に分散するはずだ。そうだね?」


そう言ってシードを指さすケニス。当のシードはコクコクと頷くばかりだ。


「おまけに連中は、敵がケイオス達賞金稼ぎだけだと思っている。我々魔族が戦力に加わっているなど予想もしていないだろう。そこにつけ込む隙がある」


誰かがゴクリと鳴らした喉の音が、静まりかえった部屋に響く。


「敵が分散している内にこちらから襲いかかり、各個撃破だ。僕達が勝つにはコレしか無い。籠城も悪くない案だけど、それは村の備えが完全に機能を始めてからじゃないと取れない策だ。さっき見た限りでは、この村の防御力はそれ程高くない。同数ならともかく、圧倒的多数相手の籠城戦には不向きだよ」
「賛成だ! 俺も籠もって戦うより、こっちから仕掛ける方が良い!」
「同感だな。まあ、俺は暴れられればなんでもいいが」
「偵察なら私が請け負おう。それにせっかくペガサスがあるんだ。無駄にすることも無い」
「私も賛成です」


ハグリー、レザール、リーシュ、シーリは奇襲案に賛成か。意見を出し切った皆が俺に注目する。この集落の主である俺がどんな決断をするのか待っているのだ。


「……打って出よう。ケニスの言うとおり、敵が分散している内に仕掛ける。それに、今この村を戦場にするわけには行かない。せっかく物資が集まりだしたし、施設も形になってきた。これを壊させるわけにはいかない」


俺が意見を表明した事で方針は決定した。後は実際に行動に移すだけだ。早速奴隷や部下達に指示するために屋敷を出て行ったシオンや、自らの装備を取りに行くシーリ達。残ったのは俺とイクス、そしてケニスの三人だけだった。


「ケイオス、私はどうすれば……?」
「イクスは居残りだ。この屋敷にとどまると良い。万が一村に敵が押し寄せた場合、この屋敷に閉じ籠もってろ。しばらく持ちこたえられる。ケニスはどうする?」
「僕? 戦いはからっきしだから、彼女と一緒にここに残るよ。もちろん村の防衛に奴隷達は残してくれるんだろ?」
「当たり前だ。連れて行っても足手まといなら、ここの守りに使うさ。一応護衛としてグルトとラウは残していく。イクスの側を離れるなよ」


とにかくやる事は決まった。久しぶりの戦闘に少し体が震えたが、武者震いだと思っておこう。さあ、連中に目にものを見せてやる。

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