とある魔族の成り上がり

小林誉

第92話 急報

硫黄の仕入れ先は確保したので、行きと同じ時間をかけて俺達は大森林へと舞い戻った。一ヶ月ほど留守にしていた大森林だが、帰ってみると少しだけ建物の数が増えているのがわかった。今回の旅に同行せず、留守番を務めていたハグリー達が作業を手伝っていたらしく、建築速度が上がったのだろう。


「暇でしょうが無かったぜ。やる事と言ったら木を切ったり畑を耕したり、家を建てたり。まるで大工にでもなった気分だ。なあケイオス。せめて日々のやる気を出すために酒の一つも仕入れちゃくれないか?」


帰るなりそう言って不満を漏らしたハグリー。この状況で何を贅沢言ってやがるんだと思ったが、ケニスは是非彼等の要望を受け入れるべきだと主張した。


「いくら奴隷や配下を使っているからといっても、彼等にも感情はあるんだ。不平不満はどうしたって溜まっていくさ。それらは早く解消させた方が日々の仕事も真面目にこなしてくれるよ。酒ぐらいでやる気になってくれるなら安い物だと思うけどね」
「そうそう! 良い事言うなあんた! ……ところで、あんた誰だ?」
「僕はケニス。新しく君達の仲間になったんだ。よろしく頼むよ」


見慣れない顔に戸惑っていた居残り組も、人当たりの良いケニスの態度にすぐに打ち解け、仲良く話すようになっている。彼等は彼等で親睦を深めるだろうから放っておくとして、俺が気になるのはイクスの事だ。出発前に火薬に必要な白い石を量産するよう頼んでおいたが、さて、どうなっている事やら。


出発前、仮の倉庫として建てた小屋に入ると、そこにはラビリントで見た覚えのある白い石が山積みになっていた。


「イクス?」
「あ、ケイオス。お帰りなさい!」


そんな大量に積み上がった石の陰から姿を現したのはイクスだ。久しぶりに見るイクスは元気そうで生き生きしている。今も自らのスキルで石を生み出していたらしく、彼女の両手からは白い液体がにじみ出ていた。


「ただいま――て、イクス、なんか水が出てきてないか?」
「あ、私がスキルを使うところは初めて見るんだったっけ? この白い液体が冷えて固まると、この白い石になるんだよ」
「へー……」


そう言うと、彼女は手慣れた感じで自らの手のひらにある液体を捏ねていき、ある程度の塊にして無造作に床の上に放り投げた。するとどう言う仕組みなのか、たった今まで粘性のある液体が一瞬で固まり、他の石と同様の姿となる。


「……面白いな」
「でしょ? 初めて見た人はみんな今のケイオスと同じ顔になるわ」


俺を驚かせた事で満足したのか、イクスはご機嫌だった。


「それにしても……結構貯まったな」


天井までと言ったら大げさだろうが、それでも床を埋め尽くすぐらいの量は確保できた。後はこれを細かく削っていかなくてはいけないんだが、それは別に彼女じゃ無くても出来る作業だ。誰か他の者に任せるとしよう。


「結構頑張ったからね。私は他に仕事も任されてないから随分捗ったよ。ところでケイオス。旅の成果はどうなの?」
「おかげさんで上手くいったよ。新しく仲間になったケニスって男が交渉上手でな。奴が上手く纏めてくれた。後で紹介するから顔を合わせると良い」
「そうするわ」


仕事に戻るイクスを残し、俺は小屋を後にした。これで火薬の生成に必要な三つの材料の内、二つを手に入れた事になる。ま、硫黄が本当に運ばれてくるか不安は残るものの、ケニスを信じて待つしか無い。後は木炭かと思い出発前に取りかかっていた窯の様子を見に行こうとしたところ、何者かがこちらに近づいてくるのが見えた。誰かと思ったら人族側の街に居るはずのシードだ。彼は随分急いで来たらしく、随分息を荒らげている。


「シードか。久しぶりだな。どうした?」
「不味いことになりましたケイオス様。ラビリント――いえ、この場合サイエンティアの国自体がケイオス様達の居所を察知したようです」
「!」


ひょっとしたら無かった事にされているかも知れない――そんな淡い期待を打ち砕くシードの報告に、俺は思わず天を見上げる。まあ流石に新兵器の開発研究所を吹き飛ばし多くの研究者を殺害したばかりか、わざわざ大金をはたいて連れて行ったイクスまで逃がしたんだ。見逃してくれるはずが無かったか。だがいつまでも落ち込んではいられない。瞬時に気持ちを切り替え、気合いを入れ直す。今はどうやって連中に対抗するかが問題なんだ。


「それで、連中の規模はどんなものなんだ?」
「総勢で二百名……と言ったところでしょうか。大っぴらに軍隊を動員して他国に駐留させるわけにもいかないので、表向きは傭兵団を名乗っています。ですがそんなものは少し調べればわかることです。連中、かなりの腕利きを集めているようです。完全に本気ですよ」


二百か……単純にこっちの倍はいる計算だ。今の戦力で対抗できるだろうか? 近くに居た魔族にシオン達を呼んでくるように指示を出し、俺はシードを連れて俺の屋敷へと向かった。皆の力を借りて、この難局を打破して見せよう。

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