とある魔族の成り上がり

小林誉

第82話 本心

「ほら」
「あ、ありがとう」


差し出されたスープ受け取るラウの横に断りもなく腰掛ける。彼女は普段話しかけてこない俺が隣りに座ったことで居心地が悪そうにしている。無理もない。以前ラウには加虐好きな金持ちに売り渡すと脅したことがある。あの時随分怯えていたし、まだその言葉が有効だと思っているのだろう。


「ラウ。一度お前とは話をしなきゃいけないと思ってた。正直に答えてくれ。お前、どういうつもりで俺達を助けるようになった? 何が狙いだ?」
「…………」


俺の質問にラウは黙り込む。下手な答えを返したら命が危うくなると警戒しているんだろうか。俺は彼女を急くことをせず、黙って答えが返ってくるのを待った。仮にも一度命を救ってくれた相手だ。それぐらいの誠意は見せておきたい。お互い無言で気まずい沈黙が流れる中、手持ち無沙汰な俺は手に持ったスープをちびちびと飲むだけだ。やがて覚悟が決まったのか、ラウは隣りに座る俺に真剣な眼差しを向けてきた。


「ねえケイオス。確かに以前の私は貴方のことが嫌いだった。ハーフだし、強そうにも見えなかったしね。最初はなんでこんな奴に好き勝手されなきゃいけないのかって、随分と恨んだわ。奴隷に落ちた原因が貴方にあるわけじゃないのにね」


そこで一旦言葉を切り、ラウはスープで喉を湿らせる。続きを促すと、彼女は再び口を開く。


「同じ奴隷であるリーチが死んだ時、貴方に言われた言葉がショックだった。なんて酷い事を言うやつなんだろうって、憎みさえした。何か弱みを握れないかと思ってずっと観察してた。でも……そうやって貴方のことを見ている内に段々と考えが変わってきたの。奴隷と一緒になって前線で戦ったり、身分の上下にかかわらず分け隔てなく接したり……ひょっとして、コイツ良いやつなんじゃないかなって思い始めた」


少し照れくさそうにする彼女を焚き火が赤く照らしている。今彼女の顔に赤みがさしているのは焚き火の影響だけなのだろうか。


「それに例の新兵器や自分の領地を作ろうとしてる野心家なところも気に入ったの。毎回無茶ばかりだけど、なんだかんだで上手く転んでいる。このままコイツと一緒に居たら、物凄く面白そうなことになるかもしれない。森を出てから人間と関わって、退屈な時間ばかり過ごしていたけど、このままケイオスと一緒に居たら、今までにない経験が出来るかもしれない。だからこれからも一緒に行動したいと思った。だから貴方達の味方をすることに決めたのよ。もちろん打算が無い訳じゃないけどね。貴方が私を手放すと言うなら私には止めようがない。でも、考え直してくれると嬉しい」


今まで思っていても口にすることが出来なかった言葉を言い切り、ラウはどこか清々しい表情を浮かべていた。俺に協力して変態に売り飛ばすのを止めさせたいのは本当だろう。同時に俺達と一緒に居たいという言葉も嘘ではないはずだと直感でわかった。


そこで俺も改めてラウの事をどう思っているか考えてみる。第一印象が最悪だったおかげで最初はいつ死んでも構わない、肉の盾程度にしか思っておらず、友情だの仲間意識は皆無だった。しかしエルフ達から庇ったことといい、脱出の手助けをしたことといい、今のラウには多少の猜疑心はあってもそれほど悪い感情は持っていないことに気がついたのだ。この調子で彼女が打ち解けるなら、俺も考えを改めてみるのも良いかもしれない。


「そうか、お前の気持ちはわかった。正直言って完全に信用できるわけじゃないが、お前の行動には一定の信頼を置いていいと思っている。だから改めて仲間として歓迎しよう。ただし、もし今の言葉が偽りなら――」
「その時は変態に売り渡されるんでしょ? わかってるわよ。ケイオスの怖さはね。こちらこそ、改めてよろしくお願いするわ」


差し出された手を握り返す。ここにきて本当の意味でラウが仲間になったといえるだろう。彼女の弓の腕はなかなか頼りになるし、積極的に味方してくれるなら頼もしい存在になるはずだ。一つの懸念が解消されたことに安心し、その日の夜はぐっすりと眠ることが出来た。


翌日。早朝から出発した俺達は順調に飛行し、三度の野営を済ませた後でとうとうマシェンド同盟の領内へと辿り着いていた。もう俺達の拠点となる屋敷は目と鼻の先だ。後数時間も飛び続ければ到着できる距離だろう。船でなら長々と一月ほどかかる道のりを、ペガサスならその半分程度の時間で移動することが出来る。しかも追っ手の目をくらますために大回りをした上でだ。その機動力は傭兵団を維持していく上で、かなり重要なものになると改めて実感されられた。今後は兵隊を増やすのももちろんだが、ペガサスや馬なども集めなくてはならないだろう。足が速いと言うことはそれだけ行動範囲の拡大を意味し、窮地から逃げ出す手段にもなり得るのだから。


「ケイオス。屋敷が見えてきたぞ」


先頭を行くリーシュが指差す先には、一月以上前セイスの権力で手に入れた屋敷の姿が見えてきた。簡単な護衛の仕事のはずが何度も死にかけ、挙句新兵器の開発やら軍事施設の破壊など、ろくでもない事ばかりの旅だったな。だがこれでやっと一息つける。せめて今日一日ぐらいは体を休めて、動き出すのは明日からにしよう。

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