とある魔族の成り上がり

小林誉

第79話 強化

「クッ! 貴様ら!」


シーリが参戦したことで戦況は逆転した。何とかして窮地を脱しようとするミストラルだったが、氷の矢を乱射する俺とシーリの二人を同時に相手をすることなど到底不可能。氷の矢を回避した直後にシーリの放った衝撃波をまともにくらい、声も上げずに崩れ落ちることになった。


「く……ぐっ……!」


それでももがこうとするミストラルはシーリによってあっさりと組み伏せられ、完全に身動きを封じられてしまう。その手際の良さには感心するばかりだ。


「ところでシーリ、お前がここに来たってことは、牢に閉じ込められている連中は開放されたのか?」
「いいえ。彼等は今も牢の中だと思いますが?」
「なんだって!?」


てっきり救出してから俺の加勢に来たのかと思ったのに、放ったらかしかよ!


「な、なんでそんな事を……このままじゃあいつ等が殺されるかもしれないんだぞ!?」
「それはそうですが……最優先されるのはケイオス様の身の安全であって、彼等ではありません。それに彼等とて武人の端くれ、むざむざとやられることはないでしょう」


そのあまりと言えばあまりの言い草に思わず絶句してしまう。支配の影響下に置かれた人間の忠誠心を甘く見ていた。まさかイクス達を丸ごと見捨ててでも俺を優先するとは思いもよらない事だったのだ。


「ならすぐに助け――いや、待てよ」


このままイクス達を救出に行くより、こちらも準備を整えたほうがいい。まず伸びているアルウェンとミストラルのスキルを奪い、その後でミストラルを人質にすれば、上手く行けば犠牲者を出さずにこの森を後にできるかもしれない。そう考えた俺は、まずアルウェンからスキルを奪うべく彼女に近寄った。右手に吸収スキルで生み出した短剣を気絶しているアルウェンの胸に狙いをつける。恐らく彼女の吸収も俺と同じユニークスキルだと思うが、それを吸収した場合どんな影響が俺に出るのか予測がつかないのが怖かった。


アルウェンの譲渡を吸収したら俺の今持っているスキルが消失する可能性もある。だがそれ以上に俺と同じスキル持ちを自由にさせる危険は避けたいし、何より譲渡のスキルは魅力的過ぎた。やりようによっては、俺の仲間達に任意のスキルを与えることも可能なのだから、戦力を強化する上でこれ以上の能力は無いはずだ。


ゴクリ……と喉を鳴らし、覚悟を決めてアルウェンの胸へと短剣を振り下ろした。短剣は狙い違わず吸い込まれるように彼女の胸へと突き立って、その衝撃によって気絶していたアルウェンが目を覚ます。彼女は自分の胸から生える短剣を見た途端状況を察したらしく、必死で抵抗しようと試みるも、吸収されている人間特有の虚脱感に襲われているのか、弱々しく手を伸ばすのが精一杯のようだ。


「あ……あ……」


そして吸収を実行している俺の方も、いつもとは違った手応えがあった。今まで体の変化と同様に、俺もアルウェンと似た姿になるのはわかる。しかし、今度の変化は俺の予想以上のものだった。肌が白く変化していく。まるでエルフと同じように。そして髪の色が金髪に変化したことに加え、耳が大きく長く尖った形になった。胸元が若干寂しくなって、体全体が華奢になった印象だ。そして体の中から活力がみなぎってくるではないか。


「ケイオス様……そのお姿は……」


俺の変化にシーリも驚いているようだ。鏡こそ無いがなんとなく予想はつく。恐らく今の俺は、目の色以外エルフと見分けがつかなくなっている事だろう。そしてスキルを吸収し終え、アルウェンから短剣を引き抜くと静かに目を閉じる。すると瞼の裏に、新しいスキルが表示されていた。


『吸収 強』 『譲渡』 『支配』 『氷の矢』


吸収スキルを持っているのに新たに同じスキルを加えた影響か、吸収スキルに『強』という文字がついている。ひょっとしたら同じスキルを吸収すると所持していたスキルを強化できるのかもしれない。しかし今の段階では確かめようがないし、これは後回しでいい。今は他にやることがあるからな。


「き……貴様……! その姿は……!?」


脱力したアルウェンをその場に残し、俺の姿に驚くミストラルに無言で近寄って無造作に短剣を振り下ろした。背中に刺さった短剣に驚くミストラルは体に起こった変化で驚愕に顔を歪めている。そんな彼をよそに、俺の体にも変化が起きていた。肌や髪の色は変化がないが、体全体の筋肉が増えているのだ。そして胸板は厚くなり、股間に懐かしい感覚が戻ってくる。


「おお……ケイオス様がエルフの男に!」
「ふむ……なるほどな」


手を開いたり腕を回したりして自分の体の感触を確かめてみる。確かにシーリの言うとおり、俺の姿はエルフの成人男性に変化しているようだ。そして目を閉じて確かめてみると、たった今ミストラルから吸収したスキルが新たに追加されているのがわかった。


『吸収 強』 『譲渡』 『支配』 『氷の矢』 『暴風』


これでユニークスキルが三つに通常のスキルが二つ、計五つのスキルが俺のものとなった。支配が消えなかったことにとりあえずホッとする。しかもなんとなくではあるが、ユニークスキルが消えるようには思えなかったのだ。アルウェンからユニークスキルを吸収した事で、本能的にスキルについての理解が深まったというか、なんとなく限界やその使用方法などがわかってしまう。これはスキル以上の収穫といえるだろう。


目を閉じて、意識を集中する。そして体の隅々にまで力を行き渡らせるイメージをすると、自分の体が変化していくのが感じられた。時間にすれば十秒かかったかどうかだったが、狙い通りに俺の体は変化を終える。するとそこには、本来の形を取り戻した俺の姿が現れていた。




「ケイオス様!? また体が変化を!」
「ああ、なんとなく出来る気がした。恐らく奪ったスキルの持ち主に近い姿に変身できる能力が増えたみたいだ」
「凄い……それはスキルなのですか?」
「いや、これはあくまでも吸収スキルの副産物といった感じだな。元になるスキルがなくなれば、その持ち主だった者に似せた変身も出来なくなるはずだ」


たぶんシオンに似せて魔族の姿になるのも、氷の矢を放ってきた雪狼になるのも可能だろう。いろいろ試してみたくはあるが、イクス達を助け出すのが先だ。俺は悔しげに顔を歪めるミストラルを抱え起こし、その喉元に彼から奪った短剣を突きつけた。


「な……何の真似だ?」
「なに、人質になってもらおうと思ってね。お前と引き換えに仲間達の開放を要求するだけだよ」


そう、仮にも集落の長であるミストラルを見捨てて、エルフ達が攻撃してくるとは思えない。それにスキルはともかく彼等エルフに人的被害が出ているわけでもないので、交渉は案外簡単に運ぶだろうと予想できる。ミストラルが自分を犠牲にしてでも俺達に攻撃させるほど気概のある男とも思えないし、決裂しても今の俺ならエルフ達を蹴散らせる自信がある。


「よし、いくぞシーリ」
「はい、ケイオス様」


ミストラルを前に立たせながらゆっくりと出口に向かう。待ってろよみんな。すぐ助けてやるからな。 

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