とある魔族の成り上がり

小林誉

第71話 逃げ出す算段

イクスを仲間に引き込んだのは良い。彼女の力さえあれば、俺達だけで火薬を作りだすのも可能だろう。木炭や硫黄のそれぞれの配合が詳しく知りたいところだが、とりあえず材料に何が必要かだけわかっていれば後は何とでもなる。だが今重要なのはそれではなく、どうやってこのラビリントから抜け出すかと言う事だ。


トルエノ達の監視を振り切ってこの複雑な造りの迷宮都市に潜り込めば何とかなりそうだが、仮にもこの都市の警備兵が塵に疎いとは考えにくい。逃げ込んだはいいが、街から出る事も出来なくなるはずだ。それにライオネルも無視する事は出来ない。イグレシア商会とラビリントは経済的な結びつきがあるはずだから、俺がラビリントを敵に回した時点でイグレシア商会も敵に回ると考えるのが普通だろう。と言う事は、いざ事を起こす時ライオネルに感づかれる訳にもいかない。


「俺達だけで何とかしなきゃな……」


現状、俺達は敵地で孤立無援の状態だ。まともなやり方でマシェンド同盟まで辿り着けるとも思えない。ならどうするか? それを全員で考える必要があった。


「と言う訳で、イクスは俺達の仲間になった。この状況でどうやって俺達の街まで戻るか、みんなの知恵を借りたい」


翌朝、実験施設を見学しに出かける為宿を出て行ったイクスを見送り、俺達賞金稼ぎ一行は宿の一階にある食堂の隅に集まっていた。イクスはまだ軟禁状態には無いが、自由に動き回れなくなるのは時間の問題どた思う。


「ただ帰るだけならライオネル達と一緒に船に乗り込めばいいが……それだとイクスは連れていけないしな」


ハグリーの言葉にその場の全員が頷く。船で行ければ楽なんだが、俺達に操船技術を持った者は一人もいない。仮に手ごろな船を奪ったところで湖で迷子になるか、追手に追いつかれるのがオチだろう。


「船が駄目なら陸路になるけど、何か月かかるかわかんないわね」


そう。ルナールの言いうように、陸路ならとんでもなく時間がかかる。妨害があったとは言え船ですら一か月かかった距離を陸路で遠回りするとなると、軽くその倍はかかりそうな気がする。


「その間はラビリントと他の国の追手からも狙われる事になる。あまり現実的じゃないな」
「だよな……」
「なら、空路しかないぞ」


この中で唯一飛行能力を持つリーシュの一言に、全員の注目が集まった。彼女は果実の汁を薄めた飲み物が入った杯を置き、周囲に目線を走らせながら声を落とす。


「昨日から何度か目にしているんだが、この街にはペガサスが少なくない数飛び交っている。恐らく街の造りが原因なんだろう。迷路を歩き回るより空を飛んだ方が手っ取り早いからな。でも、それを手に入れる事が出来れば……」
「なるほど、簡単に街を抜け出せると言う訳か。確かに空を飛ぶなら陸路で帰るより遥かに簡単だ。ただ問題は――」
「そう。どうやってペガサスを手に入れるかだな」


ペガサス――羽の生えた馬の形をした魔物だ。野生でもたまに見かける魔物ではあるが、人が騎乗しているものの多くは子供の頃から飼いならされた個体ばかりなので、この場合狙うのは誰かの所有物と言う事になる。


「あれって買うと高いんだろ?」
「普通の馬の何倍もするはずだ。優れた血統のペガサスなら小さな家が建つぐらいの値がつくと聞いた事がある」
「なら、盗むしかないか……」


どこから盗むかが問題だ。個人からでも軍からでも盗むと大騒ぎになるのは同じ。仮に個人から盗んだとしても、人数分集めるまでにペガサスを確保しておく場所がない。と言う事は軍から盗むのが一番と言う事になるが、それが一番難しいのだ。


「ペガサスってのは、馬のように簡単に扱えるのか?」
「その点なら問題ない。我等翼人種はある程度空の力の弱い魔物を従わせる力がある。ペガサス程度なら何頭居ようが私の意思で従わせる事が出来るはずだ」
「そんな技があったのか。となると、後はどうやって奪うかだが――」
「それなら私にお任せください」


自信満々に言い切ったのは、今まで黙って話を聞いていたシーリだった。彼女はやっと自分の力が俺の役に立つ時が来て嬉しいのか、少し興奮気味に身を寄せてくる。


「私のスキル『衝撃』を使えば、見張りを一気に無力化する事が出来ます。厩舎の見張りぐらいならそれほど数も居ないでしょうし、私一人でも十分なぐらいですよ」


確かにシーリの腕なら一人で制圧する事も可能かも知れない。現にハグリーやレザールと言った強者でも手こずる敵を一人で圧倒するのを目にしている。自信を持つだけの事はあるのだ。


「よし、なら軍からペガサスを奪おう。その際何か騒ぎを起こしてイクスから目を逸らす必要があるが、それについては考えがある。とりあえず、今晩にでもリーシュとシーリで軍のペガサスがどこに居るのか、この宿からどうやって辿り着けるのか、地形を把握しておいてくれ」
「わかった」
「承知しました」


よし、これで方針は決まりだ。後はイクス自身に協力してもらうため、今晩にでも詳しい話をしよう。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く