とある魔族の成り上がり

小林誉

第61話 シーリ

ルナールを抱えたリーシュが忙しく羽ばたきながら降りてきて、地面にのびたままの襲撃者を三人で囲む。幸い二人とも怪我は無いようだ。さっきのスキルは外傷を与えるタイプじゃなかったようだな。


「さて、どうしたもんか」
「目が覚めない内に殺した方がいいんじゃない?」
「同感だな。またスキルを使われてはたまったもんじゃないぞ」


さっき酷い目に遭った二人は殺す事に肯定的だ。下手をしたら殺されてたところだから無理もないが、少し落ち着いて欲しい。


「まあ待て。殺す前に試したい事がある」


そう、これほど腕の立つ人間をただ殺すのは惜しい。腕が立つだけでなくスキルまで使えるとなったら、是非味方に引き込んでおきたいものだ。こいつだけは他の襲撃者と明らかに格が違っていた。実質一人で俺達三人を倒した様なもんだからな。


「まずは支配を試そう。上手く仲間に出来ればこいつの口から敵の陣容がわかるかもしれない。それに今のでかなりダメージを負っているようだから、ここから痛めつける必要は無いだろ。駄目ならスキルを吸収して無力化しておきたいし」


さっきの衝撃波のようなスキルは魅力的だ。氷の矢と違って物理的に防げないようだから使い勝手がいい。とりあえず顔でも拝むかと襲撃者の覆面を剥ぎ取ると、中からは整った顔立ちの女の顔が出てきた。


「女だったのか」
「結構美人よね」


若い女だ。俺より少し上――と言っても五歳も離れていないような思える。二十代になったかならないかぐらいだろう。口々に感想を漏らす二人を余所に、俺はゆっくりと精神を集中させると襲撃者の胸元に手を置き、意識の触手で全身を絡め取っていく。するとセイスやシードの時と同じようにビクリと体全体が震え、再び脱力してしまった。


「成功かな? 起こしてみるか。二人とも、こいつが暴れてもいいように準備してくれ」


リーシュとルナールの二人がそれぞれの武器を構え、倒れたまま動かない襲撃者の喉と胸にピタリと切っ先を突きつけた。目覚めて暴れ出す用なら容赦なく殺す。こいつはそれだけ油断のならない相手だ。二人が準備したのを確認した後、少々手荒ではあるが襲撃者の胸ぐらを掴んで引き起こし、容赦のない張り手を二、三発かます。すると多少混乱しながらだったが女は目を覚まし、寝ぼけたように俺を見つめる。次第に意識がはっきりしてきたのか、俺を見る女の目の焦点が徐々に合ってきたようだった。


「あ……わ、私は何という事を……!」


俺と目が合った途端、端正な顔を引き攣らせて涙目になる襲撃者。その意外な反応に戸惑う俺達が見守る中、ガバリと起き上がった襲撃者はその場で地面に頭を擦り付けた。


「申し訳ありませんでした!」
「え……?」
「自らの主に刃を向け、あまつさえそのお命を危険に晒すとは! このシーリ一生の不覚! かくなる上はこの命を絶つ事で謝罪の証とさせていただきましょう! さあ、遠慮なくこの胸を突いてください!」


と言いながら、豊かな胸を誇示するように突き出す女。その大きさに若干二名ほど顔を引き攣らせていたが、今は置いておこう。名前はシーリだったか? シーリは俺達が口を挟む間も与えずに一方的に喋った後、一人で覚悟を決めて強く瞼を閉じている。……一応『支配』は成功したようだが、なぜだろう……素直に喜べない。なかなか厄介な性格の奴を仲間にしてしまったようだ。


「あー……シーリだったか? とりあえず落ち着いてくれ。俺達は気にしていないから死ぬのは無しだ。それより質問に答えてくれるか? お前の主は誰だ?」
「主ですか? 私の主は今目の前に居る貴女様です! ええと……残念ながらお名前は存じ上げませんが、とにかく私の主は貴女です!」
「暑苦しい奴だな……」


横に居るリーシュがうんざりした様な表情でつぶやく。俺も出来れば関わりたくない人種ではあるが、今は他に優先する事がある。


「シーリ、俺の名はケイオスだ。先に俺の質問に答えてくれ。お前は誰の差し金でイクスを襲った? 他にも仲間は居るのか?」
「ええと……他はどうだか知りませんが、私の雇い主は学術国家サイエンティアの南にある軍事国家、アルクスです。理由までは知りませんが、ハーフの女の身柄を確保せよとの命を受け、恐れ多くもケイオス様に刃を向ける結果となってしまいました」


命を受けって事は、シーリはアルクスの軍人のようだな。それなら腕が立つのも納得だ。襲撃の理由を知らせていないってのは何が理由だろうか? 万が一裏切れられ場合の保険なのか、それとも末端の兵士に教える必要は無いと思っているのか、真相は不明だ。とにかく今ハッキリしているのは、シーリから大した情報は聞き出せないと言う事だけだった。


「ケイオス、そろそろ人が集まってくるぞ」
「そうだな……」


騒ぎを聞きつけ、警備兵達が集まって来たのだろう。ここに留まっていれば確実に尋問されるし、シーリが見つかるとマズい。性格はともかく腕は一流なのだから、ぜひこちらの戦力に組み込まなければ。


「よし、一旦ここを離れよう。宿に戻る前に適当な衣服を調達してからシーリを着替えさせる。このままだと確実に捕まる格好だからな」
「お心遣い感謝しますケイオス様! さあ、お二人とも。参りましょう!」


まだ互いの名乗りも済んでいないのに、いきなり仕切りだしたシーリにリーシュ達は渋い顔だ。ま、頼もしい仲間が味方になったと考えれば、この暑苦しさなど気にもならないだろう。俺達は屋根伝いに走ってきた方角に向けて、入り組んだ路地を走り始めた。

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