とある魔族の成り上がり

小林誉

第54話 不協和音

「船員の三分の一がやられました。生き残りの半数も負傷しているため、今まで同様の船速を出すのは難しいかも知れません」
「……そうですか」


敵の遺体を湖に捨て、味方の遺体だけは船尾の一角に集める作業を手伝っていた俺に、ライオネルが状況を説明してくれた。強面の彼ならこんな事態も平気かと思ったがそんな事は無く、ライオネルは随分憔悴しているようだ。長年付き合いのある船員達に多くの犠牲が出た事が堪えているのだろう。


生き残りの船員達の内、何人かが遺体に取りすがって大声で泣いている。生き残った連中が黙祷を捧げる中、船員の一人が俺達を睨み付け、突然怒鳴り声を上げた。


「お前等賞金稼ぎがちゃんと働かないからこうなったんだ! 何のために船に乗っているんだよ! 俺達を守る為じゃないのか!?」
「そうだ! お前達は体を張るのが仕事だろうが!」
「これだけ人死にを出しておいて、責任も取らずに報酬だけ貰おうってのか!」
「なっ!?」
「何だと? もう一度言ってみろ」


最初に声を荒げた男に便乗して何人かが抗議の声を上げ始める。俺が反論するより速く、短気なリーシュやレザールなどが武器に手をかけ怯んだ彼等との間に緊張が走るが、そこに割って入ったのがライオネルだった。


「落ち着けお前達! ファウダーさん達に責任はない!」
「しかし船長!」
「ないんだ! ファウダーさん達の仕事はあくまでもイクス殿の護衛であって、我々の身を守る事じゃない! イクス殿を守るついでに船を守っているに過ぎないんだ!」


ライオネルの言う通り、俺達の仕事はイクスを護衛してラビリントまで連れていく事。それ以上でも以下でもない。気持ちはわからんでもないが、船員達の抗議は的外れでしかない。


「それに悪いのはあくまでも襲撃者達だろう? お前達もイグレシア商会の一員なら、こうなる事は覚悟をしていたんじゃないのか?」


ライオネルの言葉に不満の声を上げた船員達が黙り込む。しかし納得していないのはその険しい視線で丸わかりだった。不満げな態度を隠そうともしない彼等は憎々し気に俺達を睨み付け、自分の持ち場に戻って行った。


「すまなかった皆さん。あいつらも初めての事で興奮していたんだ。どうか許して欲しい」


彼等を追い払ったライオネルが深々と頭を下げてきた。ひょっとしたら彼も俺達に対して八つ当たりしたい気持ちがあるのかも知れない。だがそれを一切態度に出さず、冷静に船長として仕事が出来るライオネルは称賛に値するだろう。こっちとしてもこれ以上問題を大きくするつもりは無いし、何より旅はまだ始まったばかりだ。船員達とはもめない方が良い。


「お気になさらず。文句を言いたくなる気持ちも理解できますから。お前達もそれでいいな?」
「まあ、ケイオスがそう言うなら……」
「次に喧嘩を売って来たら容赦せんがな」


不承不承頷いたリーシュ達が見張りの仕事に戻って行く。こっちも納得してないな。お互い苦労しますねとばかりに視線を交わした俺とライオネルは、思わず苦笑してしまう。


「ところでライオネルさん。このまま真っ直ぐラビリントに向かうんですか?」
「そうしたいところですが、現状ではそうもいかなくなりました」


そう言ってライオネルが指さしたのは、船を進める動力でもある帆だ。今まで気がつかなかったが、よく見れば所々破けていたり、帆を縛るロープが切断されていたりと破損が激しい。なるほど、この状態では別の襲撃があった場合、簡単に捕捉されるに違いない。


「修理が必要ですか。しかしどうします? 湖の上で修理や補給などは無理なんじゃ……?」
「それがそうでも無いんですよ。我々の運は尽きていなかったようです」


ライオネルの話によれば、このまま北西に進路を取った先に、巨大な水上補給基地があると言う。そこは完全中立地帯であり、いかなる揉め事も許さない治安の良さを誇っているそうだ。各国に取り囲まれた湖の上にある為どこの国にも属さず、自治権を獲得した独立勢力らしい。


「その分割高な額を請求されますが、安心して寄港する事が出来ますよ」
「そんな物があるんですか……驚きました」


この世界の事を色々と教えてくれたワイズからも聞いた事が無い。驚く俺に気をよくしたのか、無理にでも気分を切り替えるためなのか、明るい調子でライオネルは話を続ける。


「実際行ってみればもっと驚きますよ。レイク・ヴィクトリア号。このリムニ湖を統べる、水上の女王を見ればね」



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