とある魔族の成り上がり

小林誉

第50話 条件

「おい、ラウ。お前どういうつもりだ?」


険しい表情で詰め寄る俺を馬鹿にするかのように、ラウは薄ら笑いを顔に張り付かせながら俺から視線を逸らす。


「別に。仕事はしたし、命令には従っているでしょう? なら何も問題ないんじゃない?」
「大ありだ! あのままお前が動かなかったら、依頼を失敗してたかもしれないんだぞ!」


俺の剣幕にもどこ吹く風で、完全にこちらを舐めきった態度だ。コイツが反抗的なのは今に始まった事じゃないが、流石に今回の事を許す訳にはいかない。このままコイツに何の罰も下さなければ他の奴隷に舐められるし、ライオネル達依頼主の信用も失ってしまう。


「……お前、そんなに俺の奴隷である事が気に入らないか?」


俺の言葉に薄ら笑いを貼り付けていたラウは急に真顔になり、憎悪を籠めた瞳でこちらを睨み付ける。


「何度も言ってるでしょ! 奴隷だけでも嫌なのに、ハーフの奴隷なんてまっぴらよ! どうせなら金持ちの奴隷にでもなりたかったわ!」
「……そうか。わかった。なら一つ条件を出そう。この仕事を真面目に勤め上げれば、奴隷商を通してお前を他の人間の奴隷にしてやる。解放したらこっちも大損するからな。こちらとしては、それがお前に出来る最大限の譲歩だ」


予想もしてなかった俺の提案にラウの顔が一瞬緩みかけたものの、彼女は瞬時に表情を引き締める。


「……どうせ口だけで、本当は嘘なんでしょ?」
「嘘じゃないさ。こっちとしてもお前みたいな奴にいつまでも居られては迷惑だからな。お前を売って他の奴隷を仕入れた方がマシだ」
「……そう。じゃあその条件を飲むわ。この仕事が終わるまではまじめに仕事をしてあげる。なによ、あんた、結構話ができるじゃない」


思わぬ好条件に喜ぶラウに対して、ハグリーとグルトは何も言わない。彼等は冷めた目でラウを見つめる俺の表情から、こちらが何を考えているのかある程度察したのだろう。勘のいいライオネルも一人浮かれるラウに肩をすくめるだけだ。彼等が察している様に、俺はラウをよくしてやる気などさらさら無かった。美形のエルフでしかも女。これだけでも大金を払う変態共は山ほど居るはずだ。そんな奴等に引き取られたらどうなるかなど簡単に想像できる。なに、買い手がどんな人間でも構わないさ。俺としては金さえ入ればそれでいいのだ。


「話は済んだかな? 申し訳ないが行動を再開したいんだが」
「失礼しました。船に戻りましょう」


絶妙のタイミングで割り込んで来たライオネルに頭を下げ、俺達は襲撃者達の死体をそのままに歩みを再開させた。最初の襲撃を切り抜けたとは言え、再び襲われない保証はない。警備を呼ぶと後が面倒だし、早めに船に戻った方が良いだろう。幸いその後は特に問題なく俺達は船へと辿り着く事が出来た。ひょっとしたら船も襲われている可能性もあったが、ここは多くの人でごった返す港。こんな所で襲い掛かるほど敵も馬鹿ではなかったようだ。


「イクス殿には部屋を用意させています。どうぞこちらへ。ファウダーさん達は出航まで周囲の警戒をお願いしますよ」
「お任せください」


イクスと共に船内に消えていくライオネル達の背中を見送りながら、周囲を観察してみる。既に補給物資は詰み終わったらしく、船員達は全員船の上だ。彼等は今、係留しているロープを外すのと、帆を広げる作業に追われていた。


「ケイオス。大変だったみたいだな」


誰かと思えばリーシュだ。彼女はハグリーから事情を聞いたようで、リーチと談笑するラウに視線を向けていた。ラウは既に自分が解放された未来を頭の中に描いているようで、帰り道からずっと笑顔のままだ。それを見るリーチは悔し気に歯を食いしばり、足早に俺の下へ近寄って来た。


「おい、あの女を解放するってのは本当か?」


やはりコイツもか。ラウだけで収まるはずが無いと思っていたが、予想通りすぎてゲンナリする。


「解放じゃなくて別の人間に引き取らせるんだよ。ひょっとして、お前も同じようにしてほしいのか?」
「当然だ! どうせならまともな人間の下で働きたいからな。真っ当な人族なら、真面目に働けば将来解放してくれるに違いない。誰かさんみたいな混じり物と違ってな」
「コイツ……!」


あまりと言えばあまりの発言に一瞬リーシュが気色ばむが、それを手で制する。


「いいぜ。お望み通りにしてやる。この仕事をちゃんと完遂すれば、ラウと同じく奴隷商を通じて他の人間にお前を譲り渡そう」
「本当か! 嘘じゃないんだな!?」
「くどいぞ。二言は無い」


俺の言葉を聞いたリーチが跳び上がらんばかりに喜んで、上機嫌でラウの下へと駆けて行った。やれやれ、おめでたい連中だ。


「ケイオス。いいのか?」
「構わんさ。あんなのが居たら士気にかかわるしな。それに、俺はまともな人間に奴等を売るつもりは毛頭ないんだ。散々人を侮辱してくれた礼はキッチリと返してやるとも」


俺の瞳の奥に燃える暗い炎を感じ取ったのか、リーシュの喉がゴクリと鳴った。そう、奴等を買い取ってからと言うもの、俺は自分の甘さを初めて自覚出来た。ハーフと言う常に虐げられてきた境遇のおかげで、無意識のうちに奴隷達に対して仲間意識を感じていたのだ。そのせいで奴等のように人を舐めた態度をとられてしまった。先の事も考えるとそろそろ配下に対する厳しさが必要だろう。敵だけでなく、必要なら味方に対しても非情に徹する覚悟を決めつつ、俺は船室に戻るのだった。



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