とある魔族の成り上がり

小林誉

第49話 襲撃者

ドゥーリン商会の商館を後にした俺達は、ライオネルを先頭に来た道を戻りは始めた。集団の中心にはイクスが居て、その周りを船員と俺達賞金稼ぎで囲っている。万が一襲撃されても俺達や船員達が肉の壁になって、イクスだけは逃がす手はずだ。しかし、おかしな事にイクスと同じく中心には賞金稼ぎで護衛役の俺が居た。当初の予定にはなかった事だが、ハーフで同姓な上に年齢も近い俺がイクスの影武者を務める事になってしまったのだ。


「鎧って重いのね。皮でこれなんだから、鉄製なんか着こむと身動き取れなくなりそう」


出発前にドゥーリン商会が用意した皮鎧を身に着けたイクスがボヤいている。イクスの年齢は今年で十八。少し大きめの目で、明るい印象を受ける女だ。まだ幼さが残っているので美人と言うより可愛いと言う印象だ。茶色の髪を無造作に背中に流し、体つきは華奢の一言。身長は俺より少し低かった。


「しばらくの辛抱ですよ。船に乗りさえすれば脱いでしまって構いませんから」


イクスをなだめるライオネルは、先頭を歩きながら周囲の警戒を怠ってはいない。敵が監視役を放っているなら既に俺達が商館を出た事は知られているだろうし、襲撃は船に乗り込むまでの短い間が最も可能性が高い。襲撃対策に人通りの多い所を遠回りして進んではいるが、どうしても人気の無い場所を通る必要が出て来る。何かあるとすればそこだろう。


ふと周囲に視線を向けて見る。同行してきた船員達はともかく、ハグリーとグルトは武器に手をかけていつでも戦えるようにしているものの、ラウだけは相変わらず不貞腐れた顔で特に警戒している様子もない。まったく、エルフってのは全員こんな感じなんだろうか? 先が思いやられる。


「お客さんですね。お前達、イクス殿から離れるな。ファウダーさん、賞金稼ぎの実力を見せてもらう時が来ましたよ」


ライオネルの静かな警告の言葉にハッとすると、俺達の行く先を六人の人影が塞いでいた。ここは細い路地で人気は少ない。一瞬街のゴロツキかとも思ったが――違う。ゴロツキなら覆面をしてまで人を襲ったりはしないだろう。間違いなく襲撃者だ。


こちらが何者か問うまでもなく、正面からゆっくり近づいて来る集団は腰の剣を抜き放ち、一気に距離を詰めてきた。問答無用とはこの事だろう。


「やるぞ!」
「おうよ!」
「わかった!」


俺、ハグリー、グルトが駆け出し、ライオネルと船員達がイクスの周りを固める。だがただ一人、ラウだけはその場から動こうとしなかった。


「ラウ! お前……くっ!」


怒鳴りつけてやりたいところだったが、覆面達は目前まで迫っていた。俺とイクスのどちらが本命かわからないのか、二手に分かれて俺とイクスに向かって来た。殺すつもりは無いのか、肩を狙って振り下ろされた短剣を槍で払い、反撃しようとしたところを別の覆面に攻撃されて防御に回される。


「こっちじゃない! そっちが本命だ!」


今の一瞬の攻防だけで俺が偽者だとバレたのか、覆面の一人がイクスに向かって駆け出した。グルトは狭い路地だと言うのに器用に長剣を振り回し、巧みな剣さばきで覆面二人を同時に相手にしている。ハグリーはいつものように怪力で斧を振り回す為、敵も味方も近づけない状態だ。


俺達が交戦している横を残りの覆面がすり抜けていく。荒事専門の賞金稼ぎ以外なら何とかなるとでも思ったのだろう。だがそうはいかない。俺は正面に立つ覆面に向けて槍を一閃させて一旦後方に跳び、たった今走り抜けていった覆面の背中に向けて氷の矢を撃ち出した。


異変を察知した覆面が慌てて振り返り、剣ではたき落そうとしたものの、氷の矢の速度は奴等が剣を抜くよりずっと早い。一人は胸を貫かれて崩れ落ち、もう一人の肩をかすめて通り過ぎていった。覆面は負傷しながら更に走る速度を上げイクスに迫る。迎え撃つライオネル達は緊張した面持ちで剣を構えているが、彼に期待する前にやる事があった。


「ラウ! 命令だ! 体を張ってそいつを止めろ!」


俺の命令に逆らうつもりだったのだろうが、瞬時に首が閉まったラウは嫌々ながらライオネル達と覆面の間に体を割り込ませ、覆面の一撃を剣で跳ね上げた。その隙を見逃さず、ライオネルが突き出した剣が覆面の喉に深々と突き刺さる。後方でもハグリーとグルトに倒された覆面達の崩れ落ちる音が響いた。


時間にすれば一瞬。二分と経っていなかったはずだが、疲労感は相当なものだ。やれやれ、なんとか終わったな。みんな無事に自分が生き延びられた事にホッと一息ついている中、俺だけは厳しい視線でラウを睨み付けていた。

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