とある魔族の成り上がり

小林誉

第43話 疑問

自治都市連合国家であるマシェンド同盟には、いくつもの商会が各都市に軒を連ねている。セイスが治めるこの街にもそう言った商会は多く、その中でもイグレシア商会は中の上といった規模の商会だった。ちなみにセイス自身は商会を経営している訳では無く、各商会からの陳情――所謂献金を受け取って街を運営している。自治都市議長の座は商会と関わりの無い者がその地位に就くと決まっているためだ。最高責任者がどこかの商会の出身者なら不公平が発生すると言うのがその理由だが、実際には献金の多い商会の思惑通りに街は統治されていた。


それはともかく、イグレシア商会だ。組合で依頼の資料を受け取った俺達一行は、依頼主が待つであろう商館に足を運んでいた。なかなか繁盛しているようで、荷物を抱えた行商人や馬車に荷を積む人夫などがひっきりなしに出入りしている。俺はそんな人混みを掻き分けて中に入り、談笑していた商人の一人に声をかけた。


「ちょっといいですか?」
「はい、どういったご用件でしょうか?」


流石は商売人。俺の外見を目にしても眉一つ動かさず、見本のような笑顔で対応してきた。そんな商売人の鑑と言うべき態度をとる商人に来訪の目的を告げると、それほど時間を置かずに俺達は商館の奥へと通された。豪奢な調度品が所狭しと並べられている部屋の中では、この商館の主と思われる男が優雅にお茶を楽しんでいるところだったようだ。男の年齢は四十過ぎぐらいだろうか? でっぷりと肥え太り、着ている服などは今にもはち切れそうだ。顔などは贅肉でパンパンに膨れ上がっており、まるでカエルの様だった。


「支店長。例の護衛に応募してきた方々をお連れしました」
「ご苦労。後は私がやるから、お前は下がっていい」


そのカエル男はゆっくりとした動きで席を立ち、来客用に使うであろうソファに体を投げ出すように腰かけた。男の体重が重すぎるのか、値の張りそうなソファは少しばかり軋んだ音を立てる。無言で席を勧めて来る男に一礼し、男の反対側に俺とリーシュのみが腰かけた。後の連中は後ろに立ったまま控えている。


「ようこそみなさん。私はこのイグレシア商会ディマンシュ支店の支店長を務めるフロッシュ。歓迎しますよ」


脂ぎった顔に笑顔を浮かべながら差し出された右手を、俺とリーシュが順番に握り返す。うう……ベタベタして気持ち悪い……


「さて、早速依頼内容の説明といきたいところなんですが……まずはそちらの代表者が誰か教えてもらってもよろしいですかな? 見たところ奴隷の証である首輪を着けていない貴女がリーダーのようだが……」


目線だけキョロキョロと奴隷達に飛ばしたフロッシュは、一瞬で各自の身分を把握したようだ。やはり大きな街の支店長を任されるだけあって、この男ただ者ではない。その鈍重そうな外見に騙されて侮ったりすると痛い目を見そうだ。俺は密かに気合を入れ直し、フロッシュに負けないような造り笑顔を浮かべて名乗る。


「ええ、お察しの通り、私がこの者達の主人です。私の名はファウダー。依頼についてのお話は全て私がお伺いします」
「ほほう……失礼だがハーフが奴隷を連れ歩くとは珍しい。しかもこんなに大勢人を集めている所を見ると、貴女は優れた人物のようだ」
「滅相も無ありません。私などまだまだ若輩者です。ところで、依頼の件ですが……」
「おっと失礼。では詳細をお話ししましょう。実はですね――」


フロッシュの口から語られた依頼内容。それは依頼書に遭った通り、商船の護衛だった。まずこの街――ディマンシュから出発した商船は北に向かい、エスクードの王都に寄港する。そこで今回の護衛対象である、研究素材を船に積み込む。その後再び出港した商船は一路西を目指し、リムニ湖を横断して学術国家サイエンティアの一都市、ラビリントまで向かう手はずだ。希望者が十人居た場合、報酬として金貨二百枚が用意されていたようだが、このまま人が集まらなければ俺達だけで報酬を総取りできるらしい。気前のいい事だ。


「往復で二か月かかるので、その間の衣食住はこちらが負担します。ファウダーさん達は警護だけに専念していただきたい。それと、依頼を失敗した場合ですが……」


少し声のトーンを落としたフロッシュの視線に思わず生唾を飲み込んでしまう。


「依頼料をお支払い出来ないのは勿論、組合経由で罰金を取る事になるでしょう。金貨二十枚――報酬の十分の一です。どうです? この依頼、お受けになりますか?」


こちらが十人居れば一人当たり金貨二枚の罰金で済む話だが、この人数では負担が大きくなってしまうのか……美味しい話ばかりじゃないって事だな。しかし金貨二百枚は魅力的だ。それだけあれば、スキル持ちの奴隷を何人か仕入れてもお釣りがくるだろう。報酬の多さはそのまま危険の多さに直結するだろうが、先の事を考えて話に乗った方が良い。賞金稼ぎ組合の受付が言っていた良くない噂と言うのが気になるが、この報酬は魅力的だ。


「もちろんです。是非受けさせてください」
「おお、よかった! 話を聞いて断る人が多かったので、実は困っていたんですよ。では早速船着き場に案内しましょう。ついて来て下さい」


断る奴が多かった……? やはりヤバい依頼なのか? 何か嫌な予感がしたが、今更断れる雰囲気でもない。俺は少し後悔しながら無駄な贅肉を弾ませながら歩くフロッシュの後について行くのだった。

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