とある魔族の成り上がり

小林誉

第42話 噂

全員で掃除を始めた結果、丸一日かけて屋敷は何とか人が住んでも問題ないほどに状態を回復させた。部屋の数は腐るほどあるので、一人一部屋とってもまだまだ余裕がある。そんな綺麗になった屋敷の広間で思い思いの席に着きながら、俺達はシードの話を聞いていた。


「……と言う訳なんで、傭兵団を設立する場合、特別な手続きなどは必要ありません。一人二人でも名乗りを上げればその日から傭兵団です。まぁ、仕事が来るかどうかは別問題ですが……」


セイスが治めるこの街では、常設させている治安維持軍が居るので傭兵団は存在しない。しかし他の自治都市には傭兵団を主力にしている街もあるそうだから、それらから得た情報をシード経由で聞いていると言う訳だ。


「このマシェンド同盟の中だけでも有名な傭兵団は『嘆きの獅子』や『ペガサスの鬣』とかでしょうか。前者は千人に近い大規模な傭兵団で、大陸間でいざこざがあると必ずと言っていいほど駆り出されます。後者は数こそ少ないですが、そのほとんどがペガサスライダーで構成されているので、機動力は他の追随を許しません」


なるほど、傭兵団によっても色々と特徴があるようだ。うちも何かこれと言ったものを前面に打ち出したいが、今のところ人数を集めるのが先だろう。なにせ十人も居ないのだから。


「ケイオス。セイスが味方になったんだから、自分で傭兵団など作らなくても、開拓されるのを大人しく待っていた方が良いんじゃないのか?」


俺が考え事をしていると、近くに座っていたリーシュが疑問を口にした。確かに彼女の考えは正論だと思う。だが長年奴隷と変わらない生活をしてきた俺の直感なんだが、このまま事が思うように運ぶとも考えられないのだ。必ず何らかのトラブルが発生すると思うし、支配のスキルをいつまでも所持していられる保証もない。セイスやシード、シオンなどが正気に戻ったとしたら、真っ先に俺の命を狙っても不思議じゃない。そんな事が起きる前に自前の戦力を用意しておいて、彼等から身を守る術を持たなくてはならない。


「……と言うのが理由だな。お前達は奴隷だから俺と一蓮托生だが、シード達がいつまでも味方でいるとは限らない」
「私はケイオス様を裏切ったりしません! 命ある限りお仕えします!」


俺の言葉を否定するように叫ぶシード。俺はわかっているとばかりに彼を手で諫める。だがこれも支配のスキルの影響下にあるため、彼の本心ではない。そこを肝に銘じないと遠からず俺は破滅するだろう。


「とりあえず明日からこの面子で出来る仕事を探そう。まずは名を売らなければ話にならない」
「一応セイス殿の伝手を使って、傭兵向きの仕事を問い合わせては貰っています。いつになるかわからない上に確実に仕事がある保証も無いので、賞金稼ぎの仕事をこの人数でこなしていった方が良いかも知れませんね」
「だな。と言う事で、まずは賞金稼ぎ組合に登録だ。今の姿の俺と、新しく入った奴隷全員の登録を済ませる。お前達は自分に合った装備を選んで自室で待機していろ」


そう言うと、俺はその場をさっさと後にして自分の部屋へと向かった。俺の部屋は屋敷の最上階にある少し広めの部屋だ。もともとこの屋敷の主が住んでいた部屋らしく、他と比べて少し頑丈な扉といくつもの鍵がついた窓などがあり、侵入するにはなかなか難しい造りになっている。


「新しい連中が使い物になればいいんだが、どうだろうな。ずっと反抗的なら処遇を考えなきゃな」


最悪の場合は売り飛ばす事も視野に入れながら、俺はそのまま眠りに落ちた。


――翌日、さっそく目が覚めた俺は既に起きていたリーシュ達奴隷と共に屋敷を後にして。全員で賞金稼ぎ組合へと向かっていた。昨日命じていたために、全員それなりの装備を身に纏っている。反抗的なリーチとラウ以外は既に自分の境遇を受け入れているらしく、特に不貞腐れた態度などはとっていない。そんな連中と共に登録を済ませた俺達は、依頼を張り出している掲示板の前で稼ぎの良い仕事が無いか探している最中だ。


「おあつらえ向きのがあったな……」


俺の目に飛び込んで来た依頼。それはどこぞの商人の護衛だった。依頼主はこの街にある商会の一つ『イグレシア商会』だ。目的地は大陸西端にある学術国家サイエンティア。各国に囲まれるようにして存在するリムニ湖を船で渡り、研究に必要な物資を運搬する船の護衛が依頼だった。依頼期間は往復で二か月。なかなか長期の仕事になるが、その分報酬も高めだった。募集人員は十名ちょうどとなっているので、俺達ぐらいがピッタリだと思われる。


「これにしよう」


商会ともなれば各国に支店を置いていても不思議ではないし、そんな連中に顔を売る機会があれば積極的に利用した方が良い。俺は早速依頼を受けるべく、依頼書を引っぺがすと受付へと歩き出した。


俺が依頼書を受付に差し出すと、内容を確認した職員の表情が一瞬曇った。俺の事を見ての事かと思ったが、受付の目は依頼書にしか向いていない。この仕事の内容に何かおかしな所があるんだろうか?


「何か?」
「ああ……いえ。この依頼については、あまり良くない噂を聞くものですから……。まあ、私の立場ではこれ以上言えませんので、お話は直接依頼主としてください」


有無を言わせぬとは正にこの事。俺が質問しようとするのをあえて無視した態度でさっさと手続きを済ませ、受付は別の仕事にとりかかる。何なんだ全く。


「まあいいか……」


ここでこれ以上情報が集まるとも思えない。受付の言うように、依頼主と話すとしよう。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く