とある魔族の成り上がり

小林誉

第40話 街での拠点

完全に俺の支配下となったセイスの権力を使って、俺達がまず行ったのは街の郊外にあった屋敷を手に入れる事だ。


そこは数年前まで金持ちが使っていたものだったが、ある日押し込み強盗にあって一家全員が惨殺されたらしい。その為か、周りに住居も無い閑静な立地だと言うのに誰も買い手がつかず、長年に渡って放置されていたのだとか。当初はかなりの値段がついていたものの次第に値下がりしていき、今では普通の一軒家以下にまで下がっている。大きさとしてはセイスの住んでいる屋敷より少し小さいぐらいなので、これから人数の増える予定の俺達傭兵団の拠点に持って来いだろう。


俺達にとっては大きな買い物だが、セイスの保有する資産からすれば微々たる額なので、特に怪しまれる事は無い。ちなみに、押し込み強盗と手引きしたメイドは全員捕らえられ、後日極刑に処されたらしい。


そんないわくつきの屋敷の中に俺達三人の姿はあった。屋敷に入った瞬間あまりに埃っぽいので思わず咳き込んでしまう。誰も手入れをしていなかったのだから当然だが、屋敷の中は荒れ放題だ。


「汚れ放題だな」
「まあ、安いだけの事はあるんだろう」
「掃除が大変だなこりゃ」


三者三様の感想が口から洩れる。これだけ大きな屋敷の掃除を三人だけでするとなると数日はかかりそうだ。だが問題ない。セイスから貰った資金があるので、今から傭兵団の追加人員を奴隷商から調達するつもりなのだ。そいつらの力を借りれば、あっと言う間に終わるだろう。


「二人は掃除を進めててくれ。俺は奴隷商に行ってくる」


一人だけ抜け出す俺に二人が少し恨みがましい目を向けたが、あえて無視して屋敷を後にした。屋敷から街の中心までは歩いて三十分といったところか、以前ハグリーを買った奴隷商を尋ねると、相変わらず強面の用心棒二人組が扉のに立ち、厳しい視線を俺に向けている。


「ここは―」
「奴隷が欲しい。戦闘の出来る奴隷だ。中に入ってもいいか?」


前回と同じセリフを吐こうとした用心棒の機先を制し、俺は二人を押しのけて中に入る。妙な女に強気に出られた用心棒達は一瞬戸惑ったものの、客だとわかると素直に中に入れてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」


以前来た時と同じ男が丁寧な物腰で迎え入れたくれた。俺が来訪の目的を告げると、彼は何冊かある帳簿をパラパラとめくりながら大体の目星をつけていく。その間俺は奥にある応接室に連れていかれ、さっきの男の部下らしき女にお茶を振る舞われた。そして待つ事しばし、さっきの男と用心棒達が、何人かの奴隷を引き連れて戻って来た。


「お待たせしました。これらがご要望にあった戦闘の出来る奴隷達です」


数は全部で五人。男三人に女が二人だ。男は人間が二人にリザードマンが一人。女はエルフが一人と獣人が一人だった。全員不貞腐れた表情をしているか、ハーフである俺をあからさまに見下した目でこっちを見ている。こいつ等の態度を見て改めて実感するが、ハーフに対しての風当たりは本当にキツイな。世間的にはこれが普通と言うか、むしろリーシュやハグリーみたいな奴等の方が珍しいのだろう。


まず人間の男二人。一人は年若く、俺より少し上ぐらいに見える。少し細いが頼りない感じはしないので、きっと無駄な肉を削ぎ落した結果の体形なのだろう。鋭い目つきでこちらを見ている。髪は瞳と同じ茶色だ。


もう一人の男は三十半ばから四十前半ぐらいと思われる中年の男だ。若い男と違い、こちらは少しだらしない体形をしている。それでも体中に戦いでついたと思われる傷跡が多数あるので、戦いの素人と言う訳ではなさそうだ。ややたれ目気味の目と、脂肪の付いて二重になっている顎が特徴的な男だ。


リザードマンの男は正直言って表情が読めない。なにせ俺にとっては初めて見る種族だし、ただ直立歩行している大きな蜥蜴にしか見えないのだ。全身深い緑色の鱗に覆われていて、長い尻尾が地面についている。これでバランスでも取っているのだろうか? 三足歩行と言えなくもない。


獣人の女は狐のような耳を頭から生やしている。ふわふわでボリュームのある尻尾と耳の先は真っ白なので、狐の獣人で間違いないだろう。少しつり上がった目はキョロキョロと忙しく動き回り、俺や他の奴隷達を観察している。肩まで伸びた金髪が耳や尻尾とお揃いの色だ。少し平均より小さな体で、すばしっこく動きそうな女だった。俺と同じぐらいの年齢に見えるが、小柄なので実際は上なのかも知れない。


最後のエルフ女はかなりの美形だった。エルフと言う種族はそのほとんどが美男美女ばかりだと聞いていたが、実際に目にすると本当なんだと実感できる。風呂に入れてもらっていないせいで薄汚れてはいるが、見事な金髪を腰まで垂らし、その間から特徴的な耳が突き出されていた。女性にしてはやや貧相な体で性的な魅力は感じない。芸術品を見てるような感覚だった。


「戦いに負けて捕らわれた者や、借金、犯罪など奴隷落ちした理由は様々ですが、使える連中だと思いますよ」


帳簿を眺めながら奴隷商が教えてくれる。ふむ。彼等の事情はともかく、奴隷商が進めて来るのだから戦える人材と言う事なら問題ない。スキル持ちでないのが残念ではあるが、値段的にはハグリーと同じかそれ以上だったのでやや割高感はあったものの、全員購入する事にした。


「ありがとうございます。すぐ契約の準備をさせますので、少々お待ちください」


支払いを済ませた後待機していると、さっきの用心棒が人数分の首輪と採血用の小皿を載せたトレイを持って来た。借りたナイフで指の先端を少し切り、俺の血を垂らしてそれぞれの首輪へと染み込ませていく。発光を始めた首輪をそれぞれの奴隷の首に巻き付ければ契約は完了だ。


深々と頭を下げる奴隷商に見送られながら、新たに奴隷となった者達を連れて拠点となる屋敷を目指す。まず彼等の装備を整えないと駄目だなと思いつつ、俺達は通りを歩いて行った。



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