とある魔族の成り上がり

小林誉

第39話 酒

「ようこそファウダー殿。お待ちしていましたよ」
「ありがとうございますセイス様。つまらない物ですが、これを……」
「おお……気を使わせて申し訳ない。ありがたく頂戴しますぞ」


その日の晩、目的の酒を手に入れた俺はリーシュ達とセイスとの晩餐会に参加していた。挨拶と共に差し出した俺の酒に一瞬嫌そうな顔をしたセイスだったが、そこは商人。にこやかな笑顔を浮かべて受け取ってくれた。


テーブルには俺とセイスの他、シード、リーシュ、ハグリーが席に着いている。逃げ帰った賞金稼ぎ達は他にも居たようだが、招かれたのは俺達だけだ。シードを助けた功績が大きいと言う事だろう。こちらとしても好都合だった。


見た事も無いような料理を乗せたトレイを運ぶメイド達が続々と部屋に入って来て、俺達の前に次々と料理を並べていく。てっきりこじんまりした皿に少しずつ料理を盛った面倒な食事会を予想していたのだが、どうやら今日の晩餐は大皿から自由に摂る形式のようだった。リーシュやシードはともかく、ハーフである俺やハグリーがテーブルマナーなど知らないだろう言う心遣いかも知れない。


料理が並べ終えられた後、それぞれの目の前にある空のグラスに俺が買って来た酒がなみなみと注がれる。顔から少し離れていると言うのに思わずむせてしまいそうなほど強い香りに。飲むのを躊躇してしまいそうだ。全員に酒が行き渡ったのを確認すると、セイスは自分のグラスを手に持ちその場で立ちあがった。


「ではささやかながら、お礼も兼ねた晩餐会を始めたいと思います。ファウダー殿、貴女のおかげで多くの人命が救われた。本当に感謝いたしますぞ。乾杯!」
『乾杯!』


グラスをかかげ、全員が酒に口をつける。俺はこの後の事もあるので少量しか飲まなかったが、セイスはヤケになっているのか一気に中身を飲み干したかと思うと熱い息を吐きだした。彼と一緒に全てを飲み干したのはハグリーだけで、リーシュやシードも三分の一程飲んだだけだ。


「さあ皆さん、私の事など気にせず存分に楽しんでください!」


そう言うと、彼は自分の小皿を取って目の前にある大皿から食べたい物を乗せ始めた。俺達も負けじと次々料理を取り分け、先を争うように口に運んで行く。金持ちの家の料理だけあって味は格別で、しばらくの間本来の目的を忘れて夢中になったほどだ。


少し酒が回って来たのか、セイスは妙に上機嫌になり俺達全員に絡み始める。脱出して来た時の事や魔族達にどんな扱いをされたのかと言う話題で盛り上がっていたかと思うと、急に机に突っ伏してうつらうつらし始めた。そろそろ頃合いだろう。


「ケイオス」


小声で名を呼ぶリーシュにわかっていると頷いて、俺は舟をこいでいるセイスの横に寄り添うように立った。そしてその背に手を当てて、意識を集中し始める。俺にしか見えない意識の触手が俺の腕から無数に伸び、セイスの全身を絡み取るように巻き付いていった。


ビクリと体を震わせたかと思ったら、急に脱力してテーブルに頭をぶつけるセイス。シードの時と同じ反応なので成功したとは思うが、セイスが意識を取り戻すまでは確認のしようがない。結局、その日はシードに後を任せて俺達は屋敷内に用意された別室へと帰って行った。


翌日、俺は朝からセイスに呼び出しを受ける事になった。伝言役を務めたメイドの話によれば、セイスは昨晩前後不覚になった事を恥じており、そのお詫びも兼ねて朝食をご馳走したいそうだ。


「成功……したのかな?」
「どうだろうか? スキルの影響下にあるならまどろっこしい事などせず、直接こちらに会いに来てもおかしくないと思うが」
「ま、直接会ってみるしかないんじゃないか? どの道成功しても失敗しても、セイスとは話さなきゃならんのだし」


不安がる俺とリーシュをよそに、ハグリーはさっさと席を立ち扉に手をかけていた。そうだな、彼の言う通りだ。さっさと覚悟を決めて行動しよう。俺は気合を入れるために自分の頬を叩き、ハグリーの後を追った。


------


「ファウダー様、昨晩は大変失礼をいたしました。このセイス、主を差し置いて酔いつぶれてしまうなど一生の不覚! そのお詫びと言っては何ですが朝食の準備をさせましたので、どうぞお召し上がりください」


部屋に入るなり取りすがらんばかりの勢いで謝罪してきたセイスに一瞬怯んだものの、次に感じたのは嫌悪感より安堵の気持ちだった。


「どうやら成功してたみたいだな」


思わず胸を撫で下ろしてしまった。国王とは言わないまでも、一都市の最高責任者が俺の思い通りに動いてくれるようになったのだ。これで資金や環境面は今までとは比較にならないほど向上するだろう。だが調子に乗ってはいけない。セイスの財産を湯水のように使っていると、その内バレて俺の存在も明るみになる。ほどほどにしておかないとな。


昨日までと違って遠慮なく目の前の料理を口に運びながら、俺はどうやってセイスに協力させようか考えるのだった。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く