とある魔族の成り上がり

小林誉

第37話 ファウダー

丸一日かけて歩き続けた俺達は、明け方になってようやく街に戻って来る事が出来た。人の出入りを監視する門番もシードの顔を見れば特に調べもせずに通してくれる。そんなに日数は経っていないのに随分久しぶりに戻って来たような気がして、俺は思わず大きく背伸びをしていた。


シードを先頭にセイスの屋敷を目指す。屋敷の前で突っ立っていた衛兵が近寄って来るシードの顔を見た途端、慌てた様子で駆け寄って来た。


「シード様! ご無事でしたか! 逃げ帰って来た賞金稼ぎの話では魔族に捕らえられたと聞いていたので、てっきり殺されたとばかり思っていました」


言いにくい事をハッキリ言う奴だ。多少顔を引き攣らせながらではあったが、五体満足をアピールするかのようにシードは体を動かしてみせる。


「死んでなどいないぞ。これこの通り元気そのものだ。その詳細について報告する必要があるのでな。悪いが通してくれるか?」
「もちろんです。どうぞ中へ」


もう一人の門番と共に道を開けてくれた彼等の横を通り抜ける。リーシュやハグリーはともかく俺を見た時点で怪訝な表情を浮かべていたが、特に問いただされる事も無く屋敷に入る事に成功した。やはりシードを仲間に引き入れて正解だった。時折すれ違うメイド達に会釈を返し、シードは見覚えのある部屋のドアをノックする。


「入れ」
「失礼します」


部屋の中に入ったシードの顔を見た男が驚いた表情で固まっていた。セイスだ。どうやら彼もシードが死んだものと思い込んでいたらしい。


「シード! 生きていたのか!」
「お陰様で。なんとか五体満足です」
「そうかそうか! 無事で何よりだ。詳しく話を聞かせてもらいたいんだが、先に見覚えのない顔があるので紹介してもらえないかな」


そう言ったセイスの視線は俺に向けて固定されていた。ハグリーやリーシュには一度しか会った事が無いはずなのに顔を覚えているのか。ここらへんは流石に商業国家の議員を務めるだけの事はあると感心する。


「初めましてセイス様。ファウダ―と申します」


若干声を高めにして、笑顔を浮かべながら軽く頭を下げた。俺の偽名については事前に同行した仲間達と相談して決めた。これはご丁寧にと返答するセイスと俺の間に立つシードは、ボロが出ない内にと口を挟んで来る。


「紹介しますセイス様。彼女の名はファウダー。今回捕らわれの身となった我等を助けてくれたのも彼女なんですよ」


ファウダーなる女の設定はこうだ。彼女は魔族達に前線の盾兼雑用などでこき使われる為に、今回大勢の魔族達と共に大森林へとやってきた。ハーフの彼女はスキル持ちの為に便利に使われながらも、いつかこの境遇を抜けだしてやろうと隙を伺っていた。そんなある日の事、人族の賞金稼ぎ達が突然襲い掛かって来た。こちらの数もわからない内から襲い掛かって来た彼等はあっさりと破れ、ほとんどの者がその場で殺されたものの何名かは生き残る。彼女はこれをチャンスだと思い、シードに交換条件を持ち掛ける。あなた達を逃がす手伝いをする代わり、人族の領域で生きていく伝手になって欲しいと。二つ返事で了承したシード以下二名を助けるために、ファウダーは深夜何か所かで放火して混乱を起こす。その隙にシード達を解放し、命からがら街まで逃げてきたと言う訳だ。


「もう駄目だと諦めかけていましたが、彼女のおかげでこうして生きて帰ってくる事が出来ました。命を助けていただいた恩を返す為も、セイス様に彼女の身元保証人となっていただきたいのですが」


黙ってシードの話を聞いていたセイスは涙を流さんばかりの勢いで俺の手を取ると、激しく上下に揺さぶり始める。どうやら本人や俺達が思っていた以上に、シードはセイスにとって必要とされていた人物らしい。


「そうか、そんな事が……ありがとう! ありがとうファウダーさん! もちろんこの礼はさせてもらう! この街に住みたいと言うなら家を用意させるし、仕事がしたいなら責任を持って紹介するとも。何か望みはあるかい?」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……」


身寄りの無いハーフの女がここで断るのも不自然だろうと思い、俺は拠点となる住居の提供を希望した。毎度毎度宿屋に泊まっていては金がいくらあっても足らないし、誰に気兼ねする事も無く寝泊まり出来る住居があれば今後の活動にも色々と便利になるだろう。そう思って希望を口にすると、セイスはコクコクと力強く頷き、俺の望みを了承してくれた。


「お安い御用だ。信頼する部下の命と賞金稼ぎ達の命を救ってくれたのだから、今後貴女が困らない住居を用意させてもらうよ。そうだ、この後予定はあるかな? せっかくだから、帰還祝いも兼ねてみんなで食事でも?」


チラリと横目でシードを見るが、彼は俺に任せるとでも言わんばかりの表情だ。リーシュとハグリーも同様なので、どうやら俺に決定権があるらしい。セイスに支配のスキルを試してみたいし、ここは乗っておくべきだな。


「ありがとうございます。ではご馳走になります」
「良かった! ではすぐに用意させよう。おい、おーい! 誰かいないか!」
「お呼びでしょうか旦那様」


部屋に入って来たメイドの一人に早速食事の準備をするように命じるセイス。その様子を眺めながら、俺はある一つの策を思いついていた。上手くいけば確実にセイスも支配下におけるだろう。

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