とある魔族の成り上がり

小林誉

第33話 選別

「そんな事になっていたのか。体が変化するのは知っていたが、性別まで変わるとは思わなかった。それにして悪運が強い奴だな。まさか魔族達を支配下に置くなんて」


俺の説明を受けたリーシュがしきりに感心している。彼女とハグリーはいつもと変わらない様子だ。配下になったとは言え魔族に囲まれている状況は変わらないのに、豪胆と言うか単純と言うか、その順応性が羨ましい。


「それでケイオス、この後こいつ等をどうする気なんだ? そもそもこいつ等は何が目的でこんな森の中にやって来たんだ?」


そう言えば、俺達がここに来た目的も魔族連中が何をやっているのか調べるために来たんだった。すると俺達の会話をすぐ横で聞いていた魔族の女――シオンが口を挟んでくる。


「それなら私から説明いたしましょう。私が配下と共にここを訪れたのは、この地を開拓するためです」


開拓――魔族領に限って言えば、未開の地を切り開き己の領土とする唯一の方法だ。シオン達は魔族と人族の領域のちょうど中間部分と言う立地の良さ。それに豊富な食料と水資源を有する大森林を自らの領地とするため、ここにやってきたらしい。魔物がうろつき、人族との領域にも近い危険な場所ではある物の、ここを開拓すれば小さいながらも強力な領地を作り上げる事が出来ると言うのが理由だそうだ。


「俺と似たような事を考える奴が居たとはな……」


しかしそれなら好都合だ。ちょうど拠点になる場所が欲しかったところだし、こいつ等が開拓してくれるなら都合よく使わせてもらうとしよう。


「よし、ならお前達はこのまま開拓を進めろ。ただし、ここは人族に見つかっているからもう少し魔族領寄りに移動するんだ。それに定期的に連絡をとる必要があるから、人族側との間に連絡手段を確保しておけ。そうだな……魔族領で適当な奴隷を買って連絡役に使うといい。人選はシオンに任せる」


人族の領域に入り込むなら魔族以外でないと駄目だ。俺のような人間に近い外見のハーフなら差別はされてもいきなり殺される事はない。しかし、いかにも魔族ですと言わんばかりの外見の者が人族の領域に入った場合、突然攻撃される恐れがあるのでそれは避けたい。幸い魔族領では獣人や翼人など様々な奴隷が取引されているし、人選には困らないはずだ。


「それなら打ってつけの人物が居ます。昨夜の戦いで何人か捕らえた人間が居るのですが、それらを利用してはいかがでしょうか?」


シオンの言葉に思わず顔を見合わせる。俺達とは反対側に居た連中は完全に包囲されて逃げ場のない状況だったし、てっきり全滅したとばかり思っていたのだ。だが生きているなら好都合。そいつ等を奴隷にするなり支配の影響下におくなりして、シオン達とのつなぎ役にすればいい。


シオンの合図で捕らわれていた場所から連れ出された賞金稼ぎ達が、俺達の前に引きずり出される。手足を縛られた状態で乱暴に投げ出され、彼等は受け身を取る事も出来ずにその場に転がされた。


「つう~!」
「クソッタレが! 人を物みたいに!」
「あ! お、お前らは!」


連れて来られたのは合計三人。その顔には見覚えがある。一人は俺達賞金稼ぎ達をまとめる立場だったシードだ。そして後の二人は俺をハーフと罵った三人組の内の二人。一人欠けてるところを見ると、どうやら残り一人は殺されたか逃げ出すかしたのだろう。痛みに呻いていた彼等は、シオンの横に立つハグリーとリーシュの姿を見て驚きの声を上げる。


「そ、そう言う事か! やっぱりハーフの仲間だけあって魔族と通じてやがったな!」
「どうせ俺達が仕掛ける事もお前達が事前に知らせてたんだろう!」
「無礼な口を利くな!」


口々に俺達を罵る二人が魔族達に殴りつけられ、すぐさま沈黙させられる。シードだけは状況を理解しようとしているようで、冷静に周りを観察していた。やはり三人とも、今の俺の姿を見て昨日までと同一人物だとは気がついていないようだ。


「主様、こいつ等など今の連絡役にピッタリだと思われますが、いかがいたしましょう?」
「そうだな……」


連絡役は一人居れば十分だし、シードはともかく残りの二人は頭が悪そうなので慎重を求められる仕事には向いていないだろう。それに人の事を口汚く罵った奴と一緒に行動するなど俺としてもご免だ。


「シード――そっちの男だけ使おう。そいつは自治都市評議会の委員でもあるセイスの覚えも良い。連絡役には持って来いだ。後の奴は……そうだな。魔族領に連れて行って奴隷にでもするといい」
「な!?」
「お、おい女! お前何勝手に決めてんだ!」
「黙れと言っている!」


抗議の声を上げた男達は再び殴りつけられる。本当に学習しない奴等だ。


「とりあえずスキルを再び使えるように明日になるまでシードは拘束しておけ。他の二人はどう扱おうと構わん。それまで俺達は休ませてもらうぞ」
「承知しました。後の事は私にお任せください」


何やら叫び声を上げる二人組を無視した俺はシオンにその場を任せ、彼女が使っていた天幕の中へと潜り込む。昨日の戦いから少しも休めていないし、命の危機が去ったからか疲れがドッと出ている。正直眠気に逆らえそうにない。大きなベッドに身を投げ出す様に倒れ込み、そのまま目を瞑って全身を脱力させると、急速に意識が遠のいていく。


今日は本当に色々あった。まだスキルの数が増えた謎やシオン達の勢力がどんなものか気になる点は多いが、今は休息を優先させたい。面倒な事を頭から全て追い出し、俺は意識を手放した。

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