とある魔族の成り上がり

小林誉

第29話 捕縛

「敵襲ー!」


異変を察知した魔族の叫びで一気に周囲が騒がしくなる。体制を整える暇を与えない為茂みに潜んでいた賞金稼ぎ達が一斉に飛び出し、手近な魔族に斬りかかった。


「ぎゃっ!」
「がはっ!」


流石に戦い慣れている者達ばかりだけあって賞金稼ぎ達は優勢に戦いを繰り広げていた。あちらこちらで剣戟の音が鳴り、魔族達の断末魔が森の中に響き渡る。俺達三人も一塊になり、仲間の背を守る様に戦いを進めていた。


正面から突き込まれる魔族の剣を自分の槍で跳ね上げた隙に、スキルで生み出した氷の矢を敵の胴体深くにめり込ませる。魔族は血反吐を吐きながらその場で崩れ落ちた。続けざまに放った氷の矢は乱戦の中無防備に背後を見せる魔族の背中に突き刺さり、次々と犠牲者を増やしていく。


俺の横ではリーシュが空に上がらず地上で戦っている。彼女は大きな翼を器用に折りたたみ、敵の攻撃を巧みに捌きつつ相対する魔族を圧倒していた。もともとリーシュの持っている槍は結構な重量がある為、一撃一撃が強力な打撃力を持っているのだ。普通ならハグリーのような筋骨隆々な男が振り回すべき武器なのだが、重量軽減のスキルのおかげでリーシュでも軽々と振り回す事が出来ていた。そのために彼女の一撃を受けた魔族は武器を叩き落されたり防御しそこなったりと、まともに打ち合う事も出来ないでいる。


ハグリーの戦い方はもっと強烈だ。圧倒的な腕力で振り下ろされた巨大な戦斧は、唸りを上げながら敵の防御ごとその頭を叩き割る。ハグリーの正面に立った魔族は、まともに打ち合う事も無く脳漿を撒き散らし、胴を半分に分かたれて次々と絶命していく。その圧倒的な力を見せつけられた他の魔族はジリジリと間合いを計りながら後退していた。


このままなら問題なく勝てる――そう思った時、突如小屋の近くで戦っていたもう一組の味方が崩れ始めた。見ればさっきまで居なかったはずの魔族が結構な人数で押し寄せている。反対側に居る俺達から見ても、木々の間に見える魔族達は少なくても二、三十人は居そうだ。明らかにこっちの戦力の倍以上が援軍として現れていた。これは勝ち目がないと思ったのは俺だけではなかったらしく、一緒に戦っていた賞金稼ぎが我先にと逃げ出したのだ。


「ぎゃああっ!」
「ぐあっ!」


絶叫を上げながら次々と倒れる賞金稼ぎ達。どんどん近づいてくる戦いの喧騒に、俺達も次第に焦りが濃くなっていく。危機を察知したリーシュとハグリーが身近にいた魔族達を蹴散らしながら俺の方に身を寄せる。


「ケイオス、早く逃げんと我等も危ういぞ」
「囲まれるのも時間の問題……と言うか、もうほとんど囲まれてるな」


二人の言う通り、魔族の気配は既に周りの森の中にも感じられるようになった。どうやら増援は目に見える範囲以外にも居るようだ。これは百人以上居るんじゃないのか?


「逃げるぞ! 森に入ってきた方向に向けて走れ!」


この状況になっては依頼の継続など不可能。命あっての物種だし、まだ戦っている他の賞金稼ぎには悪いが先に逃げさせてもらおう。俺達の身の安全が最優先だ。俺を先頭に走り出しいくらも経たない内に、目の前に武器を構えた複数の魔族が姿を現した。その連中はさっきまで戦っていた魔族とは外見からして明らかに違う。身に着ける装備は全員同じ物で統一されているし、統率の取れた動きは厳しい訓練を受けた者達のものだ。


動きを止めたら一気に囲まれる。そう判断した俺は走りながら意識を集中させると、氷の矢を立て続けに撃ち出した。


「止まるな! 一気に走り抜けろ!」


氷の矢を避けるために算を乱した魔族達に向かって加速したハグリーが、その巨大な腕力を活かして正面に立つ魔族達に振りかぶった斧を叩きつけるように振り下ろす。しかし魔族は素早く身を躱し即座に反撃してきた。奴等は嵐の様に振るわれる戦斧を紙一重で避けながら的確な反撃でハグリーの体に手傷を負わせていく。体力や腕力ならハグリーの方が上でも、技量は相手の方が圧倒的に上だ。一対一ならともかく、いくらなんでも多勢に無勢だった。


「ハグリー! まともにやり合おうとするな! ――うお!?」


横合いから突き出された剣を辛うじて躱した俺は、自らの槍でそれを跳ね上げ相手の首元を狙って勢いよく槍を突き出す。だがそれはあっさりと防がれ、逆に足が止まるほどの猛攻を受ける。俺とハグリーの足が止まった事で包囲は一気に狭まり、もはや脱出は不可能とも思えた。


「おおおっ!」


俺は今まで前面にだけ撃ち出していた氷の矢を全方位に向けて立て続けに発射し、包囲を崩すために限界まで力を使う。飛来する氷の矢から身を守るために盾を構えた魔族に体ごとぶつかったハグリーが何人かまとめて弾き飛ばし、そのまま駆け出す。ここを逃せば後がない――そう判断した俺は立て続けにスキルを消費して消耗する体に鞭打ち、必死になってハグリーの背中を追う。だがその時、飛来した一本の矢が俺の肩に突き刺さり、バランスを崩した俺はその場で頭から転がる事になった。自分の迂闊さと運の悪さに怒りで頭がどうにかなりそうだったが、それも一瞬で絶望に取って代わられる。


「ケイオス!」
「ケイオス! 今助け――」
「来るな! 二人ともそのまま逃げろ!」


一瞬立ち止まりそうになった二人は俺の言葉を受けてそのまま森の奥へと姿を消した。魔族が何人か追いかけて行ったが、二人の足なら逃げ切れるだろう。激痛に疼く肩を庇って地面に仰向けに転がると、周囲の魔族がゆっくりとした足取りでこちらに近づいて来るのがわかる。


「けっ……これで終わりか。最初から最後までつまらない人生だったな……結局ハーフがいくら頑張っても無駄って事かよ……」


せっかくユニークスキルと言った望外な力を手に入れたと言うのに、いくらも経たない内にこの有様だ。死ぬのが怖くない訳では無いが、もともと無かったような命だ。別に惜しくはない。こちらに止めを刺すべく武器を振り上げる魔族の姿を他人事のように見上げ死を覚悟したその時、鋭い声が森の中に響き渡る。


「待て! そいつはスキル持ちだ! 殺さずに捕らえろ!」


女の声だ。その声には逆らい難い圧力があり、命令された魔族達は即座に武器を下ろす。痛む肩に顔をしかめながら近づいて来る足音の方向に目を向けると、一人の女が歩いて来るのが見えた。緑色の髪をなびかせ、頭から小さな二つの角を生やした女だ。美人と言っていい外見だが、その目は他者に対する敬意や思いやりと言ったものが一切感じられない冷たい物だった。女は俺のすぐ側に立つと、まるで値踏みするような目で観察してくる。


「ふむ……ハーフか。出来損ないだが、今のスキルは使い方によって私の役に立つかもしれないな。」


好き勝手な感想を述べて勝手に何かに納得した様に一つ頷く。すると女の横に立っていた魔族が持っていた槍をくるりと回し、石突きの部分を勢いよく振り下ろした。


「がはっ!?」


腹部に強い衝撃を受けた俺は肺の中の空気を一気に吐き出す事になり、一瞬にして呼吸が出来なくなった。まるで虫でも見るかのような女の視線を見上げながら、俺の意識は闇に飲まれたのだった。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く