とある魔族の成り上がり

小林誉

第28話 大森林へ

道中無用なトラブルを起こす必要もないため、絡んで来た男達とは別の馬車に乗り込んだ俺達は、街の東にある大森林を目指して出発した。こちらの馬車に乗っているのは俺達を含めて五人。御者は戦いに参加せず森の外で待機する予定なので、数に入れていない。


「リーシュちゃん、今付き合ってる男とかいるの? いないなら俺なんかどう? 腕もたつし気が利くし、これで結構モテるんだぜ?」
「……鬱陶しい。話しかけるなと何度も言っているだろうが」


俺を敵視する連中と別行動になたのでしばらくは落ち着くかと思っていたのだが、俺達と同じ馬車に同乗していた賞金稼ぎの一人が問題だった。挨拶もそこそこに終わらせると、向かい側に座るリーシュを口説き始めたのだ。最初は適当に無視ししたりはぐらかしたりしていたリーシュだったが段々イラついてきたのだろう、殺気を籠めた目で男を睨みつける。


「おいおい、そんな目をしたら可愛い顔が台無しだぜ? 君みたいな可愛い子はいつも笑顔でなくっちゃ」
「……そのへんにしといてもらおうか」


男が馴れ馴れしくリーシュの肩に手をかけた瞬間、彼女の殺気が本物になった。この短気な女はこの馬車の中で刃傷沙汰に及ぶ気なのだ。流石にここで暴れられては依頼どころでは無くなるので助け船を出す事にした。


「リーシュは俺の仲間なんでな。あんたと遊んでる暇はないんだよ」
「……ハーフは黙ってろよ。おまえなんぞと一緒に居るより、俺と居た方が良いに決まってるだろ」


どいつもこいつも人が下手に出てれば調子に乗りやがって。槍に手をかけリーシュより先に俺が暴れそうになったその時、ハグリーが立ちあがってノシノシと歩き出した。無言で見つめる他人の視線など気にも留めず、ハグリーはリーシュの肩にかけられていた男の腕を掴んで一気に捻り上げる。


「いってててて! は、離せこの筋肉バカ!」
「離せ? 離せって言ったのか? お前、今俺に命令したのか?」
「ち、違う! 違います! 離してくださいお願いします!」


男も賞金稼ぎをしているだけあって鍛えているようだが、ハグリーに比べるとか細く見える。圧倒的な体格差で抗う事も出来ない男に出来る事など、謝る以外になかったのだ。解放された腕を擦りながら、男は慌ててリーシュから距離を取る。その目には若干の怯えの色があった。


「俺の仲間にくだらないちょっかいを出すな。次は腕じゃなく頭をねじ切る事になるぞ」
「わ、わかったよ。悪かった」


あの体格だから脅し文句も効果あるよな。俺が同じことしても鼻で笑われそうだ。それにしてもハグリー、案外良い奴なのかも知れない。まだ知り合って間もないが、仲間の為に立ちあがるのだから。


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「よし、到着だ」


馬車が動きを止め、御者の言葉で俺達は馬車を降り始める。道中ちょっとしたトラブルはあったが、その後は特に何も起きずに平穏無事な旅だった。ハグリーに痛めつけられた男は馬車から降りるとそそくさと俺達から離れていき、もう一人乗っていた賞金稼ぎも雰囲気に飲まれたのか無言で離れていく。


「馬車はここで待機! 賞金稼ぎは俺について来てくれ!」


目の前には大森林への入口とも言うべき、踏み固められた細い道がある。恐らく地元の猟師や木こりが日常的に使っている内にちゃんとした道になったのだろう。それをシードを先頭にした賞金稼ぎ達が後に続いて歩いて行く。隊列的に俺達三人は最後尾だ。シードのすぐ後ろには屋敷で揉めた三人組がいて、そこから二、三人挟んでからリーシュにちょっかいをかけた男が居る。とりあえず行軍中に後ろから奇襲を受ける心配はなさそうなので一安心と言ったところか。


魔族が目撃されたと言う事の意味を俺達賞金稼ぎはよく理解していた。ひょっとしたら既に奴等は軍事的な拠点を築いている可能性があるし、森のどこかから見張っている事も考えられる。なので森を掻き分けながら歩く俺達は全員無言だ。音のしそうな装備は紐で縛ったり手で押さえたり、なるべく音を立てないようにしている。そのおかげなのかはわからないが、先頭を歩くシードが何かを見つけたらしく全員に立ち止まるよう手で制する。


またまだ距離はあるが、俺達の視線の先に小屋のような物が見える。木々の間から覗いているのでハッキリとした人数は不明だが、魔族の姿も確認できた。小屋の周辺に四、五人立っている。恐らくは見張りだろう。小屋の大きさから考えて、中に居る人数を含めてもこちらより多いとは思えない。奇襲すれば十分勝機があるだろう。


「……二手に別れろ。左右から挟み撃ちにするぞ。俺が弓で攻撃を始めたら奴等に向けて突っ込んでくれ」


シードも同じ結論に達したのか、すぐ攻撃の決断を下した。自然と馬車に同乗していた面子同士が組む事になり、それぞれ小屋を挟む形で静かに移動していく。槍や剣を構え、いつでも飛び出せるように姿勢を低くする。魔族達は完全に油断しているらしく、欠伸を隠そうともしていない。そんな見張りの側頭部に、シュッと言う空気を切り裂く音と共に飛来したシードの放った矢が突き刺さり、見張りの一人はぐらりと地面に倒れ込んだ。


戦闘開始だ。

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