とある魔族の成り上がり

小林誉

第26話 屋敷へ

ハグリーを連れて俺達が訪れたのは装備屋だ。ここは以前リーシュが散財してくれた事もある通い慣れた店で、値段にこだわらなければ装備一式は簡単に揃えられるだろう。


「お前、何か希望の武器とかあるか?」
「そうだな……剣や槍はいまいちだから、斧が良いな。何も考えずに叩きつけるのは楽だし」


ハグリーは見てくれの通り力に特化した戦い方のようだ。こちらとしても剣より斧の方が助かる。何より値段が安めだし、木を切ったりと戦い以外にも使い道があるからだ。早速斧の並んだ区画に移動し、色々と手に取って確認しているハグリー。しばらくの間それをリーシュと二人して見ていると、奴は一つの斧を選んだようだった。


「これにするよ」


差し出された斧は両刃になっている型だった。値段は一般的な剣より少し安く、長さも同じぐらいで振り回しやすそうだ。しかし重量は倍ほど違う。試しに持たせてもらったが、ほぼすべての部位が鉄で出来ている上に大きな刃が二つもついているのでとにかく重い。リーシュのように重量軽減のスキルでもない限り、ハグリーのような力自慢しか扱えない武器だ。


武器はこれでいいとして、次は防具だ。体格の言いハグリーなら全身鎧などを装備しても問題なく動き回れると思うが、生憎とそこまで予算に余裕は無い。なので体の一部だけ覆う鉄の胸当てと足当てを購入した。ハグリー自身とその装備……これだけで手持ちの資金は半分にまで減ったが、こいつが見た目通りに役に立つならすぐ取り返せる額だ。


「ありがとなご主人。今更なんだが、あんたの名前を聞かせてもらえるか?」


そう言えばリーシュの名前は教えたものの、俺自身はまだ名乗っていなかった。


「ケイオスだ。見た目通りのハーフだよ」
「俺はそんな事気にしないぜ。まあよろしく頼む」


新たに仲間になったハグリーを加えた俺達は、次の依頼を探すために賞金稼ぎ組合事務所に訪れていた。数日見なかったためか、掲示板には新たな依頼書が何枚か増えているのがわかる。早速それらを見ていると、一枚だけ気になる内容の依頼書があった。


「他の賞金稼ぎとの共同の依頼?」


依頼主はこの自治都市の代表でもあり、評議会の一員でもある男だった。名前はセイス。依頼内容は複数の賞金稼ぎと共に東にある大森林の調査……とある。何のための調査か詳しく書いていないが、依頼料は参加者一人につき金貨十枚とあった。全員で参加すれば結構な稼ぎになるし、将来的な拠点と考えている大森林の調査とあっては、参加した方が良いだろう。


「他にどれだけの賞金稼ぎが参加するのかが気になるな」
「魔族領との境界線での調査だからな……少なくはないと思うが」


警戒心の強いリーシュのつぶやきに返事をしながら受付を済ませ、依頼主の住む家の地図を片手に、俺達は組合を後にする。目的地はこの街の中心部。所謂高級住宅街と呼ばれる区画にある屋敷だ。人で溢れる騒がしい大通りを通り抜け、豪華な作りの建物が並ぶ区画に入ると街の喧騒も届かなくなった。並ぶ家はどれも街の宿屋より大きく、入口には見張りの姿まである。道にはゴミ一つ落ちていないし、格差と言う物をまざまざと見せつけられた気分だった。


「すげえな。俺、こんなとこ来たの始めてだ」
「俺だってそうだよ」


キョロキョロと辺りを物珍しそうに眺めているハグリーの言葉に適当に相づちを打ちながら、手に持った地図と現在地を比較してみる。するとちょうど目の前にある一番豪華な屋敷が今回の依頼主が住む屋敷の様だ。厳つい顔でこちらを警戒する門番二人に来訪の目的を告げ、手に持った依頼書を見せると、門番の内一人が俺達を案内するために先に歩き始めた。


屋敷の中庭を抜けて玄関まで辿り着く。大きさで言えば依頼を反故にしたゴミ屋敷よりも上だろう。門番がガンガンとドアノッカーを叩くと、大きな扉は内側からゆっくりと開かれた。そこにはメイド服姿の少女が立っていて、初めて見る俺達を興味深そうな視線で眺めていた。


「例の依頼の方々ですか?」
「そうだ。旦那様の下へ案内してやってくれ」
「かしこまりました。それでは皆さん、こちらにどうぞ」


仕事は終わったとばかりに帰って行く門番の背を見送って、俺達はメイドの背中を追いかけた。赤い絨毯のひかれた階段を上って屋敷の二階へと至り、品の良い調度品の並ぶ通路の先にある一つの部屋の前で立ち止まる。メイドがコンコンと軽く扉をノックをすると、部屋の中から「入れ」と言う短い返事が返って来た。どうやらここに依頼主が居るらしい。


「失礼します」


メイドが開く扉の隙間から徐々に部屋の様子が見えてくる。ようやく依頼主に会えるようだ。どんな依頼かはわからないが、前の依頼の様に騙されないように注意するとしよう。

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