とある魔族の成り上がり

小林誉

第23話 誘い

阻む者の居なくなった男は、悠々と階段を上り依頼主の下まで後少しといった距離まで近づく。依頼主は一応逃げだそうとしたようだが、普段の運動不足が祟ってか足をもつれさせ無様にその場に倒れ込んだ。


「くっ…くそ…!」
「逃げるなよ兄貴。今更ジタバタしたところでどうにもならんぞ」


男は倒れ込んだ依頼主の首根っこを掴むと、そのまま力任せに起き上がらせる。見かけによらず凄い力だ。華奢に見える割にあの腕力、服の下は意外と筋肉質なのかも知れない。男はそのまま依頼主を引きずって寝室に入って行った後、ベッドのシーツを使って器用に手足を縛りあげる。手足の動きを封じられた上に猿轡まで噛まされて、依頼主はウーウーと唸る以外何もできなくなっていた。


「さて、お前達には家の兄貴のおかげで申し訳ない事をしたな。せめて組合に言い訳が出来る様に、俺が一筆添えてやろう」


形の上ではこちらから依頼を反故にしたため、このまま手ぶらで帰ると何らかの罰を受ける可能性があった。男が事情を説明する手紙を書いてくれるなら、説明の手間も省けて一石二鳥と言う奴だ。


男は再び依頼主の部屋に戻ると家探しを始め、机の引き出しを片っ端から引っ張り出す。引き出しの中にはいくつかの筆記具と紙の束、それに干からびてカチカチになったパンが出て来た。あの依頼主、どれだけ物臭なんだ…


引き出しの中にあった埃っぽい紙の中から一枚抜き取ると、男は簡単に事情を説明した内容を明記して花押を押した紙を俺達に渡してきた。それを受け取ろうと手を伸ばしたが、男は丸めた手紙から手を離そうとしない。なんだ?まだ何か用があるのか?


「お前達…よく見たらスキル持ちか。滅多に居ないスキル持ちが二人もつるんでるなんて珍しいな。賞金稼ぎなんて儲からない商売は止めて、どうせなら俺の所に来ないか?俺は今小さいながらも傭兵団を持っていてな。仕事は厳しいが、儲けはデカいぜ」


何かと思えばいきなり勧誘が始まった。この男、優男にしか見えない外見で傭兵団を束ねている立場だったのか…道理で力が強い訳だ。まあそれはそれとして、賞金稼ぎになって間もないのに、いきなり転職など出来る訳がない。話にならないのでさっさと断って街に戻ろうと思ったその時、リーシュが口を開いた。


「…傭兵とはどの程度儲かるのだ?賞金稼ぎよりも稼げるのか?」
「おいリーシュ」


いきなり何を言うのだコイツは。大体傭兵団なんて三度の飯より人を斬る事が好きな人格破綻者や酒や女以外頭にない野蛮人、それに犯罪を犯して行く所が無くなったろくでなしばかりだと相場が決まっている。そんな中に俺の様なハーフや美人のリーシュが入ったらどうなるか、火を見るより明らかだろう。


「仕事がある時はドカッと大きく儲かるぜ。金貨何十枚にもなるしな。反対に仕事が無い時はゼロだが…年単位なら傭兵の方が儲かるさ」


要はチマチマと堅実に稼ぐか大きな仕事を数回こなすかの違いだな。リーシュは傭兵と言う職業に興味があるのか、更に質問を重ねる。


「ちなみに、お前の傭兵団は何人ぐらいで構成されているのだ?」
「俺の所か?今は十四~五人ってとこだな。まだ始めたばっかりだからそんなに居ないんだよ」


意外と少ないな。傭兵団てのは最低でも何百人単位だと思っていたのだが。まあ、同じような人数でも盗賊団を名乗る奴が居るし、おかしな事ではないのかも知れない。


「ふむ。参考になった。せっかくのお誘いだが、我々の参加は見送らせてもらうよ。我が主も乗り気じゃないようだしな」


そこまで言われて、初めて男はリーシュが奴隷だと言う事に気がついたようだ。驚いた様に俺を改めて見ると、納得した様に書類から手を離す。


「なるほど、確かにハーフなら絡む奴も出てくるだろうからな。わかったよ。今回は諦めよう。その代り気が向いたらいつでも来てくれ。歓迎する。俺は傭兵団『金の髪』の首領アウルムだ。覚えといてくれ」


そう言うと、男は縛り上げた元依頼主を担ぎ上げて屋敷を後にした。あの様子だとこの屋敷もじきに金に換えるつもりなんだろう。もはや目的を失った俺達がいつまでも居るべき場所ではないので、街に戻る事にした。とぼとぼと歩く道中、少し遅れぎみなリーシュは何か悩んでいるのか、さっきから難しい顔のままだ。


「リーシュ、どうかしたのか?」
「…うむ。実はアウルムとか言う男の話が気になってな。ずっと考えていたのだ」
「傭兵になるって誘いか?俺達みたいなのが傭兵団に入ったらどうなるかなんて、お前にもわかるだろ?」
「それなんだが…何も既存の傭兵団に入る必要など無いのではないか?」


話が見えてこない。リーシュは察しの悪い俺にイラついたような表情になると、やや口調を強めて説明してくる。


「だから、我等で新たな傭兵団を立ち上げればいい。賞金稼ぎで稼いだ金で戦える奴隷を集め、新たに傭兵団を結成するのだ。賞金稼ぎ組合では儲けの何割かを組合に持っていかれるが、自分達で傭兵団を立ち上げれば丸儲けだ。開拓する資金や人手を一挙に集める事が出来る妙案だと思わないか?」


…確かに、言われてみればリーシュの言う通りだった。このまま賞金稼ぎを二人で続けて儲けた額では、開拓など夢のまた夢だ。ならアウルムのように自分を頂点とする傭兵団を作り、大きく金を稼ぐ方が手っ取り早い。


「頭いいなリーシュ。その手は思いつかなかったぞ」
「ふん!褒めても何も出ないからな」


素直に褒められて照れくさいのか、リーシュは明後日の方向を向いて顔を合わせようとしない。そんな彼女に苦笑しながらも、俺は内心感謝していた。リーシュの策、早速試してみようじゃないか。

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