とある魔族の成り上がり

小林誉

第20話 報酬

「おお、お前さん達無事だったか!帰って来なかったからやられちまったかと思ったぞ」


雪狼の死体を引きずりながら帰った俺達を、依頼主である村長直々に出迎えてくれた。既に村の中央にある広場には、村人たちの手によって俺達が討伐したゴブリンの死体が山積みにされており、彼等は破壊された柵や殺された家畜達の処理に追われている。だがその顔に悲壮感はなく、どことなく機嫌が良さそうにも見えた。そんな彼等の様子を不思議そうに眺めている俺が気になったのか、村長は笑いながら説明してくれる。


「お前さん達のおかげで村を悩ませていたゴブリン共が居なくなったからな。それに、気づきもしなかった雪狼まで狩って来てくれたんだ。これが嬉しくないはずがない」


ハーフである俺の肩を叩きながら感謝する村長に戸惑っていると、村長は何かに気づいた様に俺の顔をまじまじと観察してきた。


「ところであんた、さっきと姿が違っているように見えるんだが…気のせいかね?」
「気のせいですよ。半日と経っていないのに背が伸びたりはしないでしょ」
「それもそうか」


首をかしげる村長の横を抜けて、俺達は山積みにされたゴブリンの死体に歩み寄る。悪臭を放っているのは別に腐っているからではなく、単純に奴等の体臭や口臭が酷いだけだ。ここで仕留めた数は全部で四匹、森の中で仕留めたのと合わせれば全部で十三匹にもなる。その上雪狼の死体を持って行けば、結構な収入になりそうだった。


「儲かるのは良いが…臭いがな…」
「文句を言っても仕方が無い。さっさと済ませるぞ」


死体をこのままにしておけるはずもなく、すぐに焼却しなければならない。その前に討伐の証である奥歯を回収しておくのだ。再び行わなければならない苦行に顔をしかめながら、俺とリーシュはなんとかゴブリンの死体から奥歯を回収する事に成功した。これだけやれば後は村人の仕事だ。彼等は枯草と枯れ木をゴブリンの死体の上と下に敷き詰め焼却の準備を進める。油を撒けば早いのだが、貴重品なのでこの程度の作業に使う事は無い。やがて村人のつけた火は徐々に大きくなっていき、ゴブリンの死体が盛大に焼かれ始めた。


「ありがとう。これで依頼完了だな。お前さん達はこれからどうするね?一晩泊まっていくかい?」


村長の申し出に俺とリーシュは顔を見合わせる。今はちょうど昼過ぎ、急げば帰れない事も無いが辿り着く頃には夜中になっているはずだ。となると当然街の門は閉め切られて入る事が出来ず朝まで外で待つ事になる。普段ならともかく、戦闘で疲れている今野宿は回避したい。なら、する事など決まっている。


「じゃあお言葉に甘えて…一晩お世話になります」
「そうか、なら泊まると良い。なに、遠慮は無用だ。なにせこの家、部屋だけは余っているからな」


からからと笑う村長に礼を言い、その日俺達は彼の家で一夜を過ごした。翌日、朝早くに村を出た俺達は苦労して昇ってきた山を一気に降る。俺はゴブリンの奥歯を集めた袋を腰に巻き付け槍以外はほぼ手ぶら状態だが、リーシュは雪狼の死体を担ぎながら上空を飛んでいた。彼女のスキルなら雪狼の死体ぐらい何も無いのと同じで、難なく空を舞う事が出来る。結局日が完全に傾く前に何とか街に辿り着き、組合事務所で換金を済ませる事が出来た。


「全部で金貨十枚とはしけてるな…盗賊の半分しかないじゃないか」
「仕方ないだろう。ゴブリンは人間より遥かに弱いのだ。むしろ多めに支払ってくれたと思うぞ?雪狼の買い取り額だけで金貨七枚だったんだから」


リーシュの言う通り、ゴブリン討伐の賞金は全部で金貨三枚と言う苦労のわりには実入りの少ない報酬だった。これで雪狼の死体と言う予定に無かった獲物が無ければ、儲かるどころか赤字になっていたかも知れない。


「まあ、上手くいって良かったじゃないか。ところでケイオス、次の依頼はどうする?」
「そうだな…」


ちらほらと人影の見える掲示板を覗き込み、目ぼしい依頼が無いか探してみる。だが僅か数日でそうそう内容が変わるはずもなく、出発前と大差のない依頼書ばかりが並んでいた。これは今回もつまらない依頼で時間つぶしをするしかないか…と思ったその時、組合の職員が新たな依頼書を掲示板に貼りに来たのだ。


「はいはい、ちょっとごめんなさいね」


掲示板前に居た賞金稼ぎ達を押しのけて、いくつかの依頼書を貼り付けた職員はさっさとその場を後にする。何か面白い依頼かと思いすぐに内容を確認してみると、その中の一枚に妙な内容の依頼書があった。


「依頼人の護衛…及び敵対者の…殺害?穏やかじゃないな」
「だが見てみろ、依頼料は破格の金貨五十枚だ。これだけあれば当分活動資金に困る事は無いぞ。上手くやれば新たな奴隷を増やせるかもしれん」


内容は普通の護衛に思えるが、金額があまりにも高すぎる。他と比べて明らかに五割り増しぐらいになっていた。詳しく内容を調べようと思ったが、引き受けた者にのみ説明するとしか書かれていない。限りなく怪しく危険な匂いがするが金貨五十枚は確かに魅力的だ。ここは賭けてみるか?


「そうだな…じゃあ受けてみるか。危なくなればさっさと逃げればいいし」
「それでこそだ。危ない橋を渡らなければ、お前の大望は叶わないのだから」


リーシュの言葉に後押しされた俺は貼られたばかりの依頼書を手に取り窓口へと足を向けた。さて、一体どんな仕事をやらされるのやら…多少不安ではあるが、今回もきっと何とかなるだろう。

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