とある魔族の成り上がり

小林誉

第18話 雪狼

ゴブリン達の後を追ってリーシュが飛び去った方角に、俺も全速力で走って行く。初めて入る山と足にまとわりつく雪に舌打ちしながら、一刻も早く追いつくように必死で足を前に動かした。幸い雪が足止めになっていたのはゴブリンも同じで、奴等はそれほど俺と遠くない場所に居るらしい。上空を舞うリーシュが視界から消えないのがその証拠だ。


悪戦苦闘しながら山の中を進んで行くと、上空のリーシュが俺の下まで降りてきた。どうやらゴブリン達の巣が近いらしい。


「ゴブリンの巣の位置は確認した。このまま向かうか?疲れているなら一旦帰るのも手だが」
「いや、逃げられる可能性があるからこのまま行くぞ。後手に回るよりこっちで主導権を持ちたい」
「承知した」


そう言うと、リーシュは突然俺の両脇を抱えて空に舞い上がった。このまま歩いて巣に近づくのもいいが、それだと俺が体力を消耗して戦いどころでは無くなる。リーシュに抱えられて空から移動するとその心配は無いし、奴らに気配を気取られる事も無い。普通の翼人種に武装した人間を抱えて飛ぶのは無理でも、スキル持ちのリーシュは別だ。


「あそこだな」


上空から見るとハッキリ解るが、森の中にぽっかりと木々の無い広場の様な場所があるのが解った。その広場には草や木で出来ていると思われる汚らしく小さな天幕がいくつも存在していて、その出入り口からはまだ子供のゴブリンがチラチラと顔を出していた。どうやらあれが奴等の巣らしい。てっきり洞窟にでも籠っていると思っていたんだが…ゴブリンにしては珍しく生活力があるようだ。


「準備はいいか?」
「いつでもいいぞ。やってくれ」


合図と共に俺を抱えたままリーシュがゴブリンの巣に向かって急降下を始める。結構な勢いで地面が迫ってくる事に本能的な恐怖が沸き上がるが、腹に力を入れて目を見開き、スキルの準備を始めた。目標にするのは今巣に戻って来たばかりの大人のゴブリン数匹だ。天幕の中にまだ何匹か居るかも知れないが、それは後回しにするしかない。


俺達の接近に気がついたゴブリンが警戒の声を上げるがもう遅い。俺はスキルの効果範囲に居た数匹のゴブリン達を意識の触手で絡め取り、そして着地とほぼ同時に範囲外のゴブリン目がけて槍を投擲した。俺の手から離れた槍は唸りを上げながらゴブリンに殺到したかと思うと、鮮血を溢れさせながらその腹に深々と突き刺さった。


「グゲエッ!」


短く悲鳴を上げたゴブリンはその場に崩れ落ち、細かく痙攣を始める。俺は素早くそれに近づき、槍を回収した後さっきのゴブリン達に向き直った。俺のスキルで捉えたゴブリンは全部で三匹。その内前後不覚になったのは一匹だけのようだ。突然仲間に向かって武器を振り回し始めたゴブリンに、残りの二匹が奇声を上げて距離を取る。奴らにスキルの事が解る知能があるとも思えないが、危険な事ぐらいは理解できるのだろう。


「グギャー!」


騒ぎを聞きつけたゴブリンが続々と天幕の中から出て来る。その数は全部で五匹。まだ正気の二匹と合わせるとなかなかの戦力だが、こちらにはスキルで狂ったゴブリンとリーシュの存在がある。油断さえしなければ負ける要素が無かった。


雪に行動を阻害される事を嫌ってか、ゴブリン達は大きく飛び跳ねながら俺に接近しようと試みるものの、俺は武器の差で奴等の接近を許さない。新しく購入したばかりの槍は使い勝手が良く、長年使っている様に手に馴染む。軽量の槍から突き出される攻撃は振り下ろされるゴブリンの棍棒を跳ね上げ、瞬時に無防備になった腹へと穂先を突き入れる事が出来た。そこに飛来するリーシュの一撃離脱戦法で奴等は次第に数を減らしていき、俺達の勝利は目前だと思われた。だがその時、戦いの喧騒を破るような雄たけびが森中に響き渡る。


「ウオオオオーッ!」


突然の声に俺達やゴブリンの動きがピクリと止まった。今のは何だ?何か嫌な予感がして一旦ゴブリンから距離を取り周囲を警戒した次の瞬間、森の中から何者かが飛び出し天幕から顔を出していた子ゴブリンに噛みついたのだ。そしてそいつはそのまま広場の端まで走り抜け、口に咥えた子ゴブリンの頭を易々と噛み砕く。あっと言う間の出来事に呆気にとられる俺とゴブリンに、口元を鮮血で汚しながらソレが向き直った。


「雪狼だ!注意しろ!」


上空からリーシュの警戒の声が飛ぶ。言われなくても解ってるさ。雪狼…主に雪国に生息している雑食性の危険な動物だ。奴等は普通の狼と違い単独行動するのが基本だ。だが単独行動するだけの事はあり、戦闘力は普通の狼より何倍も強い。下手をすれば熟練した戦士でも奴等の胃袋に収まってしまうらしい。動きも俊敏で雪の上でも軽々と走るため、徒歩でこいつ等から逃げるのは不可能に近い。リーシュの翼で逃げようとしても抱える隙を狙われるだけなので無駄に終わる。ここは覚悟を決めて迎え撃つしかないだろう。


「それにコイツ、スキル持ちだ…」


低く唸り声を上げる雪狼を注意深く観察すると、その体がほんのり光を放っていた。思わぬところでスキル持ちに出会えた訳だが…さて、どんなスキルを持っているのだろうか。油断なく槍を構えながら、俺は涎を垂らして近づいて来る雪狼を睨み据えた。

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