とある魔族の成り上がり

小林誉

第17話 ゴブリンの襲撃

翌朝、俺とリーシュは早朝から街を出て一路西の山中を目指した。まず目標にするのはこの依頼の依頼主の住む村だ。とりあえず、しばらくはそこを拠点にしてゴブリンの根城を探すしかない。地図上ではそれほど距離は無いように思えたが、実際に歩いてみると思いの外道は険しく村に辿り着くまでに数日を要した。なにせ山の中に進むにつれて降り積もった雪が多くなり、一歩歩く毎に足を深く絡め取られる。山育ちの俺と違って普段飛んで移動するリーシュが随分と疲れていたようだが、こればっかりは慣れが必要だ。


村に辿り着いた俺達は早速手近な村人に声をかけ、村長の下に案内してもらった。収穫期が終わったばかりの為か、村は閑散としていて人通りも少ない。恐らく家の中で仕事をしているのだろう。周りを見回してみると、雪対策なのか全ての建物の屋根が急になっている。そんな家屋が立ち並ぶ中、俺達を案内してくれた村人は他と比べて一際立派な一軒家のドアをノックする。


「村長!お客さんだ!賞金稼ぎの方が来てくれたぞ!」
「…はいはい。すぐ開けるよ」


中から現れたのは白髪でしわの多い老人だった。老人と言っても腰が曲がっている訳では無く、背筋も真っ直ぐと伸びて歳を感じさせない印象だ。そんな彼は村人の背後に立つ俺達二人をまじまじと観察した後、村人に視線を移す。ハーフと翼人種が珍しいのかも知れない。


「村長。この方達が依頼を受けてくれた賞金稼ぎの方だ。確かに案内したから、後は頼んだぜ」


それだけ言い残し彼はさっさとこの場を後にした。あの様子からしてまだ仕事が残っているのだろう。そんな彼の背中を見送った村長を含む俺達三人は、しばし無言で見つめ合う。この爺さん、村長と言う責任ある立場の割りには無口なようだ。仕方が無いのでこちらから口を開きかけたその時、止まっていた時間が動き出したかのように村長が口を開いた。


「ああ、すまんすまん。お茶の一つも出さねばならんな。狭い所だが中に入ってくれ」
「…お邪魔します」
「失礼する」


村長は一人暮らしなのか、家の中は物が少なく閑散としている。村長は食器棚から木で出来た三つのコップを取り出し、湯を沸かし始める。その間俺達は家に一つしかないテーブル席につき、村長が戻って来るのを黙って待った。


「お待たせ。遠い所ご苦労さんだったね」
「ありがとうございます」
「感謝する」


俺達の真向かいに腰を下ろした村長は、改めて俺とリーシュの姿を観察し始めた。今の俺達は他人にとってどう見えるだろうか?装備だけ見れば俺よりリーシュの方が遥かに立派だし、ハーフの俺を見れば、ひょっとしたらリーシュが主で俺が下男と思っているかも知れない。主従なのか仲間なのか、はたまた恋人か夫婦か、関係は気になるが深く聞くのも気が引ける。村長はそんな顔をしていた。


「それで、依頼の件ですが…」
「ああ!そうそれだ。ゴブリンが住み着いて困ってたんだよ。今は家畜程度の被害で済んでるが、その内人に襲い掛かってくるかも知れんからな。さっさと退治してくれんか」
「それには情報が必要だ。奴等の拠点の場所…解らなければそれに類する手がかりを教えて欲しい」
「そうさな…」


村長の話では、ゴブリン達は村の西にある深い森の奥からたまに姿を現しては、家畜や食料などを持ち去るらしい。そんな時は村の男衆が農具を手に団結して追い払っているようだが、奴らは回を重ねる毎に次第に大胆になって行き、最近では脅しを無視して昼間から出没する事もあるんだとか。


「数はどれぐらい居るんですか?」
「うーん、見た感じ十を超えるか超えないかってところかのう」
「その程度なら何とかなりそうだな。では早速明日から奴等の巣の捜索に…」


とリーシュが話を終わらせようとした時、急に家の外が騒がしくなってきた。何事かと思っていると、さっき俺達を案内してきた村人がドアを蹴破る様に中に入ってきたではないか。


「おいおい、ドアはもう少しゆっくりと…」
「そんな事言ってる場合じゃないぞ村長!ゴブリン共がまた現れたんだ!あんた達もすぐに来てくれ、あいつ等を退治するためにここまで来たんだろ!?」


村にとっては災難だが、俺達にとっては探す手間が省けたと喜ぶべき事態だ。開け放たれたドアから飛び出し外に出てみると、すでに村人が数匹のゴブリンに応戦しているのが目に入った。


「リーシュ、やるぞ!」
「承知した!」


まだ真新しい鎖帷子をじゃらじゃらと鳴らしながら手近なゴブリンに走り寄った俺は、振り下ろされた棍棒を掻い潜ってその脇腹に槍の穂先を深く突き刺す。絶叫を上げるゴブリンに更に一撃を加えて止めを刺し、次の獲物を求めて視線を泳がせた。


リーシュは一旦空に舞い上がった後村人に襲い掛かっているゴブリン達から標的を決め、急降下するとその延髄から股下まで一気に槍で刺し貫いた。そして槍を引っこ抜いた後、再び上昇して次の獲物を探す。俺達が参戦した事で村を襲撃したゴブリン共は次々に数を減らしていき、最後には数匹の家畜を手にとって逃げ出した。


「追えリーシュ!奴等の本拠地を探すんだ!」


俺一人なら追撃しても最後尾を数匹倒して巻かれるだろうが、リーシュが居れば話は別だ。空を飛ぶ翼人種の目から逃れる方法など、保護色を使うかスキルで誤魔化す以外にありえない。俺は村人にゴブリン共の死体を一か所に集めるよう指示した後、リーシュの飛び去った方角目がけて走り出した。

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