とある魔族の成り上がり

小林誉

第15話 壺

「おい、立て!」
「わかった!わかったから手荒に扱うなって!」


リーシュに取り押さえられていた人物は、どうやら男の様だ。連中の一味のわりにはヒョロッとした体格で、盗賊と言うより学者か何かと言った方がしっくりくる外見の優男だ。腕を捻り上げられた事で苦痛に顔をしかめながらも悪態をついている。これで結構度胸も据わっているようだ。


「お前、さっきスキルを使って逃げようとしたな?役人に突き出す前にお前のスキルの事を聞かせてもらおうか」
「ス、スキル?なんの事だか…いてて!そうだよ、俺が使ったんだよ!」


あくまでも誤魔化そうとする男をリーシュが締め上げる。こいつ、盗賊の一味だけあってなかなか太々しい奴だ。口から出る戯言に騙されないように注意しながら尋問しなければ、痛い目を見るのはこっちかも知れない。


「お前のスキルがどんな物か説明しろ。それと、盗賊達が奪った金をどこに隠してあるかも教えてもらおうか」


どうせこのまま放置しておいても誰かが見つけるかそのまま腐るかの二択だ。なら戦利品代わりにいただいてしまっても問題あるまい。盗賊達の貯め込んだ金と依頼の報酬を合わせれば、それだけでも結構な額になるだろう。右手に出現させたナイフを手に、ゆっくりと男の首筋にソレを突きつける。途端に悪態をついていた男の動きがピタリと止まり、額からは一筋の汗が流れ落ちた。


「…俺を殺すのか?」
「お前の態度次第だな。大人しく話せば命だけは助けてやってもいい。一人ぐらい逃がしたところで報酬に差は出ないだろうしな。どうする?このまま死ぬか、何もかも話して自分だけ助かるか」


男がゴクリと喉を鳴らす。今男の頭の中では必死で損得を計算しているはずだ。何をどう考えても男の選択肢は話す以外に無いのだから考えるだけ無駄なのだがな。黙ったままの男に痺れを切らし、もう少し脅す必要があるかと俺が動きかけた時、男はやっと口を開いた。


「…わかった。金の在処を話そう。まず俺のスキルだが、持っているのは『隠蔽:弱』ってスキルだ。俺の姿を見た者の視界から、一定時間姿を隠す事が出来る。人数が少なければ少ないほど持続時間が長くなって、百人単位になると一瞬消えるのがせいぜいだ」


なるほど、それでさっきは俺だけコイツの姿が見えなくなったんだな。上空に居たリーシュに影響が無かったのはそう言った理由だった訳だ。しかし今持っている幻術と比較した場合、同士討ちを誘えない点で使い勝手が格段に悪い。これはあくまでも個人的な逃亡に使えるスキルでしかないな。吸収してまで欲しいスキルでもないので今回は無視しよう。


「そうか。で、金の在処は?」
「そこの洞窟の中だよ。一番奥にあるツボをずらすと板が出て来るから、その下に隠してある。俺の知ってる事はこれで全部だ。解放してくれるんだよな?」
「金が手に入るまでは無理だな。お前が罠にはめようとしている可能性もあるし、嘘をついているとも考えられる。リーシュはここに残ってくれ。万が一逃げようとしてもここで捕まえられる」
「わかった」


後ろ手に縛ったままナイフで脅して男を前に行かせる。洞窟の中はジメジメしていて決して住みやすい環境とは言えない場所だった。それに何より臭いが酷い。不潔な盗賊達の体臭と汚物の臭いが混じった空気には吐き気を催す。よくこんな所を根城にしていた物だと変な関心さえしてしまう。悪臭は奥に進むほどどんどん酷くなり、鼻で呼吸しているのが辛くなるほどだった。


「あれだ」


洞窟の一番奥に辿り着くと、何人かの寝床らしい薄汚れた寝具の横に悪臭の元凶らしい凄まじい臭いを放つ壺があった。あの下に金があるのか…にしても酷い臭いだな。


「その壺は何だ?」
「これか?これは俺達の便所だよ。下手に外に出て人目に付きたくないから、ここに用を足してたって訳だ」


聞かなければよかった。正直言って、あんな物には触るどころか近づきたくない。しかしあれを動かさないと金を回収する事は出来ないので、誰かがやらなければならない。そうなれば必然的にその役割を担う人物は決まっていた。


「お前が金を回収してこい」
「俺が!?ならせめて縄を解いてくれよ!」
「文句を言うな。刺されたくはないんだろ?」


ナイフで背中をつつかれて、男はブツブツ言いながらも壺に近寄り体で押し始める。ズズ…ズズ…と少しずつ壺が移動すると、壺の下に隠れていた板が姿を現した。あれが金の在処かと一瞬身を乗り出したその時、男は突然立ち上がり汚物の溜まった壺を俺の方に向けて蹴とばしたのだ。


「うわっ!」


突然の事で反撃するより逃げる事を優先してしまった。誰だって他人の汚物など触りたくないだろうから、今の俺の行動を咎める事など出来はしない。男はその一瞬の隙をつき、慌てた俺に隠蔽スキルを使用した。俺の視界から瞬時に男の姿が掻き消えたので、攻撃されないようにナイフを無茶苦茶に振り回しながら警告の声を上げる。


「逃げようとしても無駄だぞ!外にはリーシュが居るんだ!」
「出口が一つだけなんて言ってないぜ!」


逃げ場など無かったはずなのに、男の声が次第に遠ざかって行く。よく見ると、ただの壁かけだと思っていた場所にぽっかりと穴が開いていた。男はここから逃げたらしい。


「くそったれ!」


咄嗟に後を追おうとしたが…止めた。この穴が外に繋がっている保証など無いし、罠がある可能性も高い。それに見知らぬ穴倉の中で先に逃げた男を捕まえられる気がしなかった。ここは金の回収だけ済ませて外に出るのが賢いやり方だろう。汚物のかかった床板を顔をしかめながら外していくと、板の下からは新たな壺が現れた。壺に掛けられている蓋を外すと中に入っていたのは金などではなく、汚物が代わりにつまっていただけだった。


「ぐおおおっ!」


まんまと騙された事に激怒して、頭を掻きむしりながら思わず叫んでしまった。どんだけウ○コが好きなんだよあいつ等は!捨てろよ!なんで部屋の中に溜め込んでおく必要があるんだよ!せっかく大金が手に入ると思ったのに、代わりにウ○コが出てくるとか納得できるか!


「…帰るか…」


八つ当たり気味に洞窟内の備品を破壊して回った俺の口からは、乾いた声しか出てこなかった。盗賊の上前をはねるのは失敗したが、一応依頼は達成したのだからこれで良しとしよう。リーシュに何を言われるか今から頭が痛かったが、これも勉強代だと思って我慢するとしよう。

「とある魔族の成り上がり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く