とある魔族の成り上がり

小林誉

第13話 賞金稼ぎ組合

魔王を頂点にした魔族領では、領主同士の争いはある程度認められている。新たな資源を発見した時、それはこっちの、いやいやこっちの物だと揉め事が起こると、武力による解決が許可されるのだ。戦いに敗れた側は事前に提示された条件を飲む事が義務付けられていて、これを破ると魔王直属の兵が差し向けられる。要するに死刑判決だ。簡単に言うと、魔王さえ崇めておけば後はルール内で勝手にやってよろしいと言う事だ。一見国力が落ちる放任主義にも思えるが、力こそ正義と考える大半の魔族には支持されているし、強い者が生き残るので結果的に精鋭を作りだす事に成功している。もちろん勝負など受けずに金品で解決する者達も少なくない。やり方は人それぞれなのだ。


人族の領域は魔族領とは正反対で、いくつもの国がそれぞれの領域を統治している。魔族の大規模な侵攻があれば各国が協力して兵を出し合い一致団結して戦うが、普段は虎視眈々とお互いの領地を狙っている間柄だ。当然魔族領と同じように力での解決など論外であり、国を治める貴族連中は裏での足の引っ張り合いに精を出していた。


大森林に接するのは魔族領、エスクード、マシェンド同盟の三カ国。この中で俺達が目指したのは5つの都市の連合国家にして商人達の国、マシェンド同盟だ。この国は都市それぞれが自ら治める領土を管理し、評議会の決定で全体の運営がなされている。商業国家だけあって、都市間の移動は特に制限が設けられていないため、俺のようなハーフでも簡単に出入りできるのがありがたい。人も物も集まるなら、金儲けの機会も転がっているはずだ。


陸路で魔族領との国境沿いまで進んで行くと、領内を巡回する兵士の数が増えてくる。人族との境には小規模な砦が数多く建てられているため、必然的に見張りの数も増えるのだ。当然人族の領域にも砦や見張り小屋などが多くあるので侵入するのは難しいが、幸いこちらにはリーシュが居る。彼女に担いでもらって空から侵入すれば、見張りに見つからずに潜り込む事が可能だろう。


たとえ空を飛んでいても昼間では同じように空を飛べる飛行能力のある兵士達に見つかる危険性があるため、移動するのは夜だけに限定している。昼間は人気の無い場所に潜伏して、夜は空の上だ。そんな事を何日か続けた後、俺達は無事マシェンド同盟の勢力範囲に降り立つ事が出来た。


「さて、どっちに進む?」
「どうするかな…?」


辿り着いたのはいいが俺達は地図の類を一切持っていないので、どちらに行けば街があるのか知るはずも無かった。


「リーシュ、ちょっと上に上がって明かりが見えないか偵察してくれ」
「承知した」


俺をその場に残したリーシュは力強く羽ばたくと、グングン高度を上げていく。夜の闇の中で地上からその姿を捉えるのは困難で、彼女の姿はあっと言う間に見えなくなってしまった。待つ事しばし、羽ばたきの音と共にリーシュが降りてくる。どうやら随分高いところまで飛んだようだ。


「ここから南に進んだ所に複数の明かりが見えた。恐らく街で間違いないと思う」


ひょっとしたら砦とかの可能性もあったが、他に当てが無い現状ではそれを目指して進むしかない。降り立った草原から一路南へ歩き続けると、次第に街道の姿が見えてきた。魔族領とは大きく違い、石畳の敷き詰められた道がどこまでも続いている。街道にこれだけ金をかける事が出来るとは、流石は商業国家だと感心した。土がむき出しになってる普通の街道を馬車で進むと、どうしても移動速度が落ちてしまう。これならあまり時間をかけずに人も物も別の街まで移動させる事が出来るはずだ。


夜通し歩き続けて朝日が差し始めた頃、俺達はようやく街の外周まで辿り着く事が出来た。一応門を警備する兵士達の姿はあるが、誰を呼び止めるでもなく素通りさせている。門も開けっ放しで様々な人々が早朝から忙しく出入りしていた。あの門や兵士達が役に立つのは、恐らく戦争などの非常事態だけなのだろう。


苦労せずに正面から堂々と街に入る事に成功した俺達がまず行ったのは宿探しだ。この数日昼夜が逆転していたので、まず日中動き回るために仮眠を取って活動時間を正常に戻したいと言う理由があった。街の大通りには朝から開店している店が多く並び、商品の売買や値引きの声があちこちから聞こえてくる。俺達はそんな人々の横を通り過ぎながら、宿屋の看板を探して通りを歩いていた。


「そこのお二人さん!宿を探してるなら家においで!安くしとくから!」


強引な呼び込みと共に腕を取られる。見ると若い女だった。ハッキリと俺の瞳を覗き込んだはずなのに、ハーフを見る蔑みの感情などおくびにも出さない。大した商魂だと思った。


「素泊まりで一人銅貨3枚。食事付きなら銅貨5枚だよ。さあさあ、ついて来て!」


部屋単位でなく一人当たりで料金が発生するのは魔族領と違っていたが、こう言う料金体系は行商人など一人で動く人間にとっては有り難いのかも知れない。今更他の宿を探すのが面倒なのと眠気が襲って来ていた事もあって、抵抗せずに女に腕を引かれるまま、ある宿屋まで辿り着く。外観はお世辞にも立派とは言えない。継ぎ接ぎだらけの外壁と、歩くたびに音が鳴る傷んだ床板。客の入りもあまり無いのか、店内は閑散としていた。なるほど、多少強引な客引きでもしないと潰れそうな店だ。


二人分の料金を取っただけあって、ベッドの数はちゃんと二つ用意されていた。リーシュと俺は別々のベッドに倒れ込むように眠ると、空腹で昼頃に目が覚めた。宿の一階で簡単な食事を摂りながら賞金稼ぎと言う職業の情報を聞き出すと、俺達を引っ張り込んだ女が勢いよく話し始める。


「賞金稼ぎって言うのはね、人や魔物、種類を問わずに賞金を懸けられた奴等を捕まえるか殺してくる職業の事を言うの。賞金の額によって当然危険度も跳ね上がるけど、その分実入りも多くなる。賞金稼ぎになりたければ組合事務所まで行って簡単な事務手続きと手数料を払えばそれでお終い。後は身分証明書が発行されるから、それを持って賞金首を狩って来るだけよ。身分証が無い人が賞金首を捕まえても、組合からは一銅貨も出ないから注意してね」


簡単に身分証が作れると言うのは有り難いが、それは反対に賞金稼ぎ自体の地位の低さを現している。ただでさえハーフは疎まれるのに、この上賞金稼ぎになってしまえばどんな扱いを受けるか解ったものでは無かった。


「他に選択肢が無いのなら、やってみるしかあるまい」


リーシュの言う通りだ。ここまで来てしまえば後は行動あるのみ。ここを足掛かりにして、なんとしても自分の手駒を増やしていく必要がある。女に礼を言って宿を後にした俺達は、わざわざ用意してくれた地図を頼りに街を歩く。目指すは賞金稼ぎの組合事務所だ。この街は大規模な区画整理がされているようで、建物が均一に並べられている上に、角と言う角に迷わないように看板が掲げられていた。そのおかげでそれほど迷わずに目的の組合事務所まで辿り着く事が出来たのだった。


建物の入り口には賞金稼ぎ組合事務所と書いてある看板がこれでもかと目立つ位置に掲げられている。これで実は肉屋でしたと言うオチもあるまいと、リーシュと二人して扉をくぐる。だが、そこに俺の想像していた光景は広がってはいなかった。誰一人大声を出したり暴れたりせず、大人しく用意された椅子に腰かけて順番待ちをしている。俺はてっきり暇さえあれば剣を振り回して斬り殺す対象を探している危ない奴や、刃物そのものに欲情する変態がうようよしていると思っていたのだが、どうも現実は真逆の様だ。


「こんにちは。今日はどのようなご用件で?」


中に入ったもののどうしていいのか解らずに戸惑っていた俺達を見かねてか、職員らしき男が声をかけてきた。彼は俺の目を見ても表情一つ変える事無く丁寧に話を続ける。来訪の目的を告げると彼はカウンターまで俺達を案内し、そこにある用紙を二つ差し出して来た。これに名前や種族を記入するらしい。手早く書いた用紙を回収した職員の男はこの場で待つように言い、そのまま奥に引っ込んでいく。男が戻って来るまで周囲の人間を観察してみると、使い古された装備に身を包むものが多く見られた。その立ち振る舞いからは戦い慣れた戦士の気配を感じる。何人かスキル持ちもいるようだった。


「ケイオスさん、リーシュさん、こちらにどうぞ」


呼び出された俺達が窓口に腰かけると、真新しいカードが二つ差し出された。これが身分証明書のようだ。身分証と引き換えに二人合わせて銅貨10枚を支払う。裏や表とひっくり返して観察すると、それぞれの身分証にはどう言う仕組みか俺達の顔が描かれていた。絵描きでも雇っているのだろうか?そんな俺達の様子を特に気にする事も無く、職員は説明に入る。その態度は正にお役所と言ったところか。


「依頼を引き受ける時、また、報酬を受け取る時は必ずこの身分証を提示してください。でなければ規則により一銅貨も支払われません。タダ働きになりたくなければ、この身分証は絶対に無くさない事。再発行時には銀貨5枚を徴収されますのでご注意を」


登録は格安なのに、再発行には随分と金がかかるんだな。それだけ紛失する奴が多いのだろうか?依頼の受け方は掲示板に貼ってある依頼書と共にこの身分証を提示するだけと言う簡単な手続きのようだ。依頼を受ける事は誰でも出来るが、依頼によっては期限を過ぎたり途中で破棄すると罰金を取られる場合もあるとか。そこだけは注意する必要があるだろう。要は自分の出来る範囲を見極めないと、痛いしっぺ返しが返ってくると言う訳だ。


これで登録は完了したので、次は早速依頼を受けてみる事にしよう。俺達二人は依頼書の多く貼られた掲示板の前に足を向けた。

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