異世界転生チートマニュアル
第77話 捕縛
度重なる三笠と日本丸による攻撃で、ブリューエットの海軍に戦う力は残っていなかった。フランのように民間船を徴発して即席の海軍を作る事も出来ただろうが、フラン軍の動きはその時間的余裕を全く与えないほど早かった。港で警戒するブリューエット軍に三笠が攻撃をしている頃、港の南方三キロの地点に上陸した奇襲部隊本軍は城へ、補給路を叩くための部隊は街道を東へ移動していく。本拠地を狙う部隊は密かに見張りを始末して門を開けると、街の中へ侵入を果たした。
ブリューエット軍にとって、海から攻撃される事はあっても、まさか敵の上陸部隊が陸側から攻めてくるとは想定外だったのだろう。門を守る兵は完全に油断していたか、それとも港の守りで人員が足りなくなっていたのかは不明だが、とにかく彼等はフラン軍の侵入を阻止する事が出来なかった。
三笠の攻撃が続いているため、街の住民は自宅に閉じ籠もっているか、避難所に集まっている。そのおかげで住民をかき分けて進む必要も排除する必要もなく、奇襲部隊は城へ続く大通りをひた走る。いよいよ城を目前にした時、異変に気づいた敵の兵が跳ね橋を上げようと動き出したがもう遅い。素早く引き絞られた弓から放たれた矢が音を立てて空を切り、慌てふためく敵兵の体を貫いた。
「て、敵襲ー!」
しかし敵も黙ってやられている訳ではない。傷を負いながらも味方に危機を告げたのだ。
「敵!? こんな所に敵だと!?」
「何かの見間違いじゃないのか!?」
「よく見ろ! 目の前まで迫っているだろう!」
混乱に陥りつつも武器を手に応戦を始めるブリューエット軍。フラン軍は倒れる味方に構う事なく門を突破すると、一気に城内へと雪崩れ込んだ。
港にはまだ多くの敵兵がいるが、すぐ戻ってこられる訳ではない。城に敵の侵入を許したと聞かされた指揮官はすぐとって返そうとしたが、下手に港の守りを裂くと三笠と日本丸が近づいて上陸しようとしてくるので、動くに動けない。それでも最低限の兵を残して彼は戻る決断をした。城が落ち、ブリューエットが捕らわれるか殺されるかすれば、いくら港が無事でも意味がないのだ。
本拠地に駐留する敵兵は二千。その内五百を残して三笠の迎撃に向かっていたため、城の守りはかなり手薄になっている。それはそうだ。まだ主力同士が戦って決着がついたと言う報告もないのに、いきなり敵の本丸に乗り込んでくるなど非常識な事この上ない。正気を疑うような作戦なのだ。
城に乗り込んだフラン軍は、たった今占拠した兵士詰め所に一隊を送り込み、今度は自ら跳ね橋を上げてしまった。これで城と街は完全に遮断されてしまい、頑強な城は陸の孤島へと変貌してしまったのだ。急いで駆けつけた敵兵も、城への道が閉ざされてしまえば為す術もなく、上がった跳ね橋を見上げて歯がみするしかなかった。
一方、三笠と日本丸は手薄になった港に接近して火矢を放ち、無理矢理接舷して乗船させていた弩兵を下ろし始めていた。敵も物陰に隠れながら弓などで攻撃してくるが、それは三笠から放たれた巨大な矢で物陰ごと粉砕されていく。ヤケクソ気味に飛び出した敵兵はあっという間に体中に矢を突き立てられる結果となり、三笠と日本丸の上陸部隊は無事に港の占拠に成功していた。
「きゃああ!」
「な、なんだ!?」
「誰かー!」
城の中には文官やメイド、下働きなど、多くの非戦闘員が滞在している。彼等は見慣れない戦装束に身を包んだフラン軍を見た途端、悲鳴を上げて逃げていく。中には阻止しようと抵抗する者達も少数いたが、それらは無慈悲に切り捨てられていた。変装した敵兵との見分けがつかないための悲劇だったが、もとより民間人の犠牲をゼロにするなど不可能なのだ。
城に侵入したフラン軍の兵は約千。港を占拠している弩兵二百を合わせても、まだ数の上では負けている。フラン領の奥深くに突き進んでいる敵軍への補給を上手く叩かねば、戻ってきた敵に袋だたきにされてしまうだろう。
跳ね橋を操る兵士詰め所を占拠した一隊は、大急ぎで大型バリスタを組み立てていく。すでに堀の向こう側からは、ありあわせの板を合わせた頼りない橋がいくつも架けられ、いつ城側に渡ってくるのか解らない状態だ。彼等を近づけないためにも、大型バリスタは必要な武器だった。
外で激しい戦いが続いている中、城内でも至る所で死闘が繰り広げられていた。侵入したフラン軍は正規の騎士で構成されているために戦闘能力が高い。しかし敵も城を守る任に就いた精鋭達だけあって、一方的な戦いにはなり得ない。だが城内に限って言えば、フラン軍の方が数が多い。彼等は常に一人の兵に対して二、三人で戦う戦法をとって、確実に一人ずつ仕留めていった。
「ブリューエットを探せ! 変装している可能性もある! 男でも絶対に確認しろ!」
「非戦闘員を一カ所に集めろ! 城の広間だ! 急げ!」
あらかた敵兵の排除を終わらせたフラン軍だったが、ホッと息をつく暇もなく、目的であるブリューエット探しを始めていた。彼女を捕らえない限り、この戦闘は終わらない。生きた彼女の首に剣を突きつけるか、縛り上げた彼女に剣を突きつけるかの違いだが、とにかく捕らえた彼女を敵の目にさらし、お前達は負けたのだと教えなければならないのだ。
「きゃああ!」
「いやああ!」
「やめて! 触らないで!」
悲鳴を上げるメイドや小間使いなどを一人一人確認しては、剣で脅しながら城の広間へと押し込んでいく。ジリジリと焦らされて焦りを濃くするフラン軍だったが、一人の兵がブリューエット発見の声を上げると、一斉に勝ち鬨を上げた。
「うおおおお!」
「勝った! 俺達の勝ちだ!」
「やってやったぞ! やったんだ!」
突如城内から上がった勝ち鬨は、城の外で戦いを繰り広げている敵味方双方の兵達にも聞こえた。瞬間、ブリューエット軍の兵達は絶望に顔を暗くし、抵抗を続けていたフラン軍の兵は空に拳を突き上げて勝利を喜んだ。
しかし、直後にブリューエット軍がとった行動には、フラン軍の誰もが驚かされる事になる。大人しく武器を捨てて投降する――などでは決してなく、持ち場を捨てて我先にと逃げ出し始めたのだ。
ブリューエット直属の騎士が離脱していく兵を必死で止めようとしているものの、それに耳を貸す者は皆無だ。彼等はブリューエットの派閥に属する貴族の兵達であり、自ら頂く旗印が生死不明の状況になってまで、ブリューエットの為に働くほど献身的ではなかった。
まるで潮が引くようにあっという間に逃げ去った兵達は、街の門から脱出するとすぐに行方をくらましたのだ。
城に残っていた敵兵は、ブリューエット捕縛の報を受けて完全に抵抗を諦めていた。下手に暴れて主に危害が加えられては敵わないとおもったのか、それとも自らの保身を優先したのか定かではないが、とにかくこれで戦闘は終了した。
そして当のブリューエットはと言うと、彼女は特に負傷もせず、自分を取り囲むフラン軍の兵に対して怯える事もなく、窓際のソファーで優雅に腰掛けていた。フランとよく似た金髪碧眼の外見は、腹違いとは言え流石に姉妹と言えるだろう。親しみを持てるフランとは違い、彼女の目はきつくつり上がっていて、その気の強さを感じさせた。歳は現在二十五歳。貴族にしては珍しく、未だ独身のままだ。
「まったく、こんな結果になるなんて予想外も良いところですわ。まさかあの子に出し抜かれるなんて」
彼女を取り囲む兵の気が変わって、いつ殺されるかもしれないと言うのにこの態度。その図太い神経は流石王族と褒めるべきか呆れるべきか。周囲の兵は戸惑うばかりだ。どうしたものかと顔を見合わせる兵の中から隊長格の者が進み出て、僅かに頭を下げる。
「ブリューエット様。最早改めて言うまでもありませんが、貴女は囚われの身となりました。この上は抵抗する事なく、我々と共にフラン様の元へ来ていただきたい」
「……無礼者。王族である私に向かって、跪く事も無く話しかけるとは何事です? 礼儀をわきまえなさい」
下手に出たにもかかわらず傲慢な返答が返ってきた事に、兵達は一瞬鼻白む。このお姫様はまだ現実が直視できないのかと言わんばかりだ。
「無礼は重々承知しております。しかし我等の主はフラン様のみ。貴女に膝をつくつもりは毛頭ありません」
「……主が主なら配下も配下と言う事かしら。躾がなっていないわね」
悪態をつくばかりで一向に立ち上がる気配もないブリューエットに対して、業を煮やした兵達が無理矢理立ち上がらせる。両脇を抱えて荷物のように運ばれる事など初めてなのだろう。ブリューエットは目を白黒させながら金切り声を上げ始めた。
「無礼者! 断りもなく婦女子の体に触れるなど、お前達はそれでも騎士ですか!? 離しなさい! 離して! きっとこのまま私にいやらしい事をするつもりなんでしょう!? そのケダモノのような獣欲で私の高貴な体を蹂躙するつもりなのね!? いやー! 誰か助けて! 犯され――ぐむ!?」
彼女を抱える兵達は、全員が苦虫を噛み潰したような顔をしながら足早に城の外へと急いだ。彼等はフラン軍の中から奇襲部隊に選ばれるほどの精鋭だ。つまり軍の中でもエリートだし、プライベートでは女に不自由していない。興味もない女から痴漢呼ばわりされて殺意を抱くリーマンのように、彼等はブリューエットに対する敬意を捨て去っていた。
乱暴に猿轡を噛まして城外の部隊と合流した彼等は、急いで港に走って行く。ブリューエットを確保した小隊は港に待機している三笠に乗り込み、奇襲部隊の主力は落とした城をしばらく占拠する手はずになっている。ブリューエット軍主力が戻ってきた時、彼等に主と城が落ちた事を知らしめなければならないからだ。
ブリューエットを乗せた三笠は日本丸を引き連れ、さっさと港を離れていく。弩兵は全員城に入城し、守りを固めるために残る事になっていた。
こうして、剛士発案の敵本拠地奇襲上陸作戦は、成功に終わったのだった。
ブリューエット軍にとって、海から攻撃される事はあっても、まさか敵の上陸部隊が陸側から攻めてくるとは想定外だったのだろう。門を守る兵は完全に油断していたか、それとも港の守りで人員が足りなくなっていたのかは不明だが、とにかく彼等はフラン軍の侵入を阻止する事が出来なかった。
三笠の攻撃が続いているため、街の住民は自宅に閉じ籠もっているか、避難所に集まっている。そのおかげで住民をかき分けて進む必要も排除する必要もなく、奇襲部隊は城へ続く大通りをひた走る。いよいよ城を目前にした時、異変に気づいた敵の兵が跳ね橋を上げようと動き出したがもう遅い。素早く引き絞られた弓から放たれた矢が音を立てて空を切り、慌てふためく敵兵の体を貫いた。
「て、敵襲ー!」
しかし敵も黙ってやられている訳ではない。傷を負いながらも味方に危機を告げたのだ。
「敵!? こんな所に敵だと!?」
「何かの見間違いじゃないのか!?」
「よく見ろ! 目の前まで迫っているだろう!」
混乱に陥りつつも武器を手に応戦を始めるブリューエット軍。フラン軍は倒れる味方に構う事なく門を突破すると、一気に城内へと雪崩れ込んだ。
港にはまだ多くの敵兵がいるが、すぐ戻ってこられる訳ではない。城に敵の侵入を許したと聞かされた指揮官はすぐとって返そうとしたが、下手に港の守りを裂くと三笠と日本丸が近づいて上陸しようとしてくるので、動くに動けない。それでも最低限の兵を残して彼は戻る決断をした。城が落ち、ブリューエットが捕らわれるか殺されるかすれば、いくら港が無事でも意味がないのだ。
本拠地に駐留する敵兵は二千。その内五百を残して三笠の迎撃に向かっていたため、城の守りはかなり手薄になっている。それはそうだ。まだ主力同士が戦って決着がついたと言う報告もないのに、いきなり敵の本丸に乗り込んでくるなど非常識な事この上ない。正気を疑うような作戦なのだ。
城に乗り込んだフラン軍は、たった今占拠した兵士詰め所に一隊を送り込み、今度は自ら跳ね橋を上げてしまった。これで城と街は完全に遮断されてしまい、頑強な城は陸の孤島へと変貌してしまったのだ。急いで駆けつけた敵兵も、城への道が閉ざされてしまえば為す術もなく、上がった跳ね橋を見上げて歯がみするしかなかった。
一方、三笠と日本丸は手薄になった港に接近して火矢を放ち、無理矢理接舷して乗船させていた弩兵を下ろし始めていた。敵も物陰に隠れながら弓などで攻撃してくるが、それは三笠から放たれた巨大な矢で物陰ごと粉砕されていく。ヤケクソ気味に飛び出した敵兵はあっという間に体中に矢を突き立てられる結果となり、三笠と日本丸の上陸部隊は無事に港の占拠に成功していた。
「きゃああ!」
「な、なんだ!?」
「誰かー!」
城の中には文官やメイド、下働きなど、多くの非戦闘員が滞在している。彼等は見慣れない戦装束に身を包んだフラン軍を見た途端、悲鳴を上げて逃げていく。中には阻止しようと抵抗する者達も少数いたが、それらは無慈悲に切り捨てられていた。変装した敵兵との見分けがつかないための悲劇だったが、もとより民間人の犠牲をゼロにするなど不可能なのだ。
城に侵入したフラン軍の兵は約千。港を占拠している弩兵二百を合わせても、まだ数の上では負けている。フラン領の奥深くに突き進んでいる敵軍への補給を上手く叩かねば、戻ってきた敵に袋だたきにされてしまうだろう。
跳ね橋を操る兵士詰め所を占拠した一隊は、大急ぎで大型バリスタを組み立てていく。すでに堀の向こう側からは、ありあわせの板を合わせた頼りない橋がいくつも架けられ、いつ城側に渡ってくるのか解らない状態だ。彼等を近づけないためにも、大型バリスタは必要な武器だった。
外で激しい戦いが続いている中、城内でも至る所で死闘が繰り広げられていた。侵入したフラン軍は正規の騎士で構成されているために戦闘能力が高い。しかし敵も城を守る任に就いた精鋭達だけあって、一方的な戦いにはなり得ない。だが城内に限って言えば、フラン軍の方が数が多い。彼等は常に一人の兵に対して二、三人で戦う戦法をとって、確実に一人ずつ仕留めていった。
「ブリューエットを探せ! 変装している可能性もある! 男でも絶対に確認しろ!」
「非戦闘員を一カ所に集めろ! 城の広間だ! 急げ!」
あらかた敵兵の排除を終わらせたフラン軍だったが、ホッと息をつく暇もなく、目的であるブリューエット探しを始めていた。彼女を捕らえない限り、この戦闘は終わらない。生きた彼女の首に剣を突きつけるか、縛り上げた彼女に剣を突きつけるかの違いだが、とにかく捕らえた彼女を敵の目にさらし、お前達は負けたのだと教えなければならないのだ。
「きゃああ!」
「いやああ!」
「やめて! 触らないで!」
悲鳴を上げるメイドや小間使いなどを一人一人確認しては、剣で脅しながら城の広間へと押し込んでいく。ジリジリと焦らされて焦りを濃くするフラン軍だったが、一人の兵がブリューエット発見の声を上げると、一斉に勝ち鬨を上げた。
「うおおおお!」
「勝った! 俺達の勝ちだ!」
「やってやったぞ! やったんだ!」
突如城内から上がった勝ち鬨は、城の外で戦いを繰り広げている敵味方双方の兵達にも聞こえた。瞬間、ブリューエット軍の兵達は絶望に顔を暗くし、抵抗を続けていたフラン軍の兵は空に拳を突き上げて勝利を喜んだ。
しかし、直後にブリューエット軍がとった行動には、フラン軍の誰もが驚かされる事になる。大人しく武器を捨てて投降する――などでは決してなく、持ち場を捨てて我先にと逃げ出し始めたのだ。
ブリューエット直属の騎士が離脱していく兵を必死で止めようとしているものの、それに耳を貸す者は皆無だ。彼等はブリューエットの派閥に属する貴族の兵達であり、自ら頂く旗印が生死不明の状況になってまで、ブリューエットの為に働くほど献身的ではなかった。
まるで潮が引くようにあっという間に逃げ去った兵達は、街の門から脱出するとすぐに行方をくらましたのだ。
城に残っていた敵兵は、ブリューエット捕縛の報を受けて完全に抵抗を諦めていた。下手に暴れて主に危害が加えられては敵わないとおもったのか、それとも自らの保身を優先したのか定かではないが、とにかくこれで戦闘は終了した。
そして当のブリューエットはと言うと、彼女は特に負傷もせず、自分を取り囲むフラン軍の兵に対して怯える事もなく、窓際のソファーで優雅に腰掛けていた。フランとよく似た金髪碧眼の外見は、腹違いとは言え流石に姉妹と言えるだろう。親しみを持てるフランとは違い、彼女の目はきつくつり上がっていて、その気の強さを感じさせた。歳は現在二十五歳。貴族にしては珍しく、未だ独身のままだ。
「まったく、こんな結果になるなんて予想外も良いところですわ。まさかあの子に出し抜かれるなんて」
彼女を取り囲む兵の気が変わって、いつ殺されるかもしれないと言うのにこの態度。その図太い神経は流石王族と褒めるべきか呆れるべきか。周囲の兵は戸惑うばかりだ。どうしたものかと顔を見合わせる兵の中から隊長格の者が進み出て、僅かに頭を下げる。
「ブリューエット様。最早改めて言うまでもありませんが、貴女は囚われの身となりました。この上は抵抗する事なく、我々と共にフラン様の元へ来ていただきたい」
「……無礼者。王族である私に向かって、跪く事も無く話しかけるとは何事です? 礼儀をわきまえなさい」
下手に出たにもかかわらず傲慢な返答が返ってきた事に、兵達は一瞬鼻白む。このお姫様はまだ現実が直視できないのかと言わんばかりだ。
「無礼は重々承知しております。しかし我等の主はフラン様のみ。貴女に膝をつくつもりは毛頭ありません」
「……主が主なら配下も配下と言う事かしら。躾がなっていないわね」
悪態をつくばかりで一向に立ち上がる気配もないブリューエットに対して、業を煮やした兵達が無理矢理立ち上がらせる。両脇を抱えて荷物のように運ばれる事など初めてなのだろう。ブリューエットは目を白黒させながら金切り声を上げ始めた。
「無礼者! 断りもなく婦女子の体に触れるなど、お前達はそれでも騎士ですか!? 離しなさい! 離して! きっとこのまま私にいやらしい事をするつもりなんでしょう!? そのケダモノのような獣欲で私の高貴な体を蹂躙するつもりなのね!? いやー! 誰か助けて! 犯され――ぐむ!?」
彼女を抱える兵達は、全員が苦虫を噛み潰したような顔をしながら足早に城の外へと急いだ。彼等はフラン軍の中から奇襲部隊に選ばれるほどの精鋭だ。つまり軍の中でもエリートだし、プライベートでは女に不自由していない。興味もない女から痴漢呼ばわりされて殺意を抱くリーマンのように、彼等はブリューエットに対する敬意を捨て去っていた。
乱暴に猿轡を噛まして城外の部隊と合流した彼等は、急いで港に走って行く。ブリューエットを確保した小隊は港に待機している三笠に乗り込み、奇襲部隊の主力は落とした城をしばらく占拠する手はずになっている。ブリューエット軍主力が戻ってきた時、彼等に主と城が落ちた事を知らしめなければならないからだ。
ブリューエットを乗せた三笠は日本丸を引き連れ、さっさと港を離れていく。弩兵は全員城に入城し、守りを固めるために残る事になっていた。
こうして、剛士発案の敵本拠地奇襲上陸作戦は、成功に終わったのだった。
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