勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる
第181話 暗躍
彼等が根城にしていた小屋には、私物らしきものはほとんど残されていませんでした。どんな人間でも、生活をしていれば大なり小なり私物はあるものです。なのに彼等の小屋には人間らしい生活をしていた痕跡すらほとんど残っていません。食器の類いまでないのに、どうやって生活していたのか? 皆目見当もつきませんでした。
(ひょっとしたら……いえ、まさかね)
宝石を埋め込まれた人間は食事の必要がない――そんな悪い想像をしてしまった私は、ぶるりと身を震わせました。食事も娯楽も必要なく、ただ他者を害するだけの存在なんて、それは魔物より恐ろしい存在なのですから。見た目は同じで穏やかに接していたとしても、ある日突然牙を剥いてくる……そんな攻撃、防ぎようがないのですから。
騒ぎを聞きつけてやって来た兵士の皆さんの手を借りながら、何時間もかけて色々と調べた結果、彼等の小屋に残されていたのは武器や防具の類いと、何枚かの羊皮紙のみ。その羊皮紙も暗号が使われているらしく、何を書いてあるのかまるで理解出来ませんでした。
暗号解読の手がかりなど残すはずもないし、時間をかけてでも地道に解読していくしかない。そう思って神殿にこもり始めた数日後、私が思っていた以上に早く、メリア達が動き始めたのです。
突然、街中の至る所に張り紙が貼られたのと同時に、数人の商人や権力者が無残に殺されました。張り紙にはただ、こう書かれていたのです。
『分配されるべき財を独り占めして私腹を肥やし、我が世の春を謳歌している悪党共に天誅を下す』
と。その文言には殺害された犠牲者達の名前が書かれていました。これが教皇様のように普段から慈善活動などを行っている人物なら一笑に付された可能性もありましたが、そこがメリア達の狡猾なところなのでしょう。彼女達がまず狙ったのは、普段から評判の良くない人物ばかりなのです。所謂、証拠はないが、限りなくブラックに近いグレーな人物達――それがメリア達『虐げられた者』の、最初の標的でした。
この事件が切っ掛けで、世間は真っ二つに割れました。リュミエル神の教えを広め、その権威で成り立っているこの国リュミエルとは言え、富裕層もいれば貧困層もいます。そして今回の件で標的になった富裕層は、明日は我が身かと声高に彼等を非難したのですが、逆に貧困層は彼等を支持する者が続出したのです。
自分達が不遇なのは権力者が富を奪っているからだ――そう思い込ませることができれば、『虐げられた者』の目論見は成功したも同然なのでしょう。彼等の根城や手がかりを見つけるための捜査に対しても、妨害まではいかなくとも非協力的になり、国の雰囲気が徐々に悪くなっていくのがわかりました。打てる手もなく、暗号の解析も遅々として進まない。そんな中、第二の事件が起きたのです。
今度の標的は、普段から慈善活動などで多くの人々から慕われる商人と、彼に協力的な神官の二人でした。二人の活動は食料や寝具の支援から始まり、教育や仕事の斡旋まで多岐にわたったのですが、それでも標的にされてしまったのです。
その理由は『幼い子供や若い娘を拐かし、なぶり者にして喜ぶ悪党だから』というものでした。当然、二人はそんな悪事と無縁の人物でしたし、実際に支援された人々も必至で否定していたのですが、多くの人々はそれを信じませんでした。
なぜなら、実際に殺された二人の屋敷から、幼い子供と若い女性の遺体が発見されたのですから。当然、騎士達はそれを不審がって調べました。そしてそれがかなり古い遺体であり、最近まで墓の下に眠っていたものだと証拠まで見つけたのです。しかし、それを発表したからと言って、興奮した貧困層は耳を貸そうともしませんでした。
これをきっかけに街の至る所で暴力沙汰が起きるようになり、連日の激務で疲労の極地にある騎士の取り締まりも厳しいものになるにつれ、人々の騎士や国に対する感情も悪化していったのです。
「見事ですね……メリア。まさかここまで狡猾なんて……」
今の状況は最悪の一歩手前――といったところでしょうか? 多くの人々に不満の種火はくすぶり続けているものの、まだ大規模な暴動には発展していない。国が真っ二つに割れるような事態にまではなっていない。
「それも時間の問題でしょうけど……」
私も人々を説得しようと、日々メリア達の陰謀を説いて回りましたが、逆効果でしかありませんでした。暴言を浴びせられるならまだしも、石を投げつけられた時には、流石にショックを受けたのです。これでも国や民のためを思って努力してきたのですが、当の民によってそれが全て否定された時の衝撃や喪失感は、創造していたよりはるかに強烈でした。
「……そうか。メリア達は、こんな気持ちをずっと抱いて生きてきたのね」
今なら彼女達の心境が少しわかった気がしました。信じていた者達に裏切られ、全てに絶望して抱く闇。そして怒り。なぜ自分を助けてくれないのか、自分を信じてくれないのか。そんな事をずっと考えて生きてきたのでしょう。
でも、だからといって彼等『虐げられた者』の行為を許すわけにはいきません。明らかな非があるかどうかハッキリしないところに罪をでっち上げ、争う必要のないところに火種を巻続けて行為は、決して容認出来ないのです。勇者としても、一人の人間としても。
そして、その日が来てしまいました。建国から数百年の間で、一度も起きたことのない最悪の日が。
(ひょっとしたら……いえ、まさかね)
宝石を埋め込まれた人間は食事の必要がない――そんな悪い想像をしてしまった私は、ぶるりと身を震わせました。食事も娯楽も必要なく、ただ他者を害するだけの存在なんて、それは魔物より恐ろしい存在なのですから。見た目は同じで穏やかに接していたとしても、ある日突然牙を剥いてくる……そんな攻撃、防ぎようがないのですから。
騒ぎを聞きつけてやって来た兵士の皆さんの手を借りながら、何時間もかけて色々と調べた結果、彼等の小屋に残されていたのは武器や防具の類いと、何枚かの羊皮紙のみ。その羊皮紙も暗号が使われているらしく、何を書いてあるのかまるで理解出来ませんでした。
暗号解読の手がかりなど残すはずもないし、時間をかけてでも地道に解読していくしかない。そう思って神殿にこもり始めた数日後、私が思っていた以上に早く、メリア達が動き始めたのです。
突然、街中の至る所に張り紙が貼られたのと同時に、数人の商人や権力者が無残に殺されました。張り紙にはただ、こう書かれていたのです。
『分配されるべき財を独り占めして私腹を肥やし、我が世の春を謳歌している悪党共に天誅を下す』
と。その文言には殺害された犠牲者達の名前が書かれていました。これが教皇様のように普段から慈善活動などを行っている人物なら一笑に付された可能性もありましたが、そこがメリア達の狡猾なところなのでしょう。彼女達がまず狙ったのは、普段から評判の良くない人物ばかりなのです。所謂、証拠はないが、限りなくブラックに近いグレーな人物達――それがメリア達『虐げられた者』の、最初の標的でした。
この事件が切っ掛けで、世間は真っ二つに割れました。リュミエル神の教えを広め、その権威で成り立っているこの国リュミエルとは言え、富裕層もいれば貧困層もいます。そして今回の件で標的になった富裕層は、明日は我が身かと声高に彼等を非難したのですが、逆に貧困層は彼等を支持する者が続出したのです。
自分達が不遇なのは権力者が富を奪っているからだ――そう思い込ませることができれば、『虐げられた者』の目論見は成功したも同然なのでしょう。彼等の根城や手がかりを見つけるための捜査に対しても、妨害まではいかなくとも非協力的になり、国の雰囲気が徐々に悪くなっていくのがわかりました。打てる手もなく、暗号の解析も遅々として進まない。そんな中、第二の事件が起きたのです。
今度の標的は、普段から慈善活動などで多くの人々から慕われる商人と、彼に協力的な神官の二人でした。二人の活動は食料や寝具の支援から始まり、教育や仕事の斡旋まで多岐にわたったのですが、それでも標的にされてしまったのです。
その理由は『幼い子供や若い娘を拐かし、なぶり者にして喜ぶ悪党だから』というものでした。当然、二人はそんな悪事と無縁の人物でしたし、実際に支援された人々も必至で否定していたのですが、多くの人々はそれを信じませんでした。
なぜなら、実際に殺された二人の屋敷から、幼い子供と若い女性の遺体が発見されたのですから。当然、騎士達はそれを不審がって調べました。そしてそれがかなり古い遺体であり、最近まで墓の下に眠っていたものだと証拠まで見つけたのです。しかし、それを発表したからと言って、興奮した貧困層は耳を貸そうともしませんでした。
これをきっかけに街の至る所で暴力沙汰が起きるようになり、連日の激務で疲労の極地にある騎士の取り締まりも厳しいものになるにつれ、人々の騎士や国に対する感情も悪化していったのです。
「見事ですね……メリア。まさかここまで狡猾なんて……」
今の状況は最悪の一歩手前――といったところでしょうか? 多くの人々に不満の種火はくすぶり続けているものの、まだ大規模な暴動には発展していない。国が真っ二つに割れるような事態にまではなっていない。
「それも時間の問題でしょうけど……」
私も人々を説得しようと、日々メリア達の陰謀を説いて回りましたが、逆効果でしかありませんでした。暴言を浴びせられるならまだしも、石を投げつけられた時には、流石にショックを受けたのです。これでも国や民のためを思って努力してきたのですが、当の民によってそれが全て否定された時の衝撃や喪失感は、創造していたよりはるかに強烈でした。
「……そうか。メリア達は、こんな気持ちをずっと抱いて生きてきたのね」
今なら彼女達の心境が少しわかった気がしました。信じていた者達に裏切られ、全てに絶望して抱く闇。そして怒り。なぜ自分を助けてくれないのか、自分を信じてくれないのか。そんな事をずっと考えて生きてきたのでしょう。
でも、だからといって彼等『虐げられた者』の行為を許すわけにはいきません。明らかな非があるかどうかハッキリしないところに罪をでっち上げ、争う必要のないところに火種を巻続けて行為は、決して容認出来ないのです。勇者としても、一人の人間としても。
そして、その日が来てしまいました。建国から数百年の間で、一度も起きたことのない最悪の日が。
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