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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第172話 リチウムへの手紙

とは言ったものの手がかりなんて簡単に見つかるはずもなかった。大神殿には各地から集められた文献が集められていますが、その大半は過去に神殿が関わった開拓の記録や討伐の記録ばかり。他の国と違ってリュミエル神を中心とした我が国だけに、その資料にも偏りがあるのです。

「ボルドール王国のように普通の国なら様々な書物が集まっているでしょうに……」

愚痴を言いながらあれこれと書物を手に取り、何日もかけて色々と調べてみましたが、ついに錫杖についての情報は手に入りませんでした。手伝ってくれている神官や巫女達が疲れた顔で作業を続けてくれていますが、都合良く資料が出てきてくれるとも限らないため、あまり期待出来る状況ではありません。

こうなったら、どうにか頼み込んで他国の書物を閲覧させてもらおうかしら……そんな事を考えていた時、視界の隅に紙の束が積み上がっていることに気がつきました。

「これは……?」
「ああ、それは各地の神殿に寄せられた陳情書や感謝状の束です。解決したものや出来なかったものがごちゃ混ぜになってますが、捨てるのも憚られたので放置されているんですよ」

リュミエル神の威光を広めるために、各地の神殿は日々地域のために働いています。そんな彼等の頑張りが時々こうやって、手紙という形で大神殿に送られてくることがあるのです。息抜きも兼ねてその内の何枚かを手に取り何の気なしに眺めていたら、何枚かはとても古い時代のものだと言うことに気がつきました。

「日焼けと経年劣化でボロボロですね。文字がかすれて読みにくいですけど、読めないこともない……」

それはある村から個人に対しての感謝の手紙でした。季節の挨拶に始まり近況報告。そして平和になった村に遊びに来て欲しい。そんな内容がつらつらと書かれていた普通の手紙でしたが、最後に書かれた文章に私の目は釘付けになったのです。

「来年の今頃……私の村……豊作に……是非……親愛なるリチウム様へ。 …………より」

最後に書かれた差出人の名前はかすれて読めませんでしたが、リチウムの名はハッキリと読み取ることが出来ました。世界中探せばリチウムという名の人物は見つかるかも知れませんが、大神殿で活動していたリチウムは一人しかいないはず。手紙の内容からして、この人物はリチウムと親しかった様子。この人物の住んでいる所を調べれば、何か手がかりが見つかるかも知れません。

「何処の村でも麦は作ってるはずですが、豊作と言う事はそれなりの規模を誇る農地なのでしょうか?」

私は三百年前の古い地図を引っ張り出してきて机に広げると、当時のリュミエルを食い入るように眺めました。

「魔族との戦いが終わった当時ですから、魔境と隣接する西側で豊作というのは可能性が低いですね。戦場もその辺りでしたし……とすれば東側」

東側に麦の絵が描かれた場所を何カ所か発見すると、今度は現代の地図と見比べてみました。すると現在でも残っている村がたった一つ見つかったのです。

「統廃合でなくなった村からの頼りだとお手上げですけど、この際それは忘れて……今はこの村に向かうべきですね。ええと……ここからなら馬で三日もあれば着きますか」

馬を乗り継げばもっと短縮出来るでしょうけど今は一刻も時間が惜しい。私は地図を片手に部屋を飛び出した後自分の部屋に駆け込むと、簡単な装備を調えて窓を開け放ちました。

「ダンジョンでは使う機会に恵まれませんでしたが……ここなら別ですね」

全身に魔力を巡らせ、窓枠を蹴って空に跳び上がった私の体は、地面に叩きつけられる――どころか、その高度をグングンと上げていきました。これこそ修行で得た力。飛行魔法です。ラピスさんや魔族を観察して自分なりに研究し、なんとか実用化したこの飛行魔法なら、目的の村まで一日もかからないはずです。

地上の人々が豆粒みたいに小さくなるほど上昇すると、眼下の景色はあっと言う間に流れていきます。自分の真横を通り過ぎる私に驚いた鳥が慌てて逃げるのに苦笑しながら、私は更にスピードを上げていきます。

「凄い……これが飛行魔法なんですね」

まるで鳥にでもなったような気分です。教皇様が大変な時だというのに、私は自分の心が場違いに躍っているのを自覚していました。一瞬なにもかも忘れて、このまま何処までも飛んでいきたい――そんな考えが頭をよぎりましたが、慌てて打ち消します。

自分の愚かな思いつきを置き去りにするようにスピードを上げた私は、僅か数時間飛行するだけで目的の村へ到着していました。突然空からやって来た私に何人かの村人が指さしながら会話しています。無理もありません。飛行魔法はまだまだ使い手の少ない魔法ですからね。

目的の村は古くから麦の一大生産地だけあって、辺り一面麦畑が続いていました。小さな街ぐらいならすっぽり入ってしまうんじゃないかと思えるぐらい、どこまでも麦畑が続いているのです。これを育てた村人達の努力や苦労はどれほどのものだったのでしょう? 本当に頭が下がる思いです。

「あ、あの……すみません」

麦畑を観察していた私に、恐る恐る近づいてきた一人の少女が声をかけてきました。年の頃は私と同じか少し下でしょうか? 少しだけソバカスの目立つ顔と、畑仕事で健康的に焼けた肌。そして白に近い金髪が印象的な少女です。

「はい?」
「この村に何かご用ですか? 格好からして神官様みたいですが……」

今の私の装備は一般的な神官戦士と大差無いもの。彼女がそう思うのも当然でしょう。

「申し遅れました。私の名はフレア。このリュミエルで勇者を名乗らせていただいています」
「ええ!? フレア様って……あの!? そ、そんな凄い人がこんな何も無い村に何のご用で……?」

丁寧に頭を下げて自己紹介すると、彼女は驚きに身を固くしていました。私はそんな彼女の緊張を解きほぐすように優しく笑いかけ、この村に来た目的を告げるのです。

「この村にリチウムと言う方が滞在した記録がないか調べに来たのです。あの伝説の僧侶と名高い、聖人リチウム様の」

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