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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第170話 リュミエルのフレア

魔族と繋がっていたシェルパを倒した功績をもって、アネーロ達は晴れて自由の身となった。国王が彼等に謝罪した事で名誉は回復され、全てが元通りになった……表面上はだが。今回の事で国民の国王へ対する感情悪化は避けられず、口の至る所で不満が噴出しているようだ。無理もないことだと思う。密かに戦争を画策し、それに反対した国の英雄であるアネーロ達を投獄したのだ。兵士や騎士の前では口を噤んでいても、酒場など国の目の光らない場所では、公然と国王の悪口を口にする者も少なくない。

事態を収束するため国王は戦争計画の撤回を公式に発表したものの、それを鵜呑みにする国民は多くないだろう。その上、その撤回宣言を耳にしたボルドール王国から特使が送られ、事態の説明を請われて対応に苦慮しているとの話もある。ま、全ては自業自得なんだが、なるべく国民に被害の少ない手打ちで済めば良いと思う。

なんにせよ、経緯はどうあれゼルビスが帝国側に付くことは阻止出来た。結果だけ見れば上手くやったと自画自賛してもいいぐらいだろう。

「準備出来たか?」
「ああ。待たせて悪かった」
「気にするな」

旅装に身を固めたアネーロと軽く挨拶を交わす。アネーロ達は混乱したゼルビスに留まるよう国王に要請されたようだが、それを断り俺と同行する道を選んだ。難色を示した国王だったが、一時は処刑寸前まで追い詰めた負い目があるのか無理強いはせず、渋々アネーロ達を送り出したようだ。

「それでバンディットよ。これからどうするのだ?」
「各国を回って味方を集める。ゼルビスだけじゃなく、魔族の手はあちこちに伸びている可能性が高いからな。帝国側の力を少しでも削いだ上に味方を増やす。一石二鳥の作戦だ」
「行き当たりばったりのような気がしないでもないが……まぁいいだろう」
「よし、準備は出来たな? じゃあ行くか」

俺が声をかけると皆が一斉に頷いた。合計六人と大所帯になったパーティーだが、これからどんどん増やしてやるぜ――そんな事を考えながら、俺はゼルビスを後にした。

§ § §

――フレア視点

暗い。ここに入ってどれぐらいの時間が経ったでしょうか? 自分の手すら見通す事の出来ない暗闇の中で、私はため息を吐きました。ここはリュミエルにある大神殿――その地下深くにある迷宮の中。三百年前、人族の領域に攻め込んできた魔族は、この地に大きな城とダンジョンを造ったのです。権力や守りの象徴である城はともかくとして、彼等がそのダンジョンを造った目的の詳細は不明ですが……ただ、戯れに捕らえた人間を潜り込ませ、彼等が傷つき倒れるのを娯楽代わりにしていたという記録だけが残っています。やがてその城も当時の勇者であるブレイブによって破壊されたようだけど、地下にあるダンジョンは封印されるだけに留まりました。

ブレイブが中に潜む魔物を全滅させなかった理由はわかりません。たぶん、そこまで時間的な余裕が無かったのか、この地の人達に任せて大丈夫と思ったのでしょう。でも結果として魔物の脅威は残り続けたので、困った人々はその監視と討伐を兼ねて神殿を建てたそうです。リュミエルにある神殿騎士の歴史は、その当時から始まったと聞かされています。

「さあ、休憩は終わりですね」

話す相手も居ないので本来なら喋る必要も無いのですが、声を出さないと不安と孤独が倍増しそうなので、あえて独り言を口にします。左手に魔力を流して光の球を作りだし、自分の周囲にふよふよと漂わせると、当たりは一気に明るくなりました。ここに入る時に持ち込んだ松明はとっくに燃え尽き、光源は自分が生み出す魔法の光のみ。その光につられたのか、ダンジョンの奥から生臭さと共に邪悪な気配が近づいてくるのがわかりました。

私は無言で剣を抜き放ち、左手に盾を構えます。ストローム王国で経験した魔族との戦い――自分の力不足を痛感した私はここリュミエルに戻り、修行のためにダンジョンの奥深くへと潜ったのです。ベッドもなく、固い床で襲撃に警戒しながらの寝起きは神経をすり減らされ、食べるものと言ったら自然繁殖した動物や魔物の死骸だけ。最初はあまりの気持ち悪さに何度も吐き出したのですが、最近では何とも思わなくなってきました。

たった一人、寝て起きて戦う。その連続のおかげか、私の実力は以前を大きく上回る物になったのです。

うなり声と共に暗闇から飛び出してきた魔物をすれ違い様に斬り捨て、背後から迫った魔物には盾を叩きつけて動きを止めると、神聖魔法を纏わせた蹴りの一撃でその胴体に穴を空けます。今の私は全身のあらゆる部分に神聖魔法を纏わせることができ、魔力を使った筋力強化も特に意識せずコントロールが可能となりました。

襲いかかってくる魔物を次々と斬り伏せ、私はダンジョンを下へ下へと降りていきます。伝承によると、このダンジョンの最深部には、魔物達を統べる王が存在すると言われているのですが……それが何者かまではわかっていません。

「……戦ってみればわかることですね」

今の私なら、かつて辛勝した魔族にも余裕で対応出来る自信がありますが、その力が魔物の王とやらに通用するかどうかは未知数です。ですが、その存在を倒す事無く修行の終わりとはならないのです。細長い通路の先にあったのは一枚の大きな扉。まだ扉に手をかけてすらいないのに、その向こう側からは邪悪で強烈な気配が漂っていました。

自分の力がどこまで通じるか……ひょっとするとここで倒れ、私も魔物の仲間としてダンジョンを永久に彷徨うことになるかも……そんな考えが頭に浮かび、怖じ気づきそうになりました。

「リュミエル神よ……お守りください」

神に祈りを捧げた後、意を決して扉を押し開くと、そこには一人の騎士が佇んでいました。

「……アンデッド?」

油断なく武器を構えながら観察しつつ、いつでも対処出来るように間合いを計っていきます。装備からして、騎士はかつて神殿騎士だったのでしょう。長い時間の経過で肉は全て腐り落ち骸骨だけになったその騎士は、まるで生きているかのような滑らかさで武器を構えると、突然こちらに斬りかかってきました。

想像以上の速さに一瞬反応が遅れ、慌てて躱した鎧の上を剣が滑り不快な音が響きます。眉を顰めつつ神聖魔法を纏わせた剣を突き出すと、それは騎士の構えた盾によって弾かれ、難なく防がれてしまいました。

私の神聖魔法は騎士から溢れ出る瘴気によって防がれる代わりに、騎士の瘴気も私の神聖魔法によって無効化されているようです。互いに魔法が決定打にならないとなれば、後は単純に技量の勝負。私は覚悟を決めるとその場に留まり、騎士と壮絶な斬り合いを始めました。

互いの一撃が空振りすると周囲の壁や床が大きく抉れ、その攻撃力の高さを証明するかのような跡を残していきます。

「くっ!」
「…………」

生きている以上、傷を受ければ痛みもあり、血も流れます。対して相手はアンデッド。痛みを感じない以上怯みもしません。瞬時に魔法で治療をしているとは言え、長期戦になればいずれ魔力が尽きる私の敗北は必至。だとすれば、多少無茶をしてでも早期の決着をつける必要がある! 私は騎士と剣で切り結びながら、自らが仕える神に対して祈りを捧げ始めました。

「リュミエル神よ……偉大なる光の神よ……闇を切り裂く光の御技をお与えください……」

神の名を唱え、その存在に助力を請い続けていると、徐々に私の中に力が満たされていくのを感じました。これが新たに得た私の奥の手――その名も神下ろし。神を直接降臨させる寸前まで力を得ることの出来る神聖魔法ですが、一歩間違えると巨大な神の存在によって自らの精神を崩壊させる危険な技です。

体から溢れた神聖な気は周囲を満たし、当然目の前で剣を振るう騎士にも影響を与えていきます。

「…………」

言葉こそ発さないものの、神聖な気気配に圧された騎士が怯みます。その隙を逃さず、先ほどまでと段違いに早く強力になった私の剣は、騎士の体を切り刻んでいきました。攻撃を防ぐ盾をたたき割り、瘴気を纏う剣は盾で砕きます。そしてがら空きになった胴に向けて剣を突き立てると、一気に魔力を流し込んで、その体を爆散させたのです。

四散した騎士の体と共に神聖魔法が当たりを満たすと、さっきまで濁っていた部屋の空気が嘘のように晴れたのです。いつの間にか浮いていた額の汗を拭って部屋を観察すると、部屋の隅に光り輝く小さな魔方陣を発見しました。

「この形は……何処かへ転移させるものでしょうか?」

ひょっとしたら最後の最後に油断した者を破滅に導く悪辣な罠という可能性も捨てきれませんが、何か意味があって存在する可能性も捨てきれず、悩みに悩んだ私は恐る恐る魔方陣へと足を乗せました。すると次の瞬間、視界が真っ白に染まり、自分が全く別の場所へやってきたのがわかったのです。

「ここは……見覚えがあるわ……」

そこはリュミエルにある郊外の森。小さい頃は食料を求め、何度となく通った場所だったのです。

「ダンジョンを引き返す必要がなくなったのはありがたいのですが……街までは結構ありますね」

無事に修行を終えた実感に安堵しながら私は肩を竦めます。さあ、まずは現状把握から始めなければ。私が不在の間、世界がどのような動きを見せたのか、それをしらなければなりません。

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