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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第168話 嘘から出た実

アネーロ達が処刑される日になった。街の至る所にアネーロの罪状と処刑の日取りが書かれた立て看板が設置されていたため、この国はアネーロ達の話題一色に染まっていた。かつての勇者が反逆罪で処刑されると言う前代未聞の事態に驚いた人々は、事の顛末を見届けようと王都にある広場に殺到し、通りは人で溢れかえっていた。

「――にもかかわらず、この男は陛下への協力を拒否したのだ! それはすなわち! 国歌に対する反逆! 我が身可愛さで国を裏切った愚か者だ! そんな男に生きている資格はない!」
「そうだ! その通りだ!」
「裏切り者を殺せ!」

捕らえられ、抵抗する素振りすら見せないアネーロの前に立ち、身振り手振りを加えて民衆を煽っているのは案の定シェルパだった。奴の言葉に賛同する声が民衆の中からいくつか上がっているが、あれは恐らくシェルパが金で雇った扇動者だろう。民衆の前で前勇者であるアネーロをこき下ろして自分の株を上げようって魂胆なんだろうが、肝心の民衆の反応はいまいちだ。

この数日色々と調べて回ったが、ハッキリ言ってシェルパの人気は皆無だ。人気どころか人望も皆無に等しい。それもそのはず、このゼルビスという国――いや、大多数のリザードマンと言う種族にとって、口で自己を大きくみせようとする人物は好ましく写らないそうだ。アネーロほど馬鹿正直じゃないとしても、彼等はその生来の気質のためか、わかりやすさを好む。勇者の選別で勝ち抜いたアネーロを尊敬することはあっても貶すことはない。

逆に、シェルパのように成績も振るわず、無様に敗退した者がなぜ再選抜試験をされずに勇者の席に収まっているのかを疑問に思っているのだ。だからこそシェルパがいくら煽ろうが民衆は乗ってこないのだろう。アネーロの処刑でこの国が嫌いになっていた俺だが、国民全てを嫌いにならなくて済んだことに少しホッとしていた。

「――この裏切り者の処刑はこの俺自らが行う! 誰か異論のある者はいるか!?」

そう叫んだシェルパが民衆を見回すが、どこからも声は上がらなかった。それに対してシェルパは満足そうに顔を歪める。あの野郎は勘違いしているが、民衆は誰もシェルパの言葉に賛同しているわけではない。単に国王に対して逆らうのを躊躇しているだけだ。勇者であるアネーロすら簡単に処刑しようというのだから、自分達が逆らえば確実に殺される――そう考えているんだろう。だが、彼等には無理でも出来る奴はここにいる! グッと力を込めた拳に柔らかな手が添えられた。見ると妹達が笑顔を浮かべながら、俺に向かって微笑んでいる。俺は彼女達に一つ頷くと、腹に力を込めて口を開く。さあ、このバンディット一世一代の賭けの始まりだ!

「いるに決まってるだろう!」

群衆の中から突如響いたその声に、周囲は一気にザワつき距離をとった。もちろんその中心にいるのは俺達だ。遠巻きに見守る人混みをかき分け、俺達はシェルパと同じ壇上へと一気に飛び乗った。異変を察知した兵が武器を構えて殺到しようとするが、それは妹達によって阻止される。

「貴様……バリオスの勇者か!」
「いかにも! 俺はバリオスの勇者バンディットだ! 数日ぶりだな、勇者を語る道化よ!」

俺の言葉にシェルパは一瞬で顔色を変えた。今まで得意気になって演説していたというのに、よほど痛いところを突かれたんだろう。面白いぐらいの取り乱しようだ。

「貴様が一体何の用だ!? 今回のことはゼルビスの国内問題だ! 他国の者は黙っていろ!」
「お前さんの言うとおり、アネーロ達が明らかに罪を犯したと言うなら俺も黙っていたさ。だが、それを言うのが更に罪を犯している罪人なら黙っているわけにはいかんな!」

俺の言葉に民衆が一気に騒がしくなる。この数日、俺は色々とシェルパの事を調べ回った。そうしたら出るわ出るわ……。わざわざ人を雇って調べるまでもなく、奴の悪評は俺の所に山積みされたのだ。立場や暴力を利用して他者の金品を脅し取るなど序の口。奴と揉め事をおこした人物が行方不明になっているという話まである。どうしてそんな悪事が今まで明らかになっていなかったのかと言うと、それは奴の一族の力が原因だ。銀鱗族――それはこのゼルビスで古くから力を持つ一族で、その取り扱いには国王ですら慎重にならざるを得ないほど影響力を持っている。その一族の力を笠に着て、シェルパの野郎は好き勝手やっていると言うわけだ。

シェルパに対して、表だって文句を言える存在はそれほど多くない。国王を除けば国内で二つか三つの一族があるだけだろう。

「俺が罪人だと!? 馬鹿馬鹿しい! 罪人はそこで囚われているアネーロだろうが!」
「アネーロは国王に忠告しただけだ! 他国へ侵略戦争を仕掛けるような馬鹿な真似をするなとな!」

その一言で民衆は爆発したように騒がしくなった。当然だろう。彼等にとっても侵略戦争など寝耳に水なのだから。

「どう言う事だ!?」
「俺達は誇り高きリザードマンだろう! それが侵略戦争だと!? 恥を知れ!」
「私の息子を戦争なんかに連れて行かないで!」
「王はどういうつもりだ! 他国に侵略もしない、させないのがゼルビスじゃなかったのか!」

リザードマン達は自分の武を誇る。だが、それは自分はここまで強くなったと自己研鑽をこそ誇るのであって、他者を力で害することを誇るという意味ではない。アネーロほど極端じゃないにしろ、彼等はそういう傾向があるのだ。それなのに、魔族相手ならまだしも、他国に侵略などゆるせない行為なのだ。

「静まれ! 静まれ!」

あわや暴動になりかけたその時、今まで沈黙していた国王が姿を現した。彼の登場で民衆は一時的に静かになったものの、完全に治まったというわけでもなく、いまだ火種が燻り続けている。その証拠に、彼を見る民衆の目は猜疑心にまみれていた。そんな彼等の態度に怯みもしない面の皮の厚さには恐れ入る。

さて、目的の人物を引っ張り出すことには成功した。あとはアドリブで何とか切り抜けてみせるぜ。

「バリオスの勇者バンディットよ。其方、何の証拠があってそのような妄言を吐くのだ」
「お言葉ですが国王陛下。私が証拠を示すより、あなた自身が明確な証拠を提示しているではありませんか」

恭しく頭を下げながらそう言うと、国王は忌々しげに舌打ちをする。

「……どういう意味だ?」

その問いかけに、俺はある人物をそっと指さした。その先にいるのは縛られ、喋ることもままならない状態のアネーロがいる。

「アネーロの存在が何よりの証拠ではありませんか! かの勇者は公明正大、非の打ち所のない人物だ。弱きを助け強きを挫く、勇者という称号を体現したかのような人物なのに、そのアネーロがこうして囚われの身になっている。彼の事だ、国が間違った方向に向かうのを防ごうとしたのでしょう。そしてその結果、あなたによって捕らえられた。これが証拠でなくてなんなのです!」

俺の言葉に国王はグッと口を噛みしめた。民衆はのざわめきは大きくなり、口々に国王に対しての不満を口にしている。そんな中、ところどころから叫び声が上がり始めた。

「そうだ! アネーロ様は間違っていない!」
「アネーロ様は俺達を守ってくれる勇者だ! それを捕らえてどうする!」
「国の不正をゆるすな! アネーロ様を解放しろ!」

それに同調するような声が各所から漏れ出し、大きく頷いている民衆が出始めた。……やれやれ、どうやら民衆はこちらの味方に出来そうな流れになってきたなと、俺は胸をなで下ろす。

今声を上げた数人は俺が金で雇った連中だ。相手が扇動者を雇ってくるのは目に見えていたのだから、俺もそれに対抗しただけだ。アネーロならともかく、俺は奴ほど馬鹿正直じゃない。勝つためならこれぐらいの手は打つさ。一転窮地に陥った国王とシェルパ。次はこの二人の間に楔を打ち込んでやろう。

「国王陛下。あなたが国の為を思って苦渋の決断を下したのはわかります。国王とは大を助けるために小を斬り捨てる決断をする立場だ。ゼルビスの未来を思ってアネーロを処断しようとしたのも……納得は出来ないが理解は出来ます」
「…………」

俺が何を言いたいのか予想がつかず、国王は沈黙したままだ。

「しかし、ご覧のように民衆の多くはアネーロを指示し、侵略戦争などまっぴらごめんだと思っている。それでも強行しようとすれば、遠からずゼルビスは内部崩壊を起こすでしょう」
「…………!」

これはハッタリではなく、このまま行けば現実に起こりえる可能性が高い。民衆の多くが反対し、銀鱗族を除く国内の有力種族も乗り気じゃないんだ。いかに国王と言っても無茶をすれば自分の立場が危うくなる。

もっとも、俺が出てきて侵略戦争云々を暴露しなければそうはならなかっただろうがな。

「陛下。私はあなたに罪があるとは考えていません。罪があるのは、成功者を妬み、自らの犯罪を隠蔽し、国を破滅の道へ進ませようとしたシェルパにこそあるのです!」
「!」

俺がそう叫んで指さすと、シェルパは魚のように口をパクパクとさせていた。まさかここで自分に矛先が向かうとは思っていなかったんだろうが、甘いぜ。

「奴こそ全ての元凶! 魔族と繋がり、ゼルビスを混乱に陥れようとした張本人だ! 陛下、欺されてはいけません! アネーロに罪はない! シェルパこそが罪人なのです!」

シェルパが魔族と繋がっている証拠なんてない。完全にハッタリだ。ハッタリだったんだが……この場にいる誰もが予想外の事態が起きた。

「……な、なぜわかった?」
「……は?」

そう苦しげにつぶやいたシェルパに対して、おれは間抜けな声を出しただけだった。

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