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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第166話 バンディットとシェルパ

――バンディット視点

ベルシスの王都には問題無く入る事が出来た。当然か。俺達は別に敵対している訳ではないし、街中で暴れ回った犯罪者というわけでもない。もっとも、それもアネーロ達に対する待遇次第で変わってくる。あいつ等と俺達は単なる知り合いじゃなく、もう大事な仲間だからな。仲間を守るためならどんな無茶でもやってやる覚悟はあるぜ。

「とりあえず王都には入れたけど……これからどうするの?」
「正面から乗り込んでやるさ。俺達とアネーロ達が行動を共にしていたのは、国の要職にある者なら知ってるだろ。顔を見に来たと言えば良いさ」
「大丈夫かな……?」

妹達が心配する中、俺は王城に向かって堂々と歩く。次第に近づいてくる兵士詰め所と、その前に立ちはだかる兵士が目に入ってきた。当然こっちから見えると言うことは向こうからも見えているのだから、彼等は警戒態勢に入った。槍や剣を手に数人がこちらを取り囲むように散開するが、俺はそれらを一切気にしない。

「止まれ。王城に何用か? 出入りの商人には見えんが……」
「俺はバリオスの勇者バンディットだ。こっちは俺の従者である妹達。たまたま用があってベルシスに来たんだが、ついでに共に戦った仲でもあるアネーロ達に会いたくなってね。取り次ぎ願えるかな?」

あまりにも堂々とした態度に困惑したのか、兵士達は顔を見合わせてどうしたものかと小声で相談し始めた。ここに来るまで何度もアネーロ逮捕の張り紙は目にしているが、それは見ていないと言う態度を貫く。長々と相談を続けていた兵士達だったが、自分達では判断がつかないとわかったのか、その内の一人が城内へと駆けだしていった。俺が一般人なら追い払って終わりだったろうが、他国の勇者を粗略に扱うわけにもいかないんだろう。
さて、ベルシスはどう動くかな? しばらく待った後、さっき城内へと消えた兵士は二人の人物を伴って戻ってきた。一人は兵士の格好をしたリザードマンと、銀色の鱗が目立つリザードマンだ。

「お待たせして申し訳ない、バンディット殿。私はこの詰め所の責任者である――」
「初めましてバンディット殿。俺の名はシェルパ。この国の新しい勇者だ」

兵士が何か言おうとしたその時、押しのけて自己紹介をしてきたのは銀色の鱗を持つリザードマン――シェルパだった。たった一言。ただの挨拶だけでここまで他人を不快にさせる奴は珍しい。今の動きだけで俺はコイツのことが大嫌いになった。だが顔には出さない。それぐらいの自制心は持ち合わせているとも。俺は不快な気分を腹の底に押し込め、ニコリと笑ってみせる。

「初めましてシェルパ殿。俺はバンディット。そして妹のアヴェニスとエプシロンだ。ところで俺の聞き間違いかもしれないんだが、シェルパ殿がこの国の勇者なのか? 俺が知る限りベルシスの勇者はアネーロだったはずだか」

俺の問いかけにシェルパはわざとらしく胸を反らす。自分を大きくみせようという無意識の行動なんだろうが、そんなところも癇に障った。

「アネーロは王に逆らって逮捕されたため、勇者の地位を剥奪された。変わって今はこの俺が勇者を務めている。なに、俺の実力はアネーロを大きく上回っているから何の問題もない」

俺の聞きたいのはアネーロがどうなっているかであって、お前の自己紹介じゃないんだよ。怒鳴りつけてやりたいのを我慢しながら、俺はヒクついた笑顔をなんとか維持する。

「そうか。それは立派なことだ。是非人々のために頑張ってくれ。ところでアネーロのことだが――」
「奴は処刑が決まっている。王に対する反逆は何者であっても死罪だ」

俺の反応が自分の思ったようなものじゃなかったのか、強引に話を遮ってシェルパはそんな言葉を口にした。今のは聞き捨てならない。アネーロが死罪だと? コイツと話してると不快だが、これで簡単に引くわけにはいかなくなったぜ。

「……死罪とは穏やかじゃないな。それに、あのアネーロが反逆したというのも信じられん。奴は思慮深く仲間思いの良い奴だぜ?」
「王に逆らったのだから当然だ。これからベルシスはレブル帝国と協力し、魔族を利用して世界を混乱に陥れるボルドール王国との戦いが控えている。奴のような臆病者は邪魔なだけだ」
「ボルドール王国と戦う? それは戦争をするって意味か? あんたら正気なのか?」

このご時世に人間同士で戦争しようってのか? その上レブル帝国が絡んでいるってのも見過ごせない。奴等こそが魔族とつるんで悪巧みしている可能性が高いってのに……!
それに、今の話でアネーロが捕まった理由もわかった。奴のことだ。馬鹿正直に王に向かって戦争反対を唱えたんだろう。もう少し頭が回ればその場は一旦引いて、賛同者を増やしてから王と談判する事も可能だったろうに……。どうやら、アネーロの正直さが悪い方向に働いたみたいだな。

「魔族と生きるか死ぬかの戦いが始まってるってのに、今は人間同士で争っている時じゃ――」
「どうやらバンディット殿はご存じないようだ! ボルドール王国は勇者ブレイブが姿を変えた、ラピスと言う女を利用して各国で悪事を働いていたのだよ。そんな連中と手を結んで戦うなど出来ると思うか? 背中から襲いかかられるに決まっている!」

再び俺の話を遮って、シェルパは怒鳴るようにそう言った。……いい加減我慢も限界に近いぜ。アネーロの事もだが、あのラピス嬢が悪事なんぞ働くものかよ。彼女こそ身を粉にして世界のために戦ってる勇者だろうが。それを後ろで見てただけのこんな奴が偉そうに……! 

「そんなはずがありません! ラピスさんは我々バリオスを助けるために、命懸けで戦ってくれました! 今の言葉は聞き捨てなりません!」
「そうです! 撤回してください!」

俺が怒鳴りつけてやろうかと思ったその時、俺より早く我慢の限界にきた奴が居たようだ。後ろを振り向くと、俺以上に顔を真っ赤にして怒りの表情を見せる妹達の姿があった。シェルパはそんな妹達にチラリと視線を向けると、小馬鹿にしたように肩を竦める。

「やれやれ。海賊上がりの無知で無礼な国民には説明しても無駄か。これだけ単純だとラピスも欺しやすくて笑いが止まらなかっただろう」
「何だと……?」

俺達の雰囲気が一変し、その場に緊張感が張り巡らされる。言うに事欠いて海賊上がりだ? 確かに俺達バリオスの人間は船乗りが多いが、海賊上がりなんて奴は一人も居ないぜ。海賊なんて連中は捕らえた端から縛り首と決まっているし、漁師達は気性こそ荒いものの、気の良い奴等ばかりだ。俺はそんなバリオスの国民性が大好きだし、妹達もそれは変わらない。コイツは俺達だけでなく、バリオス全体に喧嘩を売ったも同然なんだ。

「聞き捨てならないな。誰が無知な海賊上がりだと? 俺達に喧嘩を売ってるのか?」

殺気を込めた視線を向けるが、シェルパはムカつく笑みを浮かべているだけだ。周囲の兵は雰囲気に飲まれ、一言も発することなく緊張に身を固くしている。まさに一触即発。いつ斬り合いが始まってもおかしくない状況だが、当のシェルパは余裕の姿勢を崩さないまま、ふざけたことを口にした。

「バンディット殿はここに何をしに来たのかな? 戦いを仕掛けるというなら受けて立つが、そうで無いならお引き取り願おう。こちらも暇ではないのでね。それとも、貴殿が発端でベルシスとバリオスの間に戦端を開くつもりかな?」
「!」

ギリッ――と、食いしばった歯が鳴った。悔しいがコイツの言うとおりだ。ここで俺達が暴れれば、アネーロを助けるどころかバリオスにまで迷惑がかかる。湧き上がる怒りを何とか飲み込み、深く息を吐いた後、俺はシェルパに頭を下げた。

「……失礼した。アネーロに会えないのならこれ以上ここに用はない。失礼させてもらう」
「兄さん!?」
「いいから。帰るぞ」

抗議の声を上げる妹達を無視して、クルリと背を向けた俺は歩き出した。その背にシェルパの不快な視線を感じながら。

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