勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第164話 バンディットの帰国

――バンディット視点

急いで国に戻った俺達にもたらされたのは驚きの情報だった。ラピス嬢がかつての勇者ブレイブその人だと言うこと。レブル帝国が勇者ブレイブを使って大陸中に混乱を巻き起こし、自国の拡大を狙っていること。そしてそのボルドール王国を討つために、レブル帝国が協力を求めていることなどだった。

「マジかよ……信じらんねぇ……」
「誰でもそう思う。妾も半信半疑といったところだ」

久しぶりの帰還を労うため、テラスで出迎えてくれたティティス陛下からその話を聞いた俺は、呆然とそんな言葉を吐いていた。

この国の危機を救ってくれた英雄。そしてボルドール王国の勇者であるルビアス達の師匠。ベヒモスと正面からやりあえる強さを誇ったあのラピス嬢が、まさか勇者ブレイブだったなんて。だが、驚きと共にどこか納得しているのを俺は自覚していた。確かに勇者ブレイブなら、俺達ぽっと出の自称勇者達よりも遙かに強くて当然だ。なにせ一度世界を救っている実績があるのだから。ラピス嬢の強さの秘密はそれで判明したが、疑問も残る。

「なぜ彼女は性別を偽っていたんでしょうか? それとも、女性に見えるだけで、本当は男とか?」
「偽っていた理由はわからない。だが、彼女は完全に女性のはずだ。妾も人を見る目はあるつもりだし、その者が本物の女性なのか、女装している男性なのかぐらいの区別はつく。何か余人には考えの及ばない事情があるのだろう……が、問題はそこではない」

ティティス陛下が言うとおり、ラピス嬢の秘密は確かに驚きだが、この際それは重要じゃない。確かめようのない話を本人不在の場所でああだこうだ言っても時間の無駄でしかない。それより今俺達が最も注意を払わなければならないのはレブル帝国の動向だ。

「レブル帝国の言い分が本当なら、ボルドール王国は魔族の侵攻で混乱している隙を突き、世界を混乱させる悪の王国と言っても良い存在だ」
「そんな事はあり得ないでしょう。魔族の被害が大きいのはボルドール王国も同じのはず。それに、ブレイブを……ラピス嬢を使って他国の戦力を削りたいなら、わざわざ他国の勇者をボルドール王国に迎え入れ、鍛え上げるなんて真似をするはずがない」
「その通りだ。レブル帝国の言い分は矛盾点が多すぎる」

良かった。どうやらティティス陛下と俺の考えは一致しているようだ。

「それで陛下。俺達バリオスはどう動きます?」

俺がそう訪ねると、ティティス陛下は不敵に笑った。

「決まっているではないか。レブル帝国の言い分など撥ね除ける。ラピス嬢達は我が国の窮地を救ってくれた恩人でもあるのだ。その恩人を裏切るような真似は出来ないな」
「陛下ならそう言ってくれると思ってました」

陛下の答えを聞いて俺は内心ホッとしていた。万に一つもないと思っていたが、仮に陛下がラピス嬢達を見捨てるようなら、俺はこの国を出て個人的に彼女達を助けるつもりだった。陛下がそんな考えを見通していたとも思えないが、正しい判断をしてくれて助かったぜ。

「レブル帝国の言い分は信用出来ない上に、奴等が何をやっているかは色々と情報が入ってきている。不確定だが、魔族と繋がっていると言う情報まであるのだ。そんな連中に手助けしようものなら、散々利用された挙げ句最後は我が国も飲み込もうとするはず。ならば、バリオスとしての方針は一つだ」

ティティス陛下の発言に備え、体が自然と緊張で固くなる。俺がゴクリと喉を鳴らしたのを見計らってか、ティティス陛下は口を開いた。

「レブル帝国がボルドール王国を追い詰めたいというのは、逆に考えれば、それだけボルドール王国が目障りだと言うことだ。ならば密かにボルドール王国と連絡を取り、かの国を支援する。恐らくレブル帝国は周辺国にも同じような内容で声をかけているはずだからな。それらの勢力に対して我が国が牽制すれば良い。腐っても大国ボルドールだ。レブル帝国と一対一の戦いになれば、むざむざやられるとも思えん」

その通りだ。それに、あのラピス嬢達がそんな状況に陥った国を、指をくわえて見ているとも思えない。彼女の力があるのなら、レブル帝国が侵攻してきても何とかなるはずだ。

「では陛下。俺達パーティーは……」
「我が国が参加を断ったとしても、すぐにレブル帝国が攻撃を仕掛けてくるとも思えない。まだ時間の猶予はあるはずだ。その間其方達には各国を巡り、我等と志を同じくする勇者達を集めるのだ。レブル帝国皇帝の野心は明らか。何としても奴等の暴挙を止めねばならん。頼んだぞ」
「任せてください。この世界の秩序を守るためだ。勇者の名に恥じない働きをみせますよ」

魔族だけでもうんざりしてるって言うのに、人間同士で争っている場合じゃない。早いとこレブル帝国とはケリをつけて、魔族だけに集中したいもんだぜ。

「では陛下。帰ってきたばかりですが、俺達はすぐに立ちます」
「うむ。で、最初はどこに行くつもりだ?」
「隣国でもあり、懇意にしている勇者アネーロの国、ベルシスですよ。奴が力を貸してくれれば百人力だ。安心して後ろを任せられますからね」

魔族領で一緒に戦った仲だ。一番に協力を求めるのは奴以外に考えられない。慌ただしくティティス陛下に別れを告げた俺達は、ろくに休む暇も無く再び国を後にした。目指すは南方にある国家ベルシス。ここからなら、それほど日数はかからないはずだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品