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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第146話 ボルドール国王

捕縛したスティードを閉じ込めた簡易式の檻は荷馬車に乗せられ、衆目に晒されながら王都まで運ばれる事になった。平民、貴族、兵士や騎士、あらゆる人間から軽蔑の目で見られたスティードは、今更ながら自分の境遇に気がついたのか、弱々しい声でマグナ王子に謝罪をし始めたものの、完全に無視されると開き直って罵倒し始めた。

「この恥知らずめ! 王位継承の正当性は私にあるのだぞ! 恥を知れ!」
「……父上は貴様を王太子と認めていたわけではないのだがな。継承権の順位は暫定的なもので、次期王としての絶対的な立場を確約するものではない。その程度も理解できんのか……」

あまりに五月蠅いので再び猿轡を噛まされたスティードだったが、その態度と顔色はわかりやすく不満を表していた。陸路で王都まで行くとなると、結構な時間がかかってしまう。普通の乗合馬車でも二週間はかかる距離だし、まして行軍しながらとなると更に時間がかかる。なので、俺とルビアスだけは王都へ先行して、受け入れ態勢を整える事になった。

久しぶりの王都は通りが閑散としていつもの賑わいがない。しかし黒騎士達が居なくなったためか、人々の顔に悲壮なものは感じられなかった。既に戦いの顛末は多くの人が耳にしているんだろう。俺達はそんな彼等を横目で見ながら、王城へと足を運んだ。

「これは……ルビアス様!」
「久しぶりだな」

城門の前にある兵士詰め所で歩哨を勤めていた兵の一人が、ルビアスの顔を見た途端駆け寄ってきて跪いた。恐らく顔なじみなんだろう。ルビアスはそんな彼に挨拶を返しながら、しばらく留守にしていた王城へと目をやる。

「今、城の中はどうなっている? 誰か貴族が纏めているのか?」
「いえ、今城内を纏めているのは騎士団長のタナックス様です。タナックス様は戦場より帰還した後、王都の守りを最小限にして、各地の治安維持のために騎士団を派遣しました」

タナックス……スティードを捕らえた時に撤退の指示を出していた騎士だ。ちょっと話して受けた印象だと、頭は固いけど誠実そうな人だったな。

「そうか。タナックスは今どこに居る?」
「城内で執務をなさっています。有力貴族のほとんどが逃げるか捕らえられるかしているので……」

マグナ王子についた貴族の大部分は黒騎士達によって殺害されているし、生き残りも王子と共に王都に向かっている最中だ。スティード派は国外への逃亡を図ったようだけど、受け入れてくれる国があるとも思えない。彼等を匿うと言うことは、次のボルドール王国国王――つまりマグナ王子の心証が悪くなる。受け入れたところで大した利益があるわけでもなく、デメリットしかないわけだ。

俺達は兵に別れを告げて城内へと足を進める。タナックスの話を聞いてからルビアスの様子がおかしかったので、チラリと横目で彼女の様子を窺ってみたら、ちょうどこちらを見ていたルビアスと目が合った。

「どうかした?」
「いえ……その。タナックスが昔と変わっていなくて安心したというか」

そう言えば、ルビアスは最近までずっと城の中で生活していたんだった。だったらタナックスと顔見知りでも不思議じゃない。

「知り合いだったんだ?」
「ええ、まあ。私に剣の手ほどきをしてくれたのがタナックスですので」
「へえ! じゃあ最初の師匠とも言える人なんだね」
「そうですね。ですから心配していたのですが……生きていてくれて安心しました」

そう言うルビアスはどこかホッとしている様子だった。

廊下を歩いていると、すれ違う度にルビアスに向けて跪く兵が現れるのには辟易したが、それも城内の一角にある執務室に到着するまでだ。見張りもないドアをノックし、返事と共に中に入ると、そこには見覚えのある男が驚いた顔で座っていた。

「これは……ルビアス様! それにラピス殿も……いつ王都に?」
「ついさっきだ。タナックス。お前のおかげで城は何とかなっているようだな。礼を言う」
「……勿体なきお言葉。せめてもの罪滅ぼしにと、つたないながらも文官の真似事などをやらせていただいています」

騎士団長と言うからには、普段はそれほど事務仕事をしていないだろうからな。しかし、そんな彼が踏ん張っているからこそ、大した混乱もなく王都が平穏でいられるんだろう。

「現在、兄上はグロム伯爵の軍と共にこちらに向かっている最中だ。お前には負担が増えるだろうが、各所に受け入れ体勢を整えるよう通達して欲しい」
「もちろんです」
「ところで……父上のことだが……」

その話題が出た途端、ハッキリとタナックスの顔色が変わった。沈痛な面持ちを隠そうともしない彼は、非常に言い辛そうに、ゆっくりと口を開いた。

「ルビアス様。陛下は……」
「……生きているのか?」
「生きてはいます。しかし……意識が戻る事は無いと、治癒士と薬師、双方の意見が一致しています」
「…………」

スティードが国政を好き勝手していたから何となく予想はできていたが、やっぱり国王はそんな目に合っていたのか。しかし生きていただけマシだと言える。最悪の場合は殺されていただろうからな。

「とりあえず父上に会いたい。今は何処に?」
「陛下の寝室です。ご案内致します」

タナックスを先頭に歩き出した俺達だったが、誰一人言葉を発しない。話せる雰囲気じゃないし、俺もルビアスになんて声をかけて良いのかわからなかった。もともと両親の記憶がおぼろげだし、育ててくれた祖父とは仲が悪かったから、肉親の情というのがいまいち実感出来ない。そんな俺が軽々しく慰めの言葉をかけるのは躊躇された。

城の最奥辿り着くと、そこは王の寝室だ。何人もの騎士が守りを固め、猫の子一匹入れない厳重さになっている。しかし騎士団長のタナックスと王女のルビアスが居るので、呼び止められることもなく俺達は王の寝室へ入ることができた。

「父上……!」

ベッドで寝ている一人の人物――それは確かに以前一度だけ見た国王その人だった。ルビアスが駆け寄り声をかけるが何の反応もない。体を強請ろうが頬を叩こうがピクリともしなかった。まるで死体のようだが、触れてみると体温がある。間違いなく生きているが、その眠りは不自然なものだった。

「治癒士や薬師は何と言っているのだ? 原因はわかっているのか?」
「断定はできていませんが、呪いではないかと。様々な魔法や薬を試したそうですが、彼等の力では改善しなかったようです。しかし、食事を受け付けないにもかかわらず衰弱もしないので、呪いである可能性が高いと……」
「そうか……」

つまり原因がわからなければ、王はこのまま死ぬまで寝たきりと言う事になる。国政はマグナ王子が代行すれば何とかなるだろうけど、娘であるルビアスは心中穏やかでいられないだろう。

「師匠。何か原因に心当たりはありませんか?」
「うーん……自信はないけど、ちょっと調べてみるね」

俺は一言断りを入れ、眠ったままの国王をまじまじと観察してみる。呼吸は穏やかで眠っているだけのように見えたが、彼の体からは少し違和感を覚えた。気を静め、ゆっくりと上下する彼の胸に同調させるように呼吸を合わせていく。彼の額に手を当ててゆっくりと目をつむり、普段自分の体の中だけで循環させる魔力に彼を巻き込んでいく。すると何か引っかかるような感覚があるのと同時に、不快感を覚えた。

この僅かに感じる不快感……間違いなく瘴気だ。俺はゆっくりと彼から体を離し、不安そうな表情のルビアスを見る。

「僅かだけど、体の中に瘴気による澱みがあるね。治癒士が使う浄化魔法にも解除出来なかったのなら、たぶん高位の魔族による呪いだと思う」
「魔族の……!? 解除出来ないのですか?」
「呪いをかけた本人が死ねば解除出来る類いだろうと思うけど……」
「解除出来るのですか!?」

期待しているルビアスから少し視線をずらし、俺は口を開いた。

「問題は、誰が呪いをかけたかわからない点なんだ。魔族を根こそぎ殺せばいつか正解に当たると思う。でも、かなり時間がかかるのは確かだね。だから国王陛下が元に戻るには、かなり時間が必要になるんじゃないかな」
「……そうですか。それを聞いて安心しました」
「……え?」

落ち込んでいるとばかり思ったら予想外の答えが返ってきて、俺の方が面食らってしまった。ルビアスはそんな俺に笑いかける。

「つまり魔族を倒せば万事解決ではないですか。世界を平和にすれば父上も元に戻る。我々のやることに変わりはありません」
「それはそうだろうけど……」

無理をしているのかとも思ったが、ルビアスはいつもと変わらない様子だった。

「……ルビアスは強くなったね」
「師匠達のおかげですよ。城以外の生活をしらない私だったら、みっともなく取り乱していたでしょうね」
「そっか」

苦笑交じりでそう言うと、肩を竦めながらルビアスがそう言った。

「父上の事はマグナ兄上にお任せして大丈夫でしょう。私達はなるべく早く魔王を討伐して、世界を平和にするだけです」
「そうだね。俺達にできるのはそれぐらいだしね」

いつの間にか成長していた弟子の姿に驚かされながら、俺は改めて魔王打倒を心に誓った。

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