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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第142話 黒騎士の長

――ライド視点

戦いはいよいよ本番だ。ラピス殿の活躍で敵の出鼻を挫くのには成功した。敵の士気は下がっているだろうが、まだ潰走するほど弱気にもなっていない。決定的な勝利を得るには、これから我々がどれだけ踏ん張れるかにかかっている。

敵の親玉であるスティードがこの戦場に来ている可能性は高い。間者の報告では出陣するスティードを確認しているし、奴がラピス殿の首を欲していることもわかっている。しかし、出陣したのが影武者であるという可能性も捨てきれない。その場合は敵の大将を倒して潰走させるという作戦自体が潰えるので、殿をラピス殿に任せ、我々は撤退する手はずになっていた。

だが、まだスティードがいるかどうかも確認出来ない時点で撤退など論外だ。出来る限り時間を稼いだ上で、敵の戦線を押し上げさせて隙を作り、ラピス殿がスティードを見つけやすいようにしなければならない。

「よし、騎馬隊は牽制に専念せよ! 魔法使いと弓兵は敵の先頭を集中攻撃! 歩兵隊! 私に続け!」
『おお!』

敵の先頭集団を蹴散らした見方の騎馬隊は、接近してくる敵の歩兵部隊へ接近すると、ぶつかるのを避けて左右に分かれていく。騎馬隊は突っ込んでくるものと言う常識と違う動きに敵が戸惑い、そこに魔法や矢の雨が炸裂した。

「ぎゃああ!」
「うがああ!?」

多くの敵兵が断末魔の叫びを上げながら倒れていく。苦しまずに絶命した者はまだ幸運と言えよう。運悪く中途半端な傷を負った者は、痛みにのたうち回ることになった。先頭を走っていた味方の長槍隊は、そんな彼等を容赦なく槍を突き立てていく。気の毒だと思うが、手を抜いたら自分が犠牲になる番だ。ここは非情に徹するしかない。

横に広がった我が軍は敵の前線を圧倒していたが、もともとの数が違いすぎるのだ。体力が尽きれば押し返されるのは目に見えていた。だんだんこちらの死傷者が増えて拮抗し初め、じわじわと味方全体が後退を初めていく。しかし、そこへ空の戦いに勝利した航空戦力が加勢に加わったことで、また味方が勢いを盛り返した。上空から槍やつぶて、投石などの攻撃で援護していた彼等も決して安全とは言い難い状況だ。なにせ地上からは矢や魔法がひっきりなしに飛んでくるのだから。

「当初の予想よりは善戦してるが、長くは持ちそうにないな……」

ラピス殿はスティードを見つけられただろうか? 彼女の実力ならやられる心配はないと思うが、それでも私は不安を隠せなかった。

――ラピス視点

空の敵をあらかた片付けた俺は、味方を援護するため敵のまっただ中で剣を振るっていた。と言っても片っ端から斬り殺しているわけじゃない。ギリギリ生き残れる程度の手傷を負わせて、敵に負傷者を後送させているのだ。前線で戦う兵士が少なくなれば味方への圧力は当然減るが、狙いは別のところにもある。彼等を運ぶために人手が必要になるからだ。武装した人間一人は結構な重量になるので、普通の人間が一人で運ぶのは無理だろう。最低でも二人は必要になる。と言う事は、一人を負傷させるだけで三人敵を減らせる事になる。もちろん、治療を終えた彼等は前線へと戻ってくるだろうが、その場合も問題が発生する。

負傷者を癒やすのは軍に同行している神官だろう。しかし、彼等の魔力も無限にあるわけじゃない。回復魔法を使えば使うほど精神力を消耗し、限界まで使えばその場で昏倒してしまうはずだ。つまり、怪我人を増やすのは敵の回復手段を奪う嫌がらせとも言えるのだ。そして最も問題なのは、一度痛い目に遭った人間の士気だ。さっき半殺しの目に遭った人間が、傷が治ったからと言って、同じパフォーマンスを発揮出来るだろうか? 答えは否。余程精神的にタフな奴を除いてまず無理だろう。回復魔法で体の傷は治せても、心の傷までは治せない。大半の人間は殺し合いはもちろん、戦場に立つという事自体を恐れるようになるだろう。

そんな嫌がらせの局地とも言える戦法で敵を引っかき回しつつ、俺はひたすら敵の動きが変わるのを待っていた。焦れたスティードが動き出すのを。

「きた!」

俺の首を取ろうと今まで群がっていた敵兵達が、潮が引くように引いていく。代わりに出てきたのは黒ずくめの一団。敵の主力とも言える黒騎士達だった。普通の兵じゃ足下にも及ばない実力者の集団で俺を倒すつもりなんだろう。

「小娘! 調子に乗るのもここまで――」

先頭にいた黒騎士が何やら喚いていたが、最後まで聞かずにその体を縦に真っ二つにした。驚愕の表情を貼り付けた周囲の黒騎士だったが、それらも立ち直る暇も与えず首や胴を切り飛ばす。コイツら相手に手加減など無用。一撃で確実に命を奪っていく。

「調子に乗りやがって!」
「殺してやる!」

激昂した黒騎士達は強化術を使って身体能力を底上げしようとする。見た目はほとんど変化はないものの、感じる気配がまるで別物だ。まるで体の中身が入れ替わっているような印象を受ける。

「これが強化術か。みんなから話には聞いてたけど、結構厄介そうな術だな」

だが、それはあくまでも一般の兵士相手の話だ。今の俺からすれば、もともと弱い連中が多少強くなったところで、なんの障害にもなりはしない。

「ふ!」
「ば、馬鹿な!? 強化しているのに……!」

気合いを入れ直した俺は、連中を強化前と同じ――いや、それ以上に速く斬り殺していく。何か喋る暇も剣を振り抜く暇も、防御する暇も与えない。俺の前に立った黒騎士は一人の例外もなく絶命していった。

――タナックス視点

「ええぃ! 何をやっているのだ! 相手はたった一人だろうが!」

馬上にあるスティード殿下は、一向に改善しない戦況に激怒していた。いくら動員された兵達にやる気がないとは言え、最初から押されっぱなし。全く良いところなしの状況が続けば、この我慢の足りない人だとこうもなろう。

それにしても、ラピス嬢の戦闘能力はどうなっているのだ? いきなり空中で我が目を疑うような威力の魔法を連発し、こちらの航空戦力は面白いように墜とされていった。あれだけの魔法を連発したのだから消耗しているかと思えば、今度は地上に降りて黒騎士達を圧倒するほどの剣技を披露している。強い。あれは間違いなく勇者を名乗るルビアス殿下よりも強い。このまま彼女が止まることなく暴れ続けたのなら、どれだけ味方に被害が出るかわかったものじゃない。黒騎士がいくら死のうが構わないが、騎士や兵士が死ぬのは出来る限り避けたいものだ。これは早めに撤退を視野に入れた方が良いかもしれない。しかしそれには――と、そこまで考えて、私は横で喚いているスティード殿下をチラリと見る。

大将という立場にもかかわらず、動揺や怒りを抑えようともしないその醜態に、思わずため息をつきたくなった。さて、どうやって説得したものか……。

「不甲斐ない奴等め! ……こうなったら仕方ない。出番だ、バルバロス!」
「!」

その呼びかけに反応し、今までピクリとも動かなかった黒騎士の長、バルバロスがゆっくりと前に出る。表情の一切見えない兜に加え、感情を抱かせない無機質な言動。その異様な雰囲気に圧され、私は思わず数歩後ずさっていた。

「あの忌ま忌ましい小娘の首をここにもってこい! お前になら出来るはずだ!」
「……小……娘……?」
「あのラピスという女だ! 貴様にも見えているだろう!」
「ラ……ピ……ス……!」

ラピスと言う名を聞いた途端、バルバロスから強烈な殺気が周囲へと漏れ出す。一体何がおこった!? ラピス嬢とこの男には何か因縁があるのか?

「ラピス……殺す……必ず殺す……!」

地獄の底から響いてきたような、恨みの籠もった言葉を残し、バルバロスは弾かれたように駆けだした。彼の乗る馬は、主同様に漆黒だ。禍々しさを感じる馬具を身に纏ったその馬は、主の意思と同調したように甲高い嘶きを残しながら、あっと言う間に前線へと姿を消してしまった。

後に残されたのは、呆然とした顔で佇む殿下と、事情のわからぬ我々だけだ。

「殿下……あの男はいったい……?」
「ふん、あれは私がある勢力から借り受けた男よ。精神に異常をきたし、捨てるしかなかった男を何とか使えるように処置したそうだ。おかげで会話もろくに出来んが戦闘能力だけは一級品でな。言ってみれば、肉で出来たゴーレムみたいなものだ」
「…………」

仮にも自分の命で戦わせる人間に対して何と言う言い草だ。一瞬、殿下に対する怒りが湧いたが、それ以上に気になる部分が冷静さを失わせなかった。ある勢力とは何だ? あのバルバロスという男といい黒騎士達といい、殿下はどこの誰から助力を得ているというのだ?

バルバロス……どこかで聞いたことがある名前だ。だがいったい何処で? 知っているはずなのに思い出せない。そんな気持ち悪さを抱えながら、私はラピス嬢に挑もうとしているバルバロスの背を見送った。

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