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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第136話 マグナ合流

ルビアスが自分の兄であるスティードとの敵対を明確にしたその日のうちに、国内最北端に位置し、ディエーリアが留まっているクリストファー家がルビアスの味方になると宣言した。誰も彼もが生き残りを賭けて慎重に動こうとした矢先の宣言は、日和見を決め込んでいる各地の貴族にかなりの衝撃を与えたようだ。

国内での人気も高く、自ら勇者として魔族との戦いの最前線で戦うルビアス。しかし彼女が基盤とするグロム伯爵の街スーフォアは、お世辞にも大勢力とは言えない、地方領地に過ぎない。集められる戦力など高が知れている。

それに対してスティードは国の中枢を自分の勢力で牛耳り、各地に及ぼす影響力は絶大だ。戦力もこちらと比較にならないほど多く、もともとの国力から考えても、動員出来る兵力は数万に及ぶはずだ。おまけに各地で暴れ回った黒騎士も加わっては、こちらに味方する者は極少数になると俺もルビアスも予想していた。

しかし、事態は俺達の予想を上回る。

「私、スタンレー子爵はルビアス様にお味方します!」
「マーシャル男爵家もお力添えしますぞ!」

まだ三日ほどしか経っていないというのに、こちらが思っていた以上に味方表明をしてくれる貴族が続出していた。それだけ彼等はスティードに煮え湯を飲まされていたのかとも思ったが、俺はある事に気がついて考えを改めた。

味方表明をした貴族の領地が南に――つまり、このスーフォアの街を中心にした範囲に偏っていたのだ。中にはクリストファー家のような例外もあるが、あれはディエーリアが直接手を貸しているのだから例外と考えてもいい。

味方する彼等の領地は中央から遠く、スーフォアの街から近いとなれば、敵対した場合俺達から攻撃される可能性があるとでも思ったのだろう。だが、それは考えすぎだ。こちらとしても味方でない勢力に対して警戒はするが、いちいち潰して回るほど時間も戦力もない。そんな事をするぐらいなら、スティードと決戦を行った方がマシだろう。

「兄上、ご無事で何よりです」
「二人のおかげでな。快適とは言い難いが、なかなか刺激的な旅だった」

予定通り、三日以内に合流出来たマグナ王子は、体を縛り付けていたロープを解かれながら疲れた口調で彼はそう言った。それに比べてカリンとシエルの二人は元気そのものだ。

「二人とも久しぶり……ってほどでもないか」
「そうね。でも顔を見られて嬉しいわ」
「ディエーリアはいないの?」

出迎えた俺達に笑顔を見せながら、この場にディエーリアがいない事に気がついた二人はキョロキョロと辺りを見回す。

「その話は後で。とりあえず食事を用意させたから、二人はゆっくり休んでくれ」
「そうさせてもらうわ。流石に疲れたし」
「空の上は退屈でしょうがなかったよ」

各地から戦力が集結しつつある城内は物々しい雰囲気だったが、二人は気にする様子もなく食堂に向かった。二人の姿を目にした騎士や兵士がヒソヒソと話しているのが目に入る。この街の人間ならともかく、余所から来た人間にとって彼女達は噂の的だ。勇者パーティーの一員としての名声は、思っている以上に影響があるようだった。

空の長旅で疲労しているマグナ王子は多少やつれて見えたものの、その目に籠もった力は鋭く、強い意志を感じさせた。一旦休めばいいとルビアスが促したが、彼は首を振ってそれを断る。

「時間が惜しい。敵とぶつかるまでに出来る仕事は全部終わらせないと駄目だ」

かつてグロム伯爵の血で汚れた応接室も今は綺麗なものだ。壊された家具は全て新品に入れ替えられ、貴族が客をもてなすのに十分な気品に溢れている。まだ真新しい家具の匂いがするソファに腰を下ろしたマグナ王子は、疲れを全て吐き出すような息を深く吐いた後、気合いを入れるように自らの頬を張った。

「さてルビアス。状況はどうなっている?」
「はい。こちらの味方は予想外に増えています」

マグナ王子の向かい側に座ったルビアスが一つ頷くと、心得たとばかりにグロム伯爵はテーブルの上に地図を広げる。それには自分達に味方をすると表明した貴族、それから糾弾してきた貴族、そしてまだ態度を明確にしていない貴族がそれぞれ色分けされて書かれていた。

「ふむ……。わかりやすいな」
「どう言う意味ですか?」

彼の発言の真意がわからず、俺とルビアスは揃って首をかしげる。そんな俺達を呆れたような目で眺めたマグナ王子だったが、気を取り直したように地図を睨み付ける。

「よく見ろ。この地図からは、大まかに分けて二つの理由を察することが出来る」
「二つ?」
「一つは……この周辺ってことですよね」

近くだと攻められやすいから味方をする……他に何がある? ルビアスの方をチラリと見るが、彼女も難しい顔で黙り込んでいるだけだ。

「それもある。だが、味方する貴族の爵位を見てみろ」
「……あ!」
「なるほど……そう言う事か」

マグナ王子に指摘されて気がついたのだが、こちらの味方をするのは爵位の低い――言い方は悪いが、身分の低い中小貴族ばかりだ。それに比べてスティードに与しているのは昔からの大貴族ばかり。つまり――

「立身出世を望む者ばかり……ですか」
「そう言う事だな。もともと力のない貴族達だ。お前に賭けて勝利すれば実入りも大きくなる。もちろん全ての貴族がそうだとは言わんが、ただの正義感だけで味方する連中ばかりではないと言うことだ」
「…………」

ルビアスの表情が強ばる。潔癖な性格の彼女だけあって、利益だけを求める貴族がゆるせないのかと思ったが、その不満を口に出すことはなかった。そんなルビアスに構うことなくマグナ王子は言葉を続ける。

「だが、考えようによってはいい機会だ。平時であれば出来ない事でも、明確な敵となったら今なら武力で排除出来る。我々が勝利した後、この国に蔓延る古い貴族は一層し、風通しを良くさせてもらおう」


冷たい笑みを浮かべるマグナ王子に、俺もルビアスも言葉がない。不利な状況に腐ることもなく、自分の望むように状況を変えようとする。これが本物の貴族かと、知らずに背筋が寒くなった。

(苦手だな……こういう人。俺が現役の時にもいたっけ)

笑顔を浮かべて暗殺者を寄こすような悪党には思えないが、まったくの善人でもなさそうだ。ルビアスの兄が自分の苦手な人種にとわかって、知らずに腰が引けていた。

「それで、こちらの戦力はどれぐらい集まっている?」
「今で約五千といったところです。と言っても各地からの寄せ集めですから、統一された軍事行動に期待出来ません」

国全体が有事の場合、最初に動くのは中央の騎士団だ。各領地の騎士や兵士はその地の守りでもあるが、本来の目的は戦力が到着するまでの時間稼ぎだ。しかしそれはあくまでも対外的な場合であって、今回のような内乱では事情が変わってくる。

補助的な役割をもって動く彼等を主力に据えねばならないのだ。普段顔を合わせることもない、烏合の衆と言ってもいい軍にまとまりなどない。こちらが不利になったらあっさり逃げ出す可能性は高いだろう。

「五千か……。戦力差は絶望的だな」
「ええ。ですが、逃げるわけにはいきません」
「当然だ。だが彼等を勇気づけるためにも、お前達には頑張ってもらわなければならない」

各地から集まりつつあるものの、こちらの戦力が増強されるのをスティードが黙って見ている理由は無い。こちらを叩き潰すため既に数万単位で軍の準備を始めているはずだ。対してこちらが心から信用出来るのはグロム伯爵の配下だけ。かなり心許ない。

「だったら、作戦次第ですね」
「師匠?」
「何か考えがあるのか?」

二人の王族に見つめられた俺はニヤリと笑ってみせる。

「色々と経験してますからね。まあ、聞くだけ聞いてみてください」

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