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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

弓兵の戦い方②

――シモン視点

ただの平民だった俺がお嬢様に拾われてから随分経つ。真面目だけが取り柄の弱々しいガキが、一端の騎士になれたのはお嬢様が目をかけてくださったおかげだ。もちろん形の上では領主様の配下と言う事になっているが、俺の忠誠はお嬢様一人に捧げられている。お嬢様のためならいつだって命を捨てる覚悟は出来ているんだ。だが、覚悟だけでどうにかなるほど世の中は甘く無い。命に替えても守ると誓ったのに、コボルト程度を追い払えなかったのだから。

「シモン! 頑張って!」
「お任せください! お嬢様は隠れて!」

必死で練習した剣だったが、初めての実戦だったためか、少しも当たってくれない。犬の顔をしたコボルト共は、こちらを与しやすいと本能で理解したのだろう。まるで嬲るように一人剣を振るう俺に石をぶつけたり、死角から斬りつけたりと好き放題やっている。奴等が最初からやる気なら、今頃俺とお嬢様は冷たくなっていたに違いない。

「はぁ……! はぁ……!」

息が上がってまともに動けない。気力で振り回した剣はお世辞にも鋭いと言えない動きで、簡単に弾かれてしまう。駄目だ。俺はここで死ぬんだ。どうあがいてもここから逆転の目はない。せめてお嬢様だけでも逃がしたいが、コボルト共はそれすら許してくれなそうだ。

「きゃああ!」
「お嬢様から離れろ化け物め!」

甲高い悲鳴を上げるお嬢様を背中に庇いつつ、決死の覚悟で最後の突撃をしようとしたその時、目の前に居たコボルト共の頭に矢が生えていた。グラリとゆっくり倒れていくコボルトの数は四匹。一瞬何が起きたか理解が及ばず、呆気にとられている内に残りのコボルト共も倒れていた。凄まじい腕だ。いったい誰が――と思っていると、馬に乗った何者かが近づいてくるのが見えて、慌てて剣を構え直す。何者かわかるまで油断は出来ないからだ。

「ちょっとちょっと! たった今助けた相手にそれはないんじゃない?」

現れたのは美しいエルフの娘だった。歳は俺と大差が無いように見えるが、エルフは長寿の種族だ。きっと見た目通りの歳じゃないんだろう。悪い奴には見えないし、どこか抜けたような印象を受ける。信用していいんだろうか? そう警戒していた俺だが、お嬢様はあっさりと彼女のことを信用したようだった。昔からお嬢様の人を見る目は確かだ。根が臆病なだけあって、自分に対して悪意を抱く人間に敏感な人だから、お嬢様が信用出来ると判断したなら大丈夫なんだろう。

突然現れたエルフ――ディエーリアは、驚いたことにゼルビスの勇者だと名乗った。勇者ディエーリアと言えばボルドール王国でも有名だ。世界のために勇者として名乗りを上げたルビアス王女ほどではないものの、そのルビアス様に力を貸すべく他国からやって来た義の人という印象を抱いている者も多い。なぜ彼女が一人でこんな場所をウロウロしているのかは謎だったが、なるほど、そんな人物ならこの戦闘力も頷ける。俺なんかじゃ逆立ちしても勝てないだろう。

成り行きで協力してくれることになったディエーリアは気さくな人物だった。少しも偉ぶったところがなく、お嬢様や俺とも気兼ねなく言葉を交わしてくれる、親しみやすい人物だった。その強さも相まって、この短期間にお嬢様も俺も彼女を頼るようになっていった。

そんなディエーリアだったが、時折怖い表情を見せる時がある。そんなのは大体スティード派に対する横暴を耳にした時。やはり勇者だけあって、理不尽な暴力や悪党を見過ごせない人物なんだろう。

逃げ出した街に戻ると彼女はお嬢様と俺に身を隠すように指示した。この街に巣くうスティード派を殲滅するために一人で戦うつもりなのだ。幸い、俺の実家はまだ無事だし、家族も口が堅くてお嬢様の居所がばれることもない。身を隠すのには打って付けだ。後は事が終わるまでここで息を潜めていれば万事解決するんだろう。しかし、俺の内心は複雑だった。

(ディエーリアの強さはわかる。でも、俺にも何か出来るんじゃ無いのか?)

俺はもともと、お嬢様の助けになりたくて――人助けがしたくて騎士になった。大事な人や、困っている人を助けてやれるように騎士になったんだ。それなのに辛いことだけ人に押し付けて自分は身を隠しているなんて、それはあまりに卑怯じゃないか? でもお嬢様を一人には出来ない。腰の剣に手が伸びては元に戻すを繰り返す。居ても立っても居られずにソワソワしている俺に声をかけてくれたのは、他ならぬお嬢様だった。

「シモン、行きたいんでしょう?」
「お嬢様! いえ、俺は……」
「あなたの気持ちはわかります。たとえ戦力としてお役に立てなくても、せめて見届けるぐらいはしたい。無力な私でさえそう思いますから。まして常に騎士たろうと心がけているあなたなら」

そうだ。お嬢様の言うとおりだ。俺の剣の腕は並以下だろう。でも、ディエーリアだって無敵じゃない。彼女が窮地に陥った時、何か役に立ちたい。せめて手助けぐらいはしたいじゃないか。

「行ってきなさいシモン。私なら大丈夫です」
「お嬢様……」
「ここに居れば奴らの目も届かないはず。ディエーリアの戦いぶりを目にすれば、きっとあなたの今後のためにもなるでしょう。自分の心に従いなさい」
「……ありがとうございます。お嬢様。行ってきます」

苦笑するお嬢様に頭を下げ、俺は家を飛び出した。

§ § §

――ディエーリア視点

「そろそろ騒ぎになってきたわね」

見張りを全て片付け、出てくる人間を片っ端から射殺してしばらく経つと、流石に連中も異常事態が起きていると理解したみたいだ。盾を前に、慎重に倒れた仲間のところに歩いてくる。しかしそれも次々と倒れることになった。なぜなら、私の攻撃が盾を貫いて連中の体に突き刺さり始めたからだ。まさか矢で盾を貫かれると思っていなかったのか、連中の動揺は相当なものだったと思う。面白いぐらいに狼狽えて、こちらも随分狙い撃ちをしやすくなったほどだ。

でも流石に数十人と仲間が射殺されたら、どこから攻撃されているかぐらいは判別出来たらしい。城の城門が開かれ、あっと言う間に武装した騎士が飛び出してきた。

「馬か……。しかも軽装みたいね」

防御が通用しないなら最初から防具を捨てれば良い――大胆な発想をする敵もいるらしい。この場合それが正解なんだろう……相手が私じゃなければ。

「ソル。お願いね」
「どのぐらいやれば良いのだ?」

誰も居ない空間にそう声をかけると、私にしか聞こえない返事が返ってきた。四大精霊の一角。地の精霊ベヒモスであり、今は私の相棒になったソル。彼の力を借りれば、連中を蹴散らすぐらい訳もない。

「時間ギリギリまで粘って。奴等の心に恐怖を刻みつけて」
「……承知した」

修行の結果、私はソルをほんの短い時間だけ現界させられるようになっていた。その短い時間でも、私の保有する魔力はほとんど持って行かれてしまう。魔力が完全に枯渇すると戦闘どころか歩くことさえ困難になるから、そのギリギリを見極めるのが難しい。

眼下には、集団でこの鐘楼に向かって来る騎馬の集団が見える。街の大通りを土埃を上げながら迫ってくるのはなかなか壮観と言えた。しかし、突如彼等の行く手を遮る者が現れた。赤みがかった全身を筋肉で覆い、口からは凶悪な牙。背中には見事な鬣。一目見ただけで死を直感させるその怪物の出現に、敵は大混乱に陥った。

「な、なんだこの化け物は!」
「馬が言うことを聞かない!」
「駄目だ! ここは一旦引け――」

彼等にとって幸いだったのは、あまり苦痛がなく死ねたことだろうか。混乱している連中を余所に、ソルは大地を蹴って突進する。一瞬で距離をつめたソルはそのまま勢いを殺さず、牙と爪を振るいながら連中の間を駆け抜けた。巨大な爪に馬ごと血飛沫にされる者。牙で上半身を食いちぎられる者。体当たりを受けて木の葉のように空中に舞う者。時間にすれば一秒もかからないその一瞬で、騎士達の大半は物言わぬ肉塊へと姿を変えた。

「グルルル……」
「ひっ!?」

通り過ぎたソルが足を止めて振り返る。鮮血に濡れた猛獣の姿を目にした騎士は抵抗する気力すら失ったのか、錯乱した馬から振り落とされ、無様に股間を濡らすだけだった。

「くっ……! もうキツくなってきた……」

ソルによる蹂躙は続いている。大半の騎士は最初の攻撃で排除できたものの、中には我先にと逃げだし、脇道へ姿を消した者も居る。ソルには限界まで連中の排除を頼んであるけど、一人一人虱潰しに出来るほど時間的余裕はない。既に大通りは負傷した連中と、騎士だった何かがぶちまけられた惨状になっている。殲滅――とは言わないまでも、かなりの数を減らせたのだから良しとしよう。

(ソル。戻って)
(承知)

荒れ狂うベヒモスは一瞬で姿を消し、生き残り達はこれ幸いと今来た道を物凄い速度で逃げていく。涎や涙、あるいは小便を撒き散らしながら逃げる様は見てて滑稽だ。連中には心の底まで恐怖を刻みつけることが出来ただろう。

「……あれ?」

終わったと思った瞬間足から力が抜けていた。自分で考えていた以上に消耗が激しかったらしい。長居は無用。こちらの居所がばれているのだから、こんなところに居続けたらいつ襲われるかわかったものじゃない。簡単に上れた鐘楼を苦労して降り、地上に戻るまでには、結構時間がかかってしまった。

「はぁ~……疲れた。二人と合流してさっさと休みたい――」

そこまで口にした瞬間、耳元で何かが空を切る気配があった。反射的に前転して身構えた私の目の前に、一人の騎士が剣を振り抜いた姿勢で立っていた。

「黒騎士……! まだ逃げてない奴が居たの!?」
「全員が臆病者だとでも思ったか? どこの誰だか知らんがここまでやってくれたんだ。礼ぐらいしておかんと気が済まんだろう」

殺気を纏わせた黒騎士。この状態で相手にするのは正直キツい。でもよく見ると、奴も五体満足というわけじゃなさそうだ。口の端からは血が流れ、足も引き摺るように動いている。剣を持つ手は震え、額には汗の粒がいくつも浮いている。

「ふん! この程度の負傷はどうってことない。エルフと剣で勝負して負けるはずがないからな。仲間の仇は討たせてもらう!」

悪党なはずなのに義理堅い事だ。その義理堅さを外にも広げれば平和に暮らせただろうにと呆れながら、私は腰の剣を抜いた。踏み込んできた黒騎士の一撃は鈍い。万全の状態なら避けてそのまま斬り捨てられるレベルの攻撃だけど、今の状態じゃ受けるだけで精一杯だ。

「しぶとい! いい加減に観念しろ!」
「嫌なこった! 私は諦め悪いのが心情だからね!」

一撃受ける度にこっちの体力が削られていく。受け損なった攻撃で体のあちこちを怪我している。ソルの力はもう借りられない。流石にマズい! こうなったら一か八か賭に出て、負傷覚悟で相手の急所を狙うしかない。大怪我しても死ぬよりマシだ。覚悟を決めた私が動こうとしたその時、突如後ろから雄叫びが聞こえてきた。

「うおおおおおああ!」
「な――」
「なんだ!?」

剣を構えて突進してきたのはシモンだった。彼は傷つく私に目もくれず、殺気を撒き散らしている黒騎士に剣ごと体当たりしていった。驚いた黒騎士はシモンに致命の一撃を加えようと剣を振り下ろしたけど、シモンの踏み込みはそれより僅かに早い。黒騎士の剣がシモンの肩を軽く裂いた時、シモンの剣は黒騎士の体に吸い込まれていた。

「がはっ! こ、このガキ……!」
「くたばれー!」

黒騎士を突き刺したシモンは足を止めず、そのままの勢いで教会の壁へ激突した。口から血を溢れさせた黒騎士は恨みを込めた目をシモンに向け、何事か呟こうとしたものの、言葉の代わりに出てきたのは自らの吐血だった。ガクリと全身の力が抜け黒騎士が絶命する。荒い息を吐いたシモンが興奮に震える手で剣を引き抜くと、黒騎士の体は力なく床に崩れ落ちた。

「だ、大丈夫か?」
「……おかげさまでね。シモンのおかげで助かったよ」

思いもしなかった援軍に思わず笑みがこぼれた。シモンはあまり戦えない人だと思っていたけど、ここ一番で行動出来る覚悟があるなら、彼はきっと、この先良い騎士になれるに違いない。

「肩を貸すよ」
「ありがと。それにしても疲れたわ」
「あの獅子の精霊はあんたが呼び出したのか? 凄かったな。流石勇者だ」
「帰ったら詳しく話してあげる。ヴェルナにもね。ついでに、シモンが頑張ってたことも話さないと」

自分の活躍を話されるのが恥ずかしいのか、シモンは顔を赤くしていた。でもその横顔はどこか誇らしく、自分が戦える自信に満ちていた。

だけど、勝利の余韻に私達が浸れる時間は僅かに過ぎなかった。なぜなら、痛む体を庇いつつ、ゆっくりとシモンの実家へと帰った私達を待っていたのは、ヴェルナが攫われたという衝撃の情報だったのだから。

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