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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第128話 弓兵の戦い方

――ディエーリア視点

馬を下り、二人の足に合わせて歩きながら、私はゆっくりと街道を北上していた。時々現れる魔物を見つけ次第始末していたことで、二人はますます私の実力に感心したようだった。そのおかげで彼等の口は軽くなり、次第に打ち解けられるようになっていた。

「ふーん……。奴等、そんな事までやってるんだ」
「ええ、酷いものです。私の住む街はまだマシなようですが、力で制圧された街の住人は過酷な目に合わされていると聞いています」

道中、私はヴェルナの口からスティード派の兵に関する話を聞いていた。彼等がボルドール王国全土でどれほど好き勝手に振る舞い、悪事に手を染めているのかを。盗みや暴行は当然として、誘拐や強姦、焼き討ちに虐殺。考えられるありとあらゆる悪事に手を染めているようだった。奴等が狡猾なのはその手口。先に反抗する者を見せしめ的に略奪し、自分達に従順なものにそれを知らしめたのだ。自分達に逆らうとお前等もこうなる――と、圧力をかけるために。自分の欲望を満たしつつ、反抗しそうな者の手綱を掴む。悪知恵だけは働く連中みたいだ。

(だったらスーフォアの街でも殺しておけば良かったな。ま、わざわざ引き返して殺すほど暇じゃないし、次からは遠慮しないでいいか)

「あの、ディエーリア?」
「ん?」

旅をする仲間なのだからお互い敬称はつけないと決めてるけれど、彼女はいまだに敬語をやめようとしない。無理もない。ずっと箱入りで育てられたのだから。普通に話してくれれば良いと言っても、彼女の普通は敬語なのだから治りようがなかった。それはともかく、そんなヴェルナが恐る恐るといった感じで私の顔を覗き込んでいた。彼女の身長は低く、平均的な人族より上背のあるエルフの私より頭一つ分低い。ちなみに、シモンと私は同じぐらいの背丈だ。

「なんだか怖い顔をしていますよ。何か気に障る事でもありましたか?」
「ああ、スティード派のやり口を思い出してただけだよ。別にヴェルナ達に怒ってるわけじゃないから安心して」
「……そうですか」

ホッとしたように表情が緩んだのも一瞬。彼女は再び緊張したように私を見る。

「ディエーリア。クリストファーの領地からスティード派を追い出すと言いますが、具体的にはどのように?」
「……適当に痛めつけて逃がしたところで、今度はもっと数を増やして襲いかかってくるか、また別の街で悪さをするだけになる。だったら容赦する必要は無いよね」
「…………」

ゴクリ――と、シモンが喉を鳴らしたのが聞こえてきた。暗に皆殺しと言っている私に、ヴェルナも強ばった表情をしている。でも彼女もそれ以外に方法がないのを解っているんだろう。何かを言いかけたものの、反対するようなことはなかった。

「とりあえず、連中を排除した後は様子見だね。私の力でどうにかなる間はヴェルナを守ってみせる。無理ならちゃんと逃がしてあげるから安心して」
「――! は……はい。ありがとうございます。ディエーリア」

私は決して街を――ヴェルナやその父親、そして街の住民全てを守れるとは言わなかった。どう頑張っても一人で出来る事には限度がある。仮に私がラピスちゃんぐらい大規模な攻撃魔法が使えたとしても、街に暗殺者を放って住民を暗殺でもされたらお手上げだ。絶対に手が回らない。だったら、残酷でも最初から守れる人数を限定するしかない。

(本当はみんな助けて欲しいって言いたいんでしょうね。ごめんね。そこまで強くなくて)

俯いたヴェルナに私が出来る事なんて、心の中で謝ることだけだった。

§ § §

二人と出会ってから数日、私はヴェルナ達が住んでいた街――シルバニア――に辿り着いていた。道中手に入れたフードを深く被り、ヴェルナは街をキョロキョロとせわしなく観察している。同じく鎧を脱ぎ、見を腰に差してフードを被っただけのシモンも似たような感じだ。

「人が歩いてない……」
「お嬢様。それどころか商店がみな閉まっています」
「スティード派が占領した街って、みんな同じ感じになるのね」

人通りの完全に途絶えた街の様子はまるでゴーストタウンだ。誰もが家に閉じこもり、自分と家族の安全のために息を殺している。たとえそれが、奴等の気まぐれでいつ壊されるかもしれない平穏でも、彼等には他にどうすることも出来ないんだろう。

「ディエーリア。街には辿り着きましたが、ここからどうするんですか? まさか正面からぶつかるつもりじゃ……?」
「そのまさかよ。敵に反撃の暇を与える事無く、ド派手にやってみるわ」

本来、精霊使いである私には、ラピスちゃんやシエルのように大規模な破壊魔法は使えない。精霊魔法は補助的なものが多く、一対一での戦いや敵の妨害、そして味方の援護に適した魔法だから。でも私にはソルがいる。大地の精霊である彼の力を借りれば、一軍を蹂躙することも可能なのだ。

私達はまず、下町にあるシモンの実家を頼ることにした。二人の安全のため、ここに隠れてもらうつもりだったからだ。ハッキリ言って戦闘になったらヴェルナとシモンの二人は足手まといでしかない。シモンは戦いたそうにしていたけど、彼には命に替えてもヴェルナを守れと説得したから、家から飛び出してくるなんてしないだろう。そして一人になった私は、日が落ちてから城を一望出来る鐘楼の上に現れていた。

人の寄りつかなくなった教会の鐘楼はこの街で一番の高さを誇る。狙撃するにはもってこいの場所だった。

「一応見張りはいるみたいね。そこまで馬鹿じゃないか」

考え無しに狼藉を働く無法者の集団だったとしても、その程度の知能は持ち合わせているみたいだ。そりゃそうか。ゴブリンだって巣穴に見張りぐらい立てるし。ここから城までは数百メートルはある。そこから城の見張りを射貫こうというのだから、普通に考えたら無理な話だろう。でも私なら別だ。

エルフはもともと森の中で弓を使って狩りをする種族だから視力が良い。おまけに修行で腕力と視力が何倍にも強化されている。問題無く射抜ける距離だった。背中には矢のギッシリと詰まった矢筒があり、足下には予備の矢筒がいくつか転がっている。ここで出来る限り敵を射抜き、敵を混乱させるつもりだった。

「ふぅ……」

呼吸を整え、一本の矢をゆっくりとつがえる。矢の先にはヘラヘラとだらしない顔で談笑する兵士の姿があった。呼吸を止めたその一瞬、私は頭を空っぽにして手を放す。すると弦に勢いよく撃ち出された矢は物凄い勢いで加速し、眼下の標的に向けて一直線に飛翔した。カッ――と言う、乾いた板に何かが刺さるような小さな音をたて、放った矢は男の側頭部へと吸い込まれた。

一瞬で絶命した男は頭から血を吹き出し、グラリと体を傾けて倒れていく。体面にいた男は一瞬何が起きたかわからなかったみたいだけど、すぐに事態を把握したのだろう。慌ててその場から逃げようと身を翻したものの、次の瞬間には同じように頭から矢を生やして倒れることになった。

「開戦の狼煙にしては静かだけど、騒ぎが広がる前に出来るだけ数を減らさないとね。さ、次々いかなきゃ」

覚悟はしていたつもりでも、やはり恐怖心は完全に消せない。私は額に流れる一筋の汗を煩わしく拭い去りながら、次の矢へ手を伸ばした。

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